高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

すべてがオンラインへ

高城未来研究所【Future Report】Vol.662(2月23日)より

今週は東京、埼玉、千葉、神奈川をまわっています。

国内最大級の健康業界エキスポ「健康博覧会」から日本最大のカメラおよび関連機器展示会「CP+」など、今週は数多くの展示会が各所で開催されていますが、以前を知る者としてはどこも活況だとは言えません。

パンデミックもあって数年間開催できなかった影響もあるのでしょうが、なにより「展示会」と呼ばれるプラットフォームが過去のものになってしまったと痛切に感じています。

この話は昨年アナハイムの世界最大の楽器展示会「NAMM」やラスベガスで開催された世界最大の放送機器展「NAB」へ訪れた際にもお伝えしましたように、展示会によく使われる「世界最大」や「日本最大」といった枕詞が、インターネット(特に高速通信網)の普及によってオンライン開催こそが「世界最大」に変わった時代の趨勢があります。

この動きはパンデミック前から顕著であり、まだインターネットがなかった時代に情報を効率よく世界中に配信するには記者が一堂に会する展示会で新製品を発表するのが最良の手立てでしたが、先進国(G7)で5Gの普及が一般化した2014年前後を境にして、国際展示会への出展数は徐々に減っていきました。

1990年代には世界最大のコンピュータ関連の展示会「COMDEX」を日本のソフトバンクが買収し、誰より早くコンピュータ関連の情報を手中に収めることで投資精度を高めます。
一方、「COMDEX」をソフトバンクへ売却したシェルドン・アデルソンは、その資金を種銭としてラスベガスに「ザ・ヴェネチアン」ホテルを建造しました。
その後、アジアの橋頭堡となる「マリーナベイ・サンズ」を開業します。
アデルソンは2021年に他界しますが、2010年度版フォーブスの発表による世界長者番付では世界で6番目のビリオネアであり、彼の資金で誕生したのがドナルド・トランプ大統領でした。

展示会としてのCOMDEXは2007年ごろには消滅しますが、「COMDEX virtual」と名付けられたオンライン・イベントはその後も小規模ながら開催を続けます。
こうして現在の米国では「すべてがオンライン」へと向かうと考えられ、展示会や学会の参加者は「リモート参加」するのが一般的になって、あわせて日々の勤務体系も大きく変わってきました。

今週発表された米国国勢調査局によれば、米国では約1億4000万人が日常的に通勤しており、そのうち2000万人以上の15.2%が在宅勤務、つまりリモートワークしていると発表(https://www.census.gov/newsroom/press-releases/2024/travel-to-work-since-pandemic.html)。
この数値はあくまで全米の平均データであり、カリフォルニアでは「常に在宅勤務」を行っている割合が35%、「出社と在宅を合わせたハイブリッド勤務」は41%まで急増しています。

このように「すべてがオンライン」へと向かう動きは、都心にあるオフィスビルの空室率を高めている大きな要因でもあります。

ウォール・ストリートジャーナルによれば、現在、全米オフィスの空室率が過去最高を更新しており、賃貸されていないオフィススペースは19.6%もあり、少なくとも1979年以降で最も高い空室率だと報じられています(https://www.wsj.com/real-estate/commercial/offices-around-america-hit-a-new-vacancy-record-166d98a5)。

特にカリフォルニアやテキサスなどコロナ前までは活況だった都市のオフィスビル空室率は30%を超えており、あわせてオフィスタワーの価値も急速に下落。
なかなか売れなかったLAで3番目の高さ誇るオフィスタワーが、十年前の2014年を45%下回る価格でやっと先日売却されたことが、大きなニュースになりました(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-12-23/S641LNT0AFB400)。

この一連のオフィス不動産の下落が世界中の金融機関に打撃を与えており、ドイツ銀行は2023年10-12月に米商業用不動産関連の損失に備える引当金が前年同期の4倍まで膨み、日本のあおぞら銀行は米商業用不動産向け融資で損失に備える追加の引当金を計上することにより、2024年3月期に280億円の連結最終赤字(前期は87億円の黒字)に陥ると今月発表しています。

実は来年2025年末までに、米国の商業用不動産関連の貸し付け約1兆5000億ドル(約209兆円!)が返済期限を迎えます。
リーマンショック(前回の不動産バブル)前の2006年当時から見ても、現在、商業用不動産ローンに関する連邦預金保険公社(FDIC)の基準を超える金融機関が米国だけでも700行以上あり、今後どこか世界中の金融機関で大きな焦げ付きが発生し、突然信用収縮する可能性が日に日に高まります。

米国で起きたことは数年後に日本でも起こると言われるよう、展示会に限りませんが日本でもあらゆるロケーションに根差したビジネスは、どこかで大きな危機に直面することが予測されます。
ただし、高齢者が増え全般的にDXが遅れていることや、都心部の治安が悪くないことなどもあって、現実的に日本は「ハイブリッド出社」パターンが一定層に定着する程度になると思われますが、それだけでも都心部のオフィスの価値は下落します。

春のようだった気候から一転して真冬に戻ったのと同様、変わる時は一夜にして変わるものだと、改めて考えさせられる今週です。

それにしても、もはや展示会に目ぼしいモノはありませんね。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.662 2月23日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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