やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

地方統一選から見える「安倍政権支持者」と「アベノミクス」受益者の錯綜

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」Vol.127<統一地方選挙(後半戦)に触れつつLINEを筆頭としたSNS問題を考える回>2015年4月27日発行より

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統一地方選挙も後半戦に入り、出口調査や筑後との聞き取り調査の分析が進んできまして、そこから地方の有権者の気持ちがかなり分析できるようになってきました。

まず、冒頭に「中央と地方の違い」を錦の御旗に掲げて選挙戦術を組んでいる党も多いなかで、有権者としてはかなり一体感を持って国政と地方政治を重ねてみている傾向が強いことが分かります。

というのも、今回統一地方選において、有権者が「重視する政策」とする傾向としてさらに「社会保障・年金」がクローズアップされ、重点調査している選挙戦40件のうち、23件までもが「経済対策・雇用」より社会保障のほうが大事だ、と率が逆転しており、38件で前回調査(2014年10月)よりも社会保障に関心を持つ有権者が有意に増えている状態です。これは、単純に選挙区の高齢化が進んだということもありますが、地域経済において、一定以上の割合が年金生活者や生活保護、市役所などにお勤めの公務員、公共サービスの委託や公共工事などを担う関係業者によって占められていることを意味します。

つまり、地方経済が大事だといっても、その雇用や生活の基盤は公共セクターであって、中央から交付される税金(地方交付税や事業に対する補助金・助成金など)によって成立している以上、地元の政治をいかに考えても結局自分たちの生活は東京から送られる割り当てによって成立していることに有権者はすでに気がつき始めている、と言えます。

年金生活者にとって、その年金を支払ってくれる政策は地方ではなく中央によって決められており、これを知っているがゆえに地元の政治にコミットするよりは中央の官庁や政治家の動きのほうが生活防衛上重要であることが分かっているのでしょう。

翻って、これはかねてから指摘されていることですが、今回の選挙調査ではっきり見えつつあるのは、アベノミクスに賛同している安倍政権支持者は、必ずしもアベノミクスの成果である株高や景気改善の恩恵には蒙っていない点です。

正確な調査結果はかなり後日にならないと論文その他で提示されることはないかもしれませんが、あくまで傾向値としては、安倍政権の支持者は安倍政権成立前と後でほとんど所得が伸びておらず、むしろ平均値を下回っているようで、乱暴な言い方をすれば貧乏人が何らかの共感を安倍政権に持って積極的に支持している状況が視認できます。

これは、安全保障における近隣諸国への強硬な態度への共感も含まれるのでしょうし、必ずしも経済政策だけが安倍政権の取り組む重点政策ではないので、そういう側面から安倍晋三首相が国民から支持されているということはあるかもしれません。しかしながら、過去の政策評価においては、伝統的に経済対策、景気対策が有権者に響くものと思われてきました。だからこそ、地方創生のような若干インチキ気味の議論でもお墨付きを与えて地方に活力を与え人口回復策に資するような(実際に資するとは限らない)プロジェクトにお金をつけてあげるという一種のばら撒きまでやって統一地方選対策をしてきたわけです。

むしろ、政治改革という点では「中央から地方へ」の流れを志向しながらも、地方消滅の議論を挟んで「地方には地方の未来を任せられないのではないか」という重大な課題が浮き彫りになりつつあります。すなわち、地方が地方のことを自分たちで考えて実行に移すという話はせいぜい日本新党ブームのころがポイントオブノーリターンの状態で、その後の自民復権から地方の衰退が目に見えて重大になっていく中で人口減少による活力の低迷はそのまま地方の中央依存に拍車をかけたとも言えます。

子供が減ってきたというのは、ピラミッドが小さくなり、頂点が低くなっているということでもあります。地場の産業を回し増収に導くだけの人材もいなければ、中央と地方の関係を考え地方の特色を生かした政策立案を行える学識ある人物も乏しいというのが日本の地方の現状です。エリート教育をすれば貧富の格差は拡大するし学童を選別することもいまの教育の現場では困難とするならば、結果として、東京なり海外留学組を迎え入れて権限を与えて地方政策を思い切って担わせるぐらいの仕組みが必要です。

しかしながら、現状では高齢者がこれだけ地方で逼塞している状態で、投票における高齢者の割合が大きいと、再生産に資するような少子化対策や地元振興策はむしろ後ろ向きになり、年金の維持と介護などの公的サービスの拡大を求めるニーズが地方政治で大きくなることは言うまでもありません。

わが国の高齢化問題は、民主主義の本来持つ機能の劣化と併せて必要な改革を遅らせることになり、先のない人たちに多くの資金をつけることで未来の日本人の富を喪失させることのないように考えていかなければならないと強く思う次第です。

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路

Vol.127<統一地方選挙(後半戦)に触れつつLINEを筆頭としたSNS問題を考える回>

2015年4月27日発行号
目次
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【0. 序文】地方統一選から見える「安倍政権支持者」と「アベノミクス」受益
者の錯綜
【1. インシデント1】LINEだけではないSNS問題で私たちは何を考えるべきか
【2. インシデント2】巨大になりすぎたGoogleに振り回されるネットの行方
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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