やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

22年出生数減少の「ですよねー」感と政策の手詰まり感のシンフォニーについて


 22年の我が国の出生数は80万人を切りそうだという速報値がニュースになっておりました。11年前倒しで予想より少子化が進んでいると言われておりますが、しかし、これは実は社会保障人口問題研究所のデータにおいてはほぼ下位予想の数字に近いものであって、一応はシナリオ通りですよねということになります。

22年の出生数、初の80万人割れ 想定より11年早く

 もちろん、1.40ぐらいまで回復途上であった合計特殊出生率がコロナを挟んで1.3前半になってしまったのはコロナ禍と若者の経済難によるところが大きいのではという予測も立つのですが、あんまり慌てなくても人口減少の幅は広がっていくのは間違いないので、もう現行の人口を維持できない前提で制度設計をやり直す必要が出てきます。

 とりわけ、医療提供体制の側から見ると地方での周産期医療も含めた産科は小児科と併せて大変な不採算診療科であって、基幹病院でも小児科がまず閉鎖になり、追って地方での妊婦は都市部での出産を促す仕組みになってしまっているのも事実です。妊婦さんは都市部へ小旅行して泊まり込みでお産をしなければならないのですから、出産費用は昔よりはかなり増えてしまっている現実があると思うんですよ。負担が増える一方の出産費用や出産に関わる知識の周知徹底については自治体も頭を悩ませているところだと思います。

 他方、岸田文雄政権が何か突然異次元がどうだと言い出し、死んでどこかの異世界にでも岸田さんが飛ばされてしまったのかと思うような政策を打ち出そうとしていてみんなで羽交い絞めにしたりしておりました。

 というのも、少子化対策において民主主義国家のできることはそう多くなく、単純な話が社会のために子どもを産めと言われても反発されるし、子育て政策は原則として出産を考えている若い夫婦以外のほとんどすべての