やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

百貨店、アパレル、航空会社… コロナで死ぬ業種をどこまでゾンビ化させるべきか


 百貨店を例にとると分かりやすいのですが、そもそも中国などアジア圏からの旅行者が日本でお買い物をして帰るという「インバウンドによる底上げ」で命脈を保っていた業種は、コロナウイルス禍による訪日旅行客の激減と共に死ぬ運命にあります。

 もはや駅前の百貨店は高級食料品を売るデパ地下以外は死に瀕しており、これらのテナントは各々の業種のカテゴリーキラーによって市場を蚕食されて回復するめどが立ちません。前年比割れするのが当たり前になり、駅前再開発においてすら、百貨店の誘致そのものが禁忌となってしまいました。残念なことですが、業態全体がライフサイクルの終わりを迎え、そこへ通販の興隆で更なる苦境に陥ったところ、インバウンドに活路を求めたもののそこの命脈も絶たれたと言えます。

 ところが、この「死ぬ業態」である百貨店は、往々にして地元金融機関や財界とのかかわりが深い企業も多く、良きにつけ悪しきにつけ「百貨店事業 救済プラン」なるものが出回ります。死ぬと分かっていて追い貸しをしたくない金融機関側と、休業後の売り上げ回復を見据えて最後まであがこうとする百貨店側との綱引きの果てに、本来百貨店とはほぼ無縁の投資家筋にまで「地元百貨店の救済にご協力をお願いします」というお触れが回るというのは古き良き日本経済の名残なのでありましょうか。

 そこに、衣料品テナント問題や、化粧品の売り上げ激減による収入減少に苦しむ各社の減賃交渉や退店に向けた話し合いが始まります。百貨店というドンガラからすれば、入居して収益を分配してくれる契約で頑張るテナントの脱落は死活問題で、とはいえ売上がほぼゼロになる店をオープンしていて成り立つはずもありませんので、雇っていた店員ごとその地域、その百貨店の売り場から撤退する圧力はどうしても強くなります。計画を見る側もそういう事情は良く分かっているので、彼らの言う「脱コロナ後のV字回復」という悲壮だけど勇気ある事業計画には100gの説得力も持ちえないわけです。

 これは、大手百貨店とされるイトーヨーカ堂や三越伊勢丹HD、エイチツーオー、高島屋、そごう・西武G、Jフロントなど、主要23社の百貨店の総売り上げが2019年に6兆円割れでおおいに話題になった今年は、おそらく2020年(20年度ではなく、20年1月から12月まで)では半減以下の2兆7,000億円ぐらいにしかならないのではないかと危惧されます。危惧というと頑張ればなんとかなりそうな雰囲気はしますが、しかし実際には本当に潰れます。
(こう書くと、イトーヨーカ堂は大手百貨店のカテゴリーに入れるなという苦情が取引先などから寄せられるわけですが、そういうところがお前らあかんねん)

 こういうところに休業補償もへったくれもないのですが、とはいえ突然死を起こして大量の失業者が路頭に迷うよりはワンクッションあったほうがいいのは確実なので、少なくとも5月いっぱいはどうにかするようです。しかしながら、その先に待っているのは自主廃業、私的清算に向かう百貨店の大量閉店であることは言うまでもありません。

 オンライン販売に活路を見出せるアパレル業界はまだ良いという見込みもあったのですが、蓋を開けてみると4月第2週までの状況で言えば昨年対比6割減という大手アパレルもあり、売上減少というレベルではなく10年以上積み上げてきた現預金を全部吐き出しても足りないぐらいの勢いで20年度上半期予算がヤバい状態です。まあ、4月オールで店舗閉めているところはほんと売上ゼロですからね。

 

アパレル業界で連鎖倒産の恐れ!?  昨年対比63%減/ネット販売も大幅マイナス/在庫のダブつきはどう処理する?/店舗面積の縮小は免れない?
 
