古い枠組みから脱するための復活の鍵は「ストリート」

高城未来研究所【Future Report】Vol.508(2021年3月12日発行)より

今週は、北九州にいます。

いまから30年以上前、月に何度も北九州に出向いていたことがあります。
当時、バブル最中の日本では、テーマパークブームが巻き起こり、小倉経済を支えていた新日鐵の有休地を再利用しようとする動きがありました。

そのプロジェクトに関わっていた僕は、米国ユニバーサル・スタジオの誘致を薦めてましたが、結局、独自のテーマパークを作ることになります。
それが、「スペース・ワールド」です。 

明治時代に操業を開始した官営の製鉄所を前身とする八幡製鉄所は、日清戦争、日露戦争に勝利した日本の基幹産業で、清からの賠償金によって大幅拡張。
その後、第一次世界大戦で大幅に増えた鉄鋼需要に応え、戦争特需によって小倉の街の発展に大いに寄与します。

日本を代表する製鉄所が小倉に作られたのは、炭鉱と中国から鉄鉱石を輸入しやすい地の利にありました。
このような大陸と九州北部や山陰山陽との関係は2000年以上変わってないことが伺え、いまもこの地域出身の政治家は、日本中枢に深く関与しているのが大変興味深いところでもあります。

昭和に入り、官営製鉄所が中心となって民間業者と合同して日本製鐵(日鉄)が発足。
太平洋戦争以前は、日本の鉄鋼生産量の過半を製造する国内随一の製鉄所になり、小倉の人口も10年で倍増し80万人を超えるまで大きくなりました。

そして敗戦後、一旦壊滅状態に陥りますが、復興の「傾斜生産方式」が導入されたことと、多数の天下りを受け入れ、中央政権に近かったことから復興金融公庫が多額の援助を行い、一時的に持ち直すも極度なインフレが進行し、経営はなかなか安定しません。
その後、地の利もあって朝鮮戦争特需により完全復活。
1960年代に黄金期を迎え、小倉の人口も100万人を突破します。
一方、当時の福岡の人口は、まだ60万人足らずで、地方の小都市に過ぎませんでした。

ところが、1970年代初頭をピークに、急速に衰退します。
その理由は、石炭から石油へとエネルギー転換が起こり、次々と炭鉱が閉鎖。
八幡にあった製鉄所の高炉も、次々と火が消えることになります。

そして80年代後半、この有休地を再利用しようとはじまったのが、先に述べたテーマパーク・プロジェクトでしたが、当時、よく覚えているのは、半官半民同然の新日鐵から「スペース・ワールド」プロジェクトへ出向してきた大半の人は、東大卒のエリート高齢者ばかりだったことです。

とにかく、彼らに話しが通じません。

LAのユニバーサル・スタジオまで視察に行って、ダグラス・トランブルが作った「バック・トゥ・ザ・フューチャー・ライド」試作機を見せてもらっても、まったくピンと来る様子はありません。

僕はダグラス・トランブルに頼み、70mmフィルムを60コマで撮るショースキャン方式の独自アトラクションを「スペース・ワールド」に作ることを提案しましたが、そもそも誰もダグラス・トランブルを知りません。

「2001年宇宙の旅」や「未知との遭遇」、「スタートレック」に「ブレードランナー」を手がけ、アカデミー科学技術賞を受賞した世界一のSFXスーパーバイザーを知らないで、どうやって「スペース・ワールド」を作るのか?

それなりに予算はあるのに、官僚エリートシステムから誰一人として抜け出せず、結果、僕も早々に切り上げ、この仕事を通じて仲良くなった人たちを頼って、LAに移住します。
結局、広告代理店やテレビ局に大金をせしめられながら、どうにか開業にこぎつけますが、数年後にはもう閉園が囁かれるようになりました。
今日、その姿はもうありません。

一方、福岡は北九州の衰退に反比例するように繁栄します。
戦前、九州の行政的中心地は熊本で、最大都市は北九州市でしたが、1970年代に入り、屋台などの食文化の高さと活気があるライブハウスを拠点とする音楽シーンに牽引され、若年層が福岡に集まりました。
あわせて新幹線が開通し、空港から街が近いこともあって空路が活性化。
これらにより、福岡が急速に台頭し、今日の九州を代表する都市に成長するのです。
2019年に実施された地域ブランド調査による魅力度では、福岡市が全国27位と上位だったのに対し、北九州市は全国100位圏外となるまで差が開いてしまいました。

かつて、「エリート」が集まり、地方最大の都市だったのに衰退した北九州。
そして、「ストリート」が牽引し、九州最大の都市に成長した福岡。

古い枠組みから脱することができない北九州は、日本の未来に思えてなりませんが、復活の鍵は、エリートよりストリートにある、とこの地を訪れるたびに思えてなりません。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.508 2021年3月12日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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