津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

TPPで日本の著作権法はどう変わる?――保護期間延長、非親告罪化、匂いや音の特許まで

(※この記事は2012年12月31日に配信されたものです)

新政権をスタートしたばかりの自民党が、TPP交渉参加への方針をめぐって揺れています。TPPは交渉参加国間で2013年10月の合意を目指すといわれており、日本の参加表明の期限は2013年早々だという話も。参加するのか否か、遅々として議論が進まないのは、秘密協議であるTPPの情報が開示されないためと言われています。国民にとっても同様、政治家にとってもTPPは謎のベールに包まれた存在になっています。そこで今回は、これまでに明らかになったTPPの知財分野の情報を総ざらい。2012年12月、ニュージーランドで開催された知的財産権に関する国際的な反TPP会合に出席したMIAU事務局長の香月啓佑(@kskktk)に話を聞きました。

 

結論から言うと「わからない」

津田:2012年12月28日、自民党の石破茂幹事長がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加について、来年夏の参院選までに党の方針を決めることを明らかにしました。[*1] 自民党はTPP推進に意欲的だった民主党の野田佳彦前首相に対し、[*2] 「“例外なき関税障壁の撤廃”を前提とする限り交渉参加に反対」と慎重な姿勢を政権公約に掲げていたはずが、[*3] ここにきて交渉参加に前向きな意見も出始めているようです。ただ、党内には依然TPPに反対する声も多く、同日、有志議員180名以上が政権交代後初めてとなる「TPP参加の即時撤回を求める会」の会合を開催。このままではTPP交渉参加の期限とされる2013年早々に間に合わないでしょうが、各国の交渉妥結後に加入する可能性も残されている、といったところです。[*4] 周知のとおり、TPPとは環太平洋地域の国々による経済自由化を目的とした経済連携協定で、[*5] 現在11カ国が交渉のテーブルについています。そこで扱われる21分野 [*6] の中に、著作権をはじめとする知的財産権(IP)条項が含まれていて、何やら密室で協議がされているようだと。そこで先日、僕が代表理事を務めるMIAU(一般財団法人インターネットユーザー協会)[*7] とthinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)、[*8] そしてクリエイティブ・コモンズ・ジャパン [*9] の3団体合同で、TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム「thinkTPPIP」[*10] を立ち上げました。ちょうどその頃、ニュージーランドで開かれた各国の反TPP団体・アクティビストのネットワーク会議「NZ デジタル・ライツ・キャンプ」[*11] にクリエイティブ・コモンズ・ジャパンやMIAUから数名が派遣されたわけですが、香月さんはそのうちの1人です。ぶっちゃけ、TPPの知財条項をめぐる今の状況ってどうなってるですか?

香月:結論から言うと「わからない」んですよ。もちろん、TPPで交渉されている21分野の中に知的財産が含まれていることは以前から報道されていますし、日本の外務省が公開している資料 [*12] にも明記されています。ただ、具体的な協議内容については一切表に出てこない。なぜかというと、TPPは近年の国際通商交渉の慣例に倣い、秘密協議が貫かれているんですね。TPP交渉参加国の一つであるニュージーランドの外務貿易省がウェブサイトで公開している文書 [*13] によると、交渉国間では秘密保持について合意がなされていると。「全参加国は交渉文案や各政府の提案、それに付随するあらゆる資料を秘密扱いにする」「これらの文書は、TPP協定の発行後4年間、協定が発効に至らない場合も最終ラウンドから4年間は公表してはならない」という内容のもので、日本の野田前総理も国会答弁の中で「TPP交渉中のテキスト及び交渉の過程で交換されるほかの文書を秘密扱いとする旨の記述が掲載されていることは承知しております」とこの文書の存在を認めています。[*14]

津田:秘密協議なのは知ってたけど、交渉内容を4年も公表しないんですか!? 今、TPPに否定的な政治家や国民の最大の不満は「情報開示が不十分」だという点です。でも、すでに交渉に参加しているニュージランドですらそんな状況なら、もし日本が交渉への参加を表明したとしても情報開示は期待できない、と。

香月:ええ、残念ながら。ただし厳密に言うとまったく秘密だというわけでもなくて、交渉に参加すれば当然ながら政府関係者は条文案にアクセスできますし、実は、ステークホルダーの農業従事者や著作権権利者団体といった各分野の利害関係者は説明会に招かれるらしいんですよ。先日ニュージーランドで行われた第15回ラウンドでは、200以上の団体から280名以上が説明会に登録したほか、[*15] 先日行われた「thinkTPPIP」のシンポジウムでも米国から600人ものステークホルダー(利害関係者)が参加しているという話が出ました。[*16] まあ、彼らにも秘密保持が課せられますから、一般の国民に情報が下りてくることはほとんどないでしょうね。

津田:利害関係者を招いて話を聞いてるわけだから秘密協議ではない――進めている側はそういう意識があるのかもしれないですね。でも、それは幅広い意見を聞いてる国民の声のヒアリングではないし、MIAUみたいな消費者側の団体も呼んでもらえない。この知財分野のTPP問題、結局は権利者の利益を優先して交渉することになりそうですよね。

香月:本当に納得いかないですよね。MIAU――というか「thinkTPPIP」が主張しているのもそこなんですよ。僕たちとしては、TPPへの参加そのものに反対しているわけではない。関税撤廃などの規制緩和を進めて自由貿易を推進するという経済政策は、新自由主義的な観点からするとある種の既定路線と言うこともできます。その部分については「thinkTPPIP」は口を出す気はなくて、実際「thinkTPPIP」の中でも意見が分かれています。ただ「thinkTPPIP」の中で共通していることは、協議の密室性と知財条項の内容に危機感を抱いているということです。まず第一に、TPPの公開交渉化。どうしても出せない情報は仕方がないとして、せめて現時点での条文案だけとか、今どこで誰がどんな話をしているのかは開示してほしいですよね。もしそれが無理な場合は、少なくとも知財条項をTPPの対象から除くことを参加条件にしてほしいと。そう政府に求めていくのが「thinkTPPIP」の役割ですね。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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