やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

無駄に混迷する都知事選、都知事・小池百合子が迎え撃つ堀江貴文、宇都宮健児の勝ち筋


 というわけで、東京都知事選が2020年6月18日告示、7月5日投開票で予定されております。

 そもそも東京オリンピックが開催される前提で都知事・小池百合子さんが2月ごろに前倒しで都知事選を行う的なことを言っていたのですが、相変わらずその場のノリで適当に喋ってしまっただけだったのでありましょうか。

 都知事選については各党目玉候補を担いで国家イタリアをしのぐ予算規模を持つ巨大都市東京の舵取りを狙う… と思いきや、自由民主党は候補者選びの段階から陥落、立憲民主党も以前から「蓮舫が立つのでは?」と言いながらまったく本人にその気なしということで、大前提のところから非常に寒い状況になっています。

 自民党と言えばまさに自民党・幹事長である二階俊博さんが早々に小池百合子さんと握ってしまい、この状況にムカついた官房長官の菅義偉さんが自民党都連とつるんで独自候補の擁立に動くも有力候補の説得に失敗。某お騒がせ自民党都議を担ぐ話はあったものの、都議本人が落選後の国政進出・東京小選挙区での擁立を求めて「そんな枠はねえ」ということで沙汰止みに。ここまでは、誰も悪くないんですよね、小池百合子さんに勝てる候補者の「格」の問題ですから。

 一時期は、血筋正しいテニスプレイヤーが登板するのでは、あるいはお茶の間でそこそこ名前の知れているスポーツキャスターが「東京オリンピック専用ザク」状態で出馬するという触れ込みの話もありましたがいずれも玉砕。さらにはスポーツ解説者を擁立する話も出て、一時期は調査票に名前が載るほど本人も乗り気だったようですが、蓋を開けてみるとまったく票が取れないようだということで見送りになってしまいました。

 個人的には、いくら自民党といえども都知事選においては単品の知名度と実績で勝る小池百合子さんが相手で、しかもコロナウイルス対策でまだ余裕がある都税を見越し大見得を切らんがばかりの大盤振る舞いを都民に対して行ったところで外形的な知事支持率は70%を回復。全体的に都道府県知事や自治体首長の支持率は回答者の特性上高めに出るとは言えどもなかなか盤石です。個人的には豊洲市場への移転問題から東京オリンピック開催を巡るすったもんだで意志決定から外されまくった小池百合子さんのどこがいいのか悩むところはあるのですが、世情からすると400万票超えも目されるほど「強い知事」を担ってしまっているというのが実態です。

 ここへ、文藝春秋もある種意地もあって小池百合子さんのカイロ大学「首席」卒業にまつわる経歴詐称問題をぶん投げてきているわけですけれども、おそらくそこまでドカーンと吹き飛ばすところまではいかないでしょうということで、自民党・公明党としても厭戦ムードになるのもやむなしであります。

 もちろん、公明党は某副知事人事で旧怨もありつつ都議会議席確保のためにも適切な距離をしっかりと保っているところで、東京都においては自公が必ずしも一枚岩ではない、というところに非常に揺れるものがあります。

 しかしながら、自民党都連としては、政治の道理として「大負けと分かっていても、歯を食いしばって独自に候補者を立てなければ浮かぶ瀬もなくなる」という別の問題を抱えています。ここで自民党本部の二階俊博さんや選対の下村博文さんが「小池と握ったから」といったところで、目の前の都議会でさんざん小池百合子さんと対立して頑張ってきたところをハシゴ外されていいのかという論はもちろん、非常に独立独歩の気風の強い、ある種の一国一城の主的な自民党都連の結束のためにも負け承知で頑張らないといけないのだろうという力学は働くんですよね。さてどうなりますか。

 そして、N国党改め「ホリエモン新党」として微妙な門出を果たした立花孝志さんが立候補表明。また、堀江貴文さんも出馬観測が強くなっているようで、5月末に売り出した微妙政策本を300万円の供託金などプロモーション費用だぐらいのつもりで打って出る様相です。得票も、80万票ぐらいはとるのではないかという事前予測もあり、勝てなくても知名度と存在感を稼げればよいというノリで打って出てきております。これでボリス・ジョンソンやトランプさんのようにうっかり勝ってしまうとホリエモン都知事が誕生してしまいます。立花孝志さんは途中で降りると記者会見で言ったようですが、告示日後に死亡以外で選挙を降りることはできないことは知らなかったみたいです。

