高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

気候変動がもたらす望まれない砂漠の緑地の皮肉

高城未来研究所【Future Report】Vol.435(2019年10月18日発行)より

今週は、タール砂漠のオアシス、ジャイサルメールにいます。

大きなインドのなかで、最大の面積を誇るラジャスタン州は、広大なタール砂漠を擁していますが、この地が砂漠になる前は、偉大なる文明の地でもありました。

それが、インダス文明です。

インダス文明は、インド、パキスタン、アフガニスタンにまたがるインダス川に沿って栄えた文明で、一番古いメヘルガル期は、紀元前7000年前までに遡ります。
なかでももっとも栄えていたのは、紀元前2500年から2100年前後と推測されており、この時代にモヘンジョダロやドーラビーラなどの巨大都市が生まれました。

しかし、インダス文明は滅びます。
その理由は、紀元前2000年を前後して起こった気候変動が、豊かだったこの地を不毛にしてしまったからに他なりません。

現在、みっつの気候変動説によるインダス文明の崩壊の要因があげられています。

もともと大西洋に広がっていた低気圧帯が、一時北アフリカと同じ緯度まで南下し、さらにアラビア・ペルシア・インドにまで及んで雨をもたらし、緑豊かなインダス文明を形成していました。
しかし、この低気圧帯が北上し、インドに雨をもたらしていた南西の季節風も東へ移動して、インダス文明の栄えていた土地を現在のような砂漠に変えてしまいました。
これが、低気圧の変動による第一の説。

もうひとつは、モンスーン変動説です。
当時、地中海から西アジアにかけて冬モンスーンが弱く乾燥化が起き、夏モンスーンが激化して、砂漠化してしまったという説。

そしてみっつめが、海面が現在よりも2mほど高かったことから、海岸線に近いインダス文明の人々は海上交易などを行っていた海洋民でしたが、気候変動による海面低下により生活が変化し移住を即され、都市が荒廃した説などがあります。

いまでもどの説が正しいのか、また複合的要因なのかは定かではありませんが、豊かだった土地は砂漠になっていってしまったのは間違いありません。

しかし、今年は異常気象から砂漠に雨が降り続いたため、砂漠が緑地に再び変わりつつあります。
緑が多い砂漠は、実に不思議な光景です。

困るのは、砂漠を見に来た観光客や観光業の人々。
そこで、今度は草を抜き、観光客が喜ぶ砂漠を人為的に作り上げたのです。
これを愚行と呼ぶ人も絶えません。

どちらにしろ現在、巨大だった古代都市は、見る影もありません。
緑地に変わりつつある荒野と、歯抜けにあるテーマパークのような人為的な砂漠は、
気候変動が驚くべき速度で地球全体の環境を変えていると教えています。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.435 2019年10月18日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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