小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

「骨伝導」のレベルが違う、「TREKZ AIR」を試す

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年7月6日 Vol.179 <個性とはなにか号>より

頭蓋骨に振動を与えて音を聴く「骨伝導」は、元々補聴器に使われてきた技術だが、これを使って音楽を聴くというソリューションは以前から何度も試みられている。例えば枕に骨伝導アクチュエーターを仕込んで寝ている際に音楽を聴こうとか、スイミング中に音楽を聴こうとか、色々な応用が効く技術だからだ。

かく言う筆者も、過去何度か骨伝導スピーカーのレビューをしたことがある。一番古いのが2004年の「東芝プライベート音枕」だ。

・スピーカー界に革命!? 東芝プライベート音枕〜アイデア次第でいろいろ使えるスピーカー〜(AV Watch)

発想は面白かったのだが、いかんせん枕に寝っ転がっただけではアクチュエーターと密着せず、本当に蚊の鳴くような音しか聞こえなかった。

そこから10年余、2016年にスポーツ用として開発された日本コンピュータ・ダイナミクスのCODEO(コデオ)を試した。

・外でも安全に音楽を聴きたい! 骨伝導CODEOとJBLのAmbient Awareを試す (AV Watch)

この製品は音量感はあったが、音質的には中音域に集まりすぎで、やっぱり基本的には補聴器に近い技術の延長線上にあるのかなと思わせる製品であった。そこから4年、また新しい骨伝導ヘッドホンが登場した。AfterShokzというベンチャーの「TREKZ AIR」である。


・AfterShokzの「TREKZ AIR」


・専用ポーチも付属

 
昨年TREKZ TITANIUMというモデルが発売されているが、TREKZ AIRはその後継機にあたる。国内代理店はFocal Pointで、ネットショップの価格は17,880円となっている。

 

大げさ感のない軽量な作り

骨伝導ヘッドホンは、耳穴を塞がないために、ジョギングなどでは安全性が高いと言われている。また一般のドライブユニットと違い、防水・防滴性が高く作れるというのもポイントである。

しかし音質の方は、どうしても蚊の鳴くような音か、AMラジオみたいな音質しか実現できておらず、そうまでして音楽を聴くほどでもないというところからなかなか出る事ができなかった。だがこうしてわざわざご紹介することにしたのは、TREKZ AIRは音質面で革新的な進化が感じられたからである。

製品としては、既存製品と同じように、両脇にアクチュエーターを配したヘッドバンド型となっている。バンドを頭の後ろに回して挟み込むスタイルだ。後頭部にかなり余裕があるので、髪を結んだ女性でも不自由はないだろう。


・アクチュエーター部

 
バンドは耳に引っ掛けるような形状になっているが、アクチュエーターは耳穴には入れず、耳穴の前の皮膚にくっつける格好だ。したがって耳に引っ掛けると言うよりは、耳をバイパスしてアクチュエーターの真後ろでテンションをかけるための機構と考えた方が素直だろう。重量わずか30gで、重さの大半はアクチュエーターなので、ランニングしてもずり落ちる心配はない。


・アクチュエーター部に厚みがないので、「変なもの付けてる感」はない

 
右耳の後ろにあたる部分にコントローラ部がある。ボタンとしては、電源とボリュームアップボタン兼用の「+」ボタンと、「-」ボタンしかない。USB充電端子もこちら側だ。左耳の後ろにもまったく同じ形状の部分があるが、ここはおそらく全部バッテリーだろう。連続使用時間は6時間で、駆動力が大きいアクチュエーターを使う割には、意外に長持ちする。


・耳の後ろにボリュームコントロール

 
左側アクチュエーター表面には、通話応答ボタンがある。仕様としては一般的なBluetoothイヤホンと同じなので、通話も可能だ。防水防滴機能は、IP55準拠。水中では使えないが、陸上での利用でちょっと雨に濡れた、水道で洗ったぐらいでは問題のない性能となっている。


・左側に通話応答ボタン

 

実用性が出ると手放せない

TREKZ AIRの音質の特徴は、高域の伸びがいいという事だ。これまで骨伝導ヘッドホンはこもった音だったので、音楽を聴くとどうしてもチープ感が抜けなかったが、そこが大きく改善されている点は、ここに来て急に技術の飛躍があったと感じる。

一方低域に関しては、それほど出ない。そのままだと、かなりハイ上がりの音質である。だがTipsがある。実は製品にフォームタイプの耳栓が付属しているが、耳栓をすると低音がドーンと持ち上がってくるのだ。一体どういう理屈でそうなるのかよくわからないのだが、とにかくアホみたいに低音がドスドス出てくるんである。


・耳栓をするだけで、低音がズンドコ

 
もちろんそうなるとその音が聞こえるという骨伝導のメリットがスポイルされることにはなるが、一人でちゃんとしたバランスで聴こうかな、という時には使えるテクニックである。耳穴の塞ぎ具合で低音と高音のバランスが取れるので、耳栓の突っ込み方や材質などを色々工夫してみると面白いだろう。

最近ジョギングに出る機会も増えたので、TREKZ AIRは愛用しているところだが、他にも使い道がある。風呂上がりだ。風呂上がりは耳の中も塗れているので、カナル型のイヤホンを付けると気持ち悪い。そんなとき、さらっと動画見たり音楽聴いたりするときに、TREKZ AIRは便利である。

音漏れが気になる方もあるだろう。もちろん耳穴に突っ込む密閉型ではないので、それなりに外に音は漏れる。ただ音量の割には、漏れは少ないほうだろう。電車の中でもチャカチャカ言うほどの漏れはない。

これまで骨伝導ヘッドホンにトライしたことがある人は、そんなに多くはないと思う。旧来製品がどんなものだったのか知らないと、この革新性がなかなか伝わらないとは思うが、ハイレゾやNFMIとはまた違ったアプローチの音響製品である骨伝導製品にも、注目していただければと思う。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2018年7月6日 Vol.179 <個性とはなにか号> 目次

01 論壇【西田】
 メルマガ対談から生まれた「#私かわいいトーク」を振り返る
02 余談【小寺】
 「骨伝導」のレベルが違う、「TREKZ AIR」を試す
03 対談【小寺】
 デジカメWatch折本編集長と語る、「コンデジ奇談」 (2)
04 過去記事【西田】
 家電メーカーが考える「3D普及」の戦略
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

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