やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ヤフージャパンが検索エンジンをNEVERに乗り換えでやらかし行政指導のあちゃー


 これはやってしまいましたなあ。

総務省、ヤフーに行政指導 位置情報等をNAVERと試験共有

ヤフー、位置情報410万人分を周知せず韓国IT大手に提供…総務省が行政指導

 関係先からは「山本一郎と峯村健司が悪い」と名指しで悪口を言われましたがノーノー私じゃありません。

 もっとも、検索エンジンを従来のGoogleからNAVERに移すという話が聴こえてきていた時点で焦げ臭さはみんな感じていたでしょうから、内部で有志がこりゃあかんとなった後に旧ヤフー側からはかなり事情説明も来ていたと伝わってきていたのもヤバさの認識はあったのでしょう。

 裏を返すと、そもそもじゃあなんでお前ら困難を乗り越えヤフージャパンとLINEを経営統合したのって話に立ち戻り、言われているほどシナジーも出ず、カニバリしていた事業統合や廃止は進めたもののさしたる事業機会の増大もなく微妙な状態のまま現在に至っています。ヤフーからすれば、LINEの人たちが経営の主体に出てくるにあたってお手並み拝見の面はあったのかもしれませんが、本件も元はと言えばLINEらしい「やっちゃえよ」のノリで突き進んでみたら心ある内部からの情報が出て、結果的に総務省から怒られに発展したことを鑑みるにカルチャーの違いというかポストマージャーが上手くいってなさそうな雰囲気がします。

 それでも、ダマテンで個人情報の中核とも言える位置情報をサービス切り替えに当たって流用しちゃったってのもさすがにお粗末で、問題をやらかすにしてもそこじゃねえだろという気持ちが強く致します。いくら上手くいってないからと言って、あんまりなんじゃないでしょうか。

 関係先の誰に伺ってもただただ「仕切れてないよなあ」というレベルの話に終始するのであって、そこに何かもの凄い漆黒の巨悪があるぞとかいう内容ではなく、ノリでやってみたら燃えましたという話であって、せめて国内系の検索エンジンを含むプラットフォーム事業として国民に選択肢を用意するにしても、やらかしの程度がしょうもなさすぎて取材していてこれほど張り合いのないのもないよなあと思うわけです。

 この程度の経営で日本を代表するネットサービス大手二社の経営統合をやってのけたのだというのもなかなかしんどいところで、他の海外大手プラットフォーム事業者がいいとはまったく思わないけどお前らもなんなんだと言われても仕方がないところです。

 統合による事業価値がなかなか増大せず、話題や役割の大きさの割に投資家の期待が集まらず、また利益を産み出せなかったのはやはり国内市場でのガリバーの地位からほとんど海外に出ていく事業を産み出せなかったからで、その国内事業もヤフーとLINEおよび周辺ビジネスのID統合が進まないことで顧客基盤の深堀りがむつかしかった側面はあろうかと思います。さらに、中華アクセス問題があったうえで、越境プライバシールール(CBPR)の策定・安定稼働も困難であるとなると、もともとの経営統合はなんだったのか、見通しが甘すぎたのではないか、その結果として、(彼らの能力からすれば、本来は)やらんでもいいことをやり、結果的にやらかしとなり、怒られが発生するという流れになるのかなとも思います。古くはファーストサーバーのデータ全損のときも「何でこの組織は割とイケてるはずなのに時折とんでもないことをやらかすんだろう?」とみんな思ってたんじゃないですかね。

 だって、LINEなんてコアコンピタンスがメッセージングアプリだけだったじゃないですか。それをスーパーアプリ化しようとして、証券や保険を含む金融に行ったり、コンテンツに出たりいろいろ取り組んで道半ばのところでヤフーと一緒になったところで、ショッピングも金融もこれ以上どうやって国内で積むんだって話になります。

 一時期、アローラさんがスライドしてきて海外に打って出ようとしたヤフーが少し躍動するかなと思ったあたりが期待のピークだったんじゃないか、と振り返ってみて思います。

 本来、ヤフーとLINEが経営統合の果てに目指すべきものは、国内の消費者向けに選択肢を用意するという話だけじゃなく、本来は、国内か投資先かは問わず充分な国内市場をゆりかごに海外に打って出られるサービスの設計や取り回しに未来を定めたほうが良かったんじゃないでしょうか。もちろん、アリババ(Alipay)やショッピングと金融へのシフトは国内収益基盤を固めるうえでは大事だったのでしょうが、そこまで国内市場に大きな成長余力はありませんでしたからね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.416 ヤフーが総務省から行政指導された一件をあれこれ考察しつつ、微妙な生成AIの活用事案や悪質なネット広告詐欺が増えつつある状況を憂える回
2023年8月30日発行号 目次
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【0. 序文】ヤフージャパンが検索エンジンをNEVERに乗り換えでやらかし行政指導のあちゃー
【1. インシデント1】生成AIをナイーブに活用する事案が増えそうな件
【2. インシデント2】「ようつべ一人勝ち」とネット広告詐欺はいい加減消費者問題の中心に据えないかという話
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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