 この辺はいわずもがなで外出自粛になり、不要不急の出費を生活防衛のために削る家庭が増えているだけでなく、そもそも外出が減ればそれだけ化粧をする機会も綺麗な服の需要も太りゆく体形に合わせたスーツの仕立ても大幅に減少するのは当然です。そしてこれは、帽子や指輪などのアクセサリーも直撃して、不要不急の消費が見事に全滅したことになります。

 これがいわゆるコロナ後の「リベンジ消費」でどこまで持ち直すのかは不明です。このまま感染者が減ってくれて夏場に人通りが戻ることになれば、ビヨンドコロナ流の新しい消費の潮流が生まれるのかもしれませんが、しかし少なくともインバウンドはそう簡単には回復しません。訪日旅行者の需要を当て込んでいたこれらの業種も、また観光業や輸送・航空業界も回復しない需要の前に立ち尽くすことになります。

 国家として、潰してはいけない産業とは何かを改めて考え直さなければならない時期がやってくるわけですが、例えばここで全日空やJR北海道が経営破綻して、国民生活に大きな支障をきたすことは考えられます。人の移動を担ってきた産業の死は、そのまま地域の死に直結するので最優先で救済しなければならないかもしれません。

 しかしながら、我が国の政治では、どの産業を活かし、どの産業を見殺しにするかというジャッジはあまり合理的には行いません。救急の現場では、助からない人を見捨てて価値のある人を救うトリアージが行われますが、産業政策においては縦割りな部分もあるために価値判断に基づく優先順位を決めるということが極めて困難であることは言うまでもありません。

 結果として、政府系金融機関である日本政策金融公庫や商工中金による無担保無保証で低利または事実上の無利子の特融がばら撒かれて、多くの企業がこれにぶら下がることになります。あくまで貸金であって、元金は返済しなければならないのですが、潰れないで利益を出し続けることができればいずれ返済されるカネである一方、いわゆる普通の貸し手である民間の銀行などの金融機関からすれば政府系金融機関が不利な貸し出し条件でもどんどこ貸し付けを増やせば、自分たちの仕事が圧迫されますので融資のハードルは物凄く下がって、結果としてモラルハザードというかバイオハザードのようなゾンビ企業が返せないカネを借りるために腐った両手を挙げて金融機関に群がるという事態になることは容易に想像がつきます。

 何度も繰り返し書いておりますが、一番最初に死ぬのは地方経済です。それを支える地方金融が海外でのデフォルトで抱えたハイイールド債その他が不良資産になったそのとき、ある種の突然死を迎える金融機関がその地方の経済の弔鐘を鳴らすことも充分に予想されます。

 いわゆる休業補償はコロナ感染症対策としては必要な部分もあるかもしれませんが、これはあくまでいま起きていることに対する縫合策に過ぎないのであって、次に来るのは地方経済を崩壊に導く大倒産時代と大量失業に対する積極的な国策を打ちうるのか、という点です。私は公的資金を地方金融に注入しつつ、地場産業の一定の補助を入れて再編成をするほかないと思うのですが、ここには出口戦略が必要です。いずれにしても、地方経済を担う主要産業は公的資金を注入して国有化を進める必要があるはずですが、そこに政治が関わって乏しい合理性で間抜けなことをやるとあっという間にグズグズになってしまうのは一連の地方創生の各施策と同様です。

 それでも、日本人は救われなければならず、生き残らなければなりません。政府、政権批判は必要な分だけしっかりと行い、安倍晋三さんや周辺の人たちの良く分からない動きはおおいに馬鹿にしつつも、その先の日本において自治体の再々編や主幹産業の国有化も含めた大胆な政策を打ち出せるよう後押しするべきではないかと思います。

 また、ついでにマイナンバーを普及させて国民の情報が国民自身で管理できるようにしたり、納税や資産管理の仕組み、あるいは健康情報の利活用なども含めた大胆な情報化政策を後押しすることも必要でしょう。各種証明や手続きを簡略化できる電子政府を促進したり、医療機関同士の連携をきちんとした情報化プラットフォームのうえに行うことや、正社員と非正規の垣根を取り払えるような働き方改革に資する情報化投資も進め得ると思います。

 単にゾンビを救うために公的資金を注入するのだという話をしてしまうと、それこそ失われた10年と差して変わらない進歩しない日本の政策を繰り返すことになりかねません。やはり必要なことは、今後の日本のあるべき姿を考え、人口減少に見合った自治体の再々編や財源の在り方なども見直しつつ、今後日本は何で食っていくのか、そのために基幹産業はどういうものであるべきで、そこにはいかなる政策や教育、地方経済・都市経済のモデルを構築するのかを問い直されるべき時期が来ているのでしょう。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.295 コロナ禍で変わらざるをえない産業、プライバシー、キャリアなどをしみじみと語ってみる回
2020年4月28日発行号 目次
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【0. 序文】百貨店、アパレル、航空会社… コロナで死ぬ業種をどこまでゾンビ化させるべきか
【1. インシデント1】続・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行とICTとプライバシー問題の行方
【2. インシデント2】「ビヨンドコロナ」時代のキャリア診断
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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