 他にもいろいろツッコミどころはありますが、なにぶんNHKへの業務妨害と、政党の器を利用した貸金は出資法違反ということで捜査の手も順調に伸びているところで立花孝志さんと堀江貴文さん、そしてなぜか出馬する小池百合子さん(偽)とが織り成すハーモニーがいかなる旋風を巻き起こすのか興味津々です。個人的には、堀江貴文さんが勝ちさえしなければ面白おかしく選挙戦を眺めるだけで楽しいのではないかと思っておるところですが、まかり間違って、ってのがあるのが選挙なのですよね。

 そして、立候補表明をしたのは、あの人権派弁護士として名高い宇都宮健児さんです。何しろ最高裁判所で過払い金訴訟をまさかの大勝利で勝ち取り、ワープア待ったなしの弁護士業界がチェーン店化するかのごとき状況に持っていった人物であり、また、元日弁連会長です。

 前々回は存在感を示したものの舛添要一さんにダブルスコアを喰らってぼろ負け、次こそはと臨んだ選挙では野党統一候補として期待された鳥越俊太郎さんへの左翼・現状批判票一本化の荒波にもまれて事務所に「降りろ」の誹謗中傷イタ電が殺到して涙ながらに出馬見送りというドラマもありました。

 それもあって、担ぐ政党は敢えて作らず、どこの政党からも推薦を貰わずに独自選挙に打って出たのが宇都宮陣営で、見る限り金権腐敗政治にまみれた東京都政を解決するサンダース的存在として宇都宮さんがどこまで票を伸ばせるのかというのは関心が深いです。舛添さんにはダブルスコアで負けたとはいえ、一応は100万票にギリギリ手が届かないところまで野党支持層の票は掘り起こせたという実績があります。だいたい投票率55%ぐらいなら左翼票は一塊100万票なんですよね(蓮舫・山本太郎両氏の推移を見ると)。

 ただし、政権批判や権力批判については宇都宮さんおよび周辺人脈はもの凄い能力を持っていると思うのですが、日弁連会長だったころの宇都宮さんはICT化は遅れるわあんまりうまく中がまとまらないわで現役弁護士からの評判はさほど高くなく、批判者として優れているけど為政者としては理想主義的過ぎてアカンのではないかという人物評がどうでるのか、興味深いところではあります。

 そして、今回も立憲民主党は静かです。独自候補、考えないんでしょうか。考えないんでしょうね。なんかこう、沈滞した感じが可哀想だなと思いつつも、左翼界隈ですら主導権が取れなければ、この党はどうやって党勢を盛り上げて浮かび上がっていこうとするんだろうと他人事ながら本当に心配になります。特に支持者というわけではありませんが、頑張ってくれないと政治が良くならないのでうまく引き締め直して前を向いて欲しいと思います。

 あとは余計な候補が立たなければ、ディフェンディングチャンピオンである小池百合子さん、面白ノリで信者商売全開にしたい堀江貴文さん、そして左翼一本化がうまくいってワンチャンあるかどうかの宇都宮健児さんとでの争いになります。個人的には今回も50億円をかけた東京都知事選ガチャはハズレしか出ねえぞと文句のひとつも言いたくなるところではございますが、もしも自民党東京都連が自民党本部と喧嘩して、まさかの堀江貴文支援に回るとか、あるいはコロナウイルス禍で投票率がべらぼうに下がって燃える批判票をかき集めた宇都宮健児さんが躍進するのかといった期待もないでもありません。嫌だけど。

 や、もう全員嫌だなと思うんですが、人柄として宇都宮さんが素晴らしくてもろくな都政にならなさそう、劣化版トランプで思いつき政治して大変なことになって最後は放り投げそうな堀江さん、さらにいまだ野心満々で脳なし側近政治するぐらいしかコロナ・五輪後の展望もない小池百合子さんと、これもう誰も投票したくないんですよね。

 英・チャーチルも良く言ったもので、「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」という、独裁政治待望論にならない程度に駄目な政治家を東京都のトップに据えなければならないというのが一番嫌なところですかね。もっと他にマシな奴はいねえのかよ、と前回の選挙でも叫んだ記憶がありますが、それもこれも、まともな政治家を育ててこなかった東京都民に対する罰ゲームなのだろうと弁えて、粛々と審判のときを待ちたいと思います。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.299 都知事選どうよという話をしつつ、訳が分からないトランプ大統領VSツイッター本社のあれとか、セキュリティ対策ビジネスの闇とかに触れる回
2020年5月30日発行号 目次
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【0. 序文】無駄に混迷する都知事選、都知事・小池百合子が迎え撃つ堀江貴文、宇都宮健児の勝ち筋
【1. インシデント1】トランプ大統領VSツイッター本社、意味が良く分からないけど譲れない戦いが勃発
【2. インシデント2】セキュリティ対策というなにか闇のようなもの
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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