※名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」Vol.094(2015年02月16日)より
誰もが心のどこかで、一発逆転を望んでいます。もちろん、仕事であれ、恋愛であれ、現実には本当の意味での「一発逆転」など起こりません。毎日こつこつと、ひたむきに続けていたことがある日、ある瞬間に形になる。それがはたから見ると「一発逆転」に見えるだけなのです。
その唯一の例外は破壊だけです。どれほどコツコツと積み上げて来たことであっても、それを破壊するのは一瞬です。何かを破壊するときにのみ「一発逆転」は起きる。ですから人は破壊に魅了されます。破壊の魅力とは、一発逆転の魅力なのです。
子供は積み木を積むよりも、崩すほうが大好きですが、これは大人も同じです。僕らは何かを改善しようと思い立ったとき、(臨床的には)ほとんど例外なく、壊してはならないものを壊すことから手をつけようとします。もちろん、本人は何かを壊そうと考えているわけではありません。変わりたい、救われたい。そういう純粋な思いから、人は破壊に手を染めるのです。
現実には、人が変わるためには、ゆっくり、地道に、コツコツ取り組んでいくしか道はありません。しかし、いくらそう言われても人は無意識のうちに一発逆転を望みます。それだけ、「一発逆転」の魅力は強いのです。
言い換えれば、人が「地道な努力ができるようになる」ということは、心理学的には大変な達成だということです。その域に至るまで、人はさんざんもがくのが通例です。
では、地道な努力ができるように成長する、そのために必要なことは何でしょうか。それは、一言でいうならば「内側を見る集注力を養う」ということだと僕は考えます。他人からの評価や、世間の名声とはまったく違う軸で、人は伸び悩んでいます。その壁を超えるには、内側を見なければいけないのです。
「また私は同じことをやってしまっている」と感得できたとき、人は初めて人生の入り口に立ちます。それまでの時間は、集注欲求と本能の捕虜にすぎないのです。
そこから抜け出すためには、瞑想に取り組むのも良いでしょう。「まともに考えられるようになるために、日々瞑想する」という方もいます。瞑想というのは、心にこびりついた感情のアカをこすりとるタワシのようなもの。少なくとも、それを入り口に取り組むのも悪くはないでしょう。
私の意識は、世界に先行しています。私の意識こそが、常に、最初に世界の見え方を決定しているのです。だからこそ、一日に最低一回は、世界と自分の意識とを切り離し、意識を洗濯しておくことが必要です。
そのことは、自分のパフォーマンスを破格に引き上げてくれるはずです。
名越康文メールマガジン「生きるための対話」
2015年2月16日 Vol.094
<「やる」という決心をしたあなただけに伝える人生を変えるたったひとつの方法/心の洗濯のススメ/新しい環境で友人ができるか不安です/わかりあえないから、つながれる/ほか>
目次
00【ピックアップ】「やる」という決心をしたあなただけに伝える人生を変えるたったひとつの方法
01【コラム】人生に一発逆転はない--心の洗濯のススメ
02精神科医の備忘録 Key of Life
・言葉に水を。言葉に肉を。
03カウンセリングルーム
[Q1] 瞑想していると心が暴走しているように感じることがあります
[Q2] 新しい環境で友人ができるか不安です
04読むこころカフェ(30)
・わかりあえないから、つながれる
05講座情報・メディア出演予定
【引用・転載規定】
テレビ、ラジオなど各種メディアで活躍する精神科医・名越康文の公式メルマガです。メルマガ購読者とのQ&A、公開カウンセリング、時評、レビューなど盛りだくさんの内容を隔週でお届けします。
「ぼくらが生きているのは、答えのない時代です。でも、それはもしかすると、幸福なことなのかもしれません。なぜなら、答えのない問いについて対話し続け ることではじめて開ける世界があるからです。皆さんと一緒に、このメルマガをそんな場にしていきたいと思っています」(名越康文)
※月2回発行、500円+税(月額)。kindleや各種電子書籍リーダー対応。購読開始から1か月無料! まずはお試しから。
※kindle、epub版同時配信対応!
その他の記事
良い旅は、旅立つ前に決まるのです(高城剛) | |
「スマホde子育て」族に悲報、というか取り返しのつかない事態について(やまもといちろう) | |
これからの時代にふさわしい正月らしさとは(高城剛) | |
吉野彰さんノーベル化学賞に想う、リチウムイオン電池と現代デジタル製品(本田雅一) | |
川端裕人×荒木健太郎<雲を見る、雲を読む〜究極の「雲愛」対談>(川端裕人) | |
腸内細菌のケアを心がけたい梅雨の季節(高城剛) | |
11月に降り積もる東京の雪を見ながら(高城剛) | |
IoTが進めばあらゆるモノにSIMの搭載される時代がやってくる(高城剛) | |
「本気」という無意識のゴンドラに乗るために(名越康文) | |
スマートフォンの時代には旅行スタイルもスマートフォンのような進化が求められる(高城剛) | |
週刊金融日記 第279号 <ビットコインはバブルなのか、トランプvs金正恩チキンレースで米朝開戦の危機他>(藤沢数希) | |
想像もしていないようなことが環境の変化で起きてしまう世の中(本田雅一) | |
自民党「カジノ収賄」の前後事情に見る「なんでこんな話に引っかかるのか」感(やまもといちろう) | |
柊氏との往復書簡(甲野善紀) | |
古いシステムを変えられない日本の向かう先(高城剛) |