津田大介
@tsuda

中国在住フリーライター・ふるまいよしこ氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

後を引く反日デモの余波

津田:日本と中国のケンカ——ということで言うと、今回の反日デモでは、「9月18日」という日付がカギを握っていたんじゃないかと思うんです。

1931年から1932年にかけて「満州事変」が起き、現在の中国東北部にあった旧・満州を日本が制圧しました。その発端となった「柳条湖事件」が起きたのは、1931年9月18日。中国にとっては忘れがたい日でしょう。

過去にもこの日、反日デモが何度か起こっていると聞いたことがあります。

実際、今回も125都市で反日デモが行われたと報じられました。[*14]

9月18日を境に、現地メディアの論調やデモの雰囲気で何か変わったところはありましたか?

ふるまい:私個人は確かに「18日をピークに止めるだろうな」というイメージを持っていました。実際、ぴったり止めましたね。

私の住んでいる北京では19日の朝、北京市当局が市民の携帯電話にショートメッセージを一斉送信し、終了宣言したんですね。

「愛国への情熱をほかの理性的な方法で表現し、抗議活動のために大使館付近には来ないように」と。[*15] これを受けて街は通常どおりになっていきました。

まあ、そもそも「なんでお前らが終了宣言するんだ?」って話ではあるんですけど(笑)。

津田:反日デモの影響はひとまず落ち着いたのでしょうか。

ふるまい:いえ、その影響が必ずしも落ち着いたとはいえません。中国・広州の週刊新聞「南方周末」[*16] はその後、「理性的愛国」というテーマで特集を組んだんですね。

この特集では、日本企業や日本人が受けた被害にかなり紙面を割く予定で取材していたらしいんです。でも、前日夜に検閲された結果、大きな記事が4、5本削られ、「ほかの記事に差し替えろ」と命令されたんですよ。

しかし、どうしても記事が足りなかった。すると2本だけ戻ってきたんですね。ただ、それを載せる時に、大幅な修正が入りました。そのうちの一つが日本人暴行事件に関するものです。

自転車で中国旅行中の日本人青年が、雲南省で起きた地震の救援活動に行き、そこで反日の人たちに襲撃されたことが9月17日にわかりました。[*17]

それを報じる記事から、「日本人青年が襲撃された」という部分が削られ、「いい日本人が雲南省に行って救援活動しました」という内容に変えられたんです。まるで何事もなかったかのように。

日系企業が今回受けた損害を取り上げた部分もほとんど削られ、「日本企業は今後、寒流に遭うであろう」と、そんな記述に変えられました。

ですから、18日が過ぎたからといって、すべてが元に戻ったわけではないですね。21日の今日、私が北京のユニクロに行ったら、店舗のロゴはまだ赤い布で覆われ、[*18] 隠されていました。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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