本田雅一
@rokuzouhonda

メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」より

主役のいない世界ーーCESの変遷が示すこと

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.012(2018年1月12日)からの抜粋です。




2年前、Consumer Electronics Associationのトップであるゲイリー・シャピロが基調講演でCEAの名称変更を発表した。CTAとは「Consumer Technology Association」である。もともと“電機”をテーマにした活動をしていたCEAだが、そこにクラウドを通じたネットワークサービス、それに自動車やさまざまな電動の乗り物といったモビリティが加わり、さらにはモバイル通信技術の発展といったものも絡み合い、家電という枠組みでは包含できないテーマが増えてしまったからだ。CTAとなった主催者はCESという名称のままでショウを主催しているが、その内容は単一の商品を改善していくことではなく、社会全体、あるいは人々の生活をテクノロジーでどのように変革するか? がテーマになっている。

その変遷を追いかけてみると、次のように捉えることができるだろう。

“電気”の力で、日々の生活をもっと“楽”に
“電気”の力で、日々の生活をもっと愉しく豊かに
“コンピューター”の力で、日々の生活をもっと愉しく豊かに
“モバイル技術”で、日々の生活をもっと便利に、愉しく、豊かに
“あらゆるものをネットにつなげ”て、ライフスタイルに変革を
“多様な技術をネットワークでつなげ”て、社会全体を変えていこう
“知・情報の共有と分析”で、社会全体の効率を上げよう
“溢れる情報を整理”して、社会全体の効率をさらに上げよう

このように変化してきたCESだが、今年、どのようなショウになっていたかと言えば、最後の1行に“5G”というモバイル通信が超高速・広帯域・低遅延を実現し、モビリティを含めた社会全体をネットワーク化していくというビジョンが明確になったことだろうか。「“5G時代”を見据え、移動体を含めたネットワーク化された社会の構築」が現在のCESの姿である。

その結果、出展社の構成も変化した。毎年のように来場者数が増えてきたCESだが、一方で主役も変化している。たとえば筆者がCESに通い始めた2000年ぐらいは、フィリップスと日本の家電メーカーが主役だった。例えばソニー、松下、JVC、東芝、日立、三菱電機、シャープ、パイオニアなどはプレスデーに発表のコマを持ち、45分のプレスカンファレンスと15分の移動時間を数珠つなぎに回るのが本当に大変だった。

そのころはちょうどマイクロソフトとインテルがCESに力を入れ、パソコンが家電製品の仲間入りを始めた時期だ。IT系の筆者だった僕は、パソコン業界の動向を探るためにCESに行き、そこで家電メーカーの発表会に出席。文化の違いに驚きながらも、デジタルメディアの技術革新が進むうち、パソコンに求められていたメディア機能の多くがデジタル家電になっていく様子を目撃していた。当時はドッグイヤーだったIT業界と、ゆったりと改良や品質向上に取り組む家電の世界は、あまりにも文化が違っていて驚いたものだ。自動車関連はカーオーディオとカスタム施工が中心で、会場前の駐車場ではオーディオインストーラがカスタマイズした車を披露したり、その場で即席の改造施工競争をしていたのである。

家電の多様性とPCの汎用性のせめぎ合いが相互に影響している様子を見ているうち、メディアのデジタル化は半導体企業やソフトウェアプラットフォームを持つ企業を主役にしていった。ソニーやパナソニック以外の日本メーカーが主役から脱落したのは、あくまでも家電という機器の部分に強みを持っていたからだ。それは強みでもあったが、時代の変化にはついていけない。サムスン、LGはそこに付け込んだが、主役なのかと言えば残念ながらそうではない。

ではどこなのか? 自動車なのか? というと、実のところ自動車が主役というわけでもない。また家電メーカーが主役ではないということでもないのだと気付いた。

今の時代の主役はいないのだ。あえて言うならば、クラウドを支配する者が主役となっていくのかもしれない。かつて“家電”のひとつと数えられるようになっていたパソコンが、今は仕事や道具のためのツールになっているのと同じ理由である。

以前はパソコンに新しいソフトウェアをインストールすることで様々なことができるようになった。今でも変わらないように思えるが、実際には新たなアプリケーションはパソコン用ソフトではなく、クラウドの中に生まれている。

使用するデバイスは、そのクラウドの中に生まれているアプリケーションを覗く窓やインタラクションを取るための道具でしかない。パソコンからスマートフォン、タブレットへと向かったのは、その価値に可能な限りシンプルにアプローチするためとも言えるだろう。

そのとき、その場にもっとも相応しいデバイスでクラウドに溶け込んだアプリケーションを操ることができる。AndroidでもiPhoneでも、好きな道具を使えばいい。そういう世界にすでになってきているため“最高のデバイス”は、そのときによって異なり、その人の目的や趣向によって異なる。主役がいない世界になってくるのだと思う。

 

本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」

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2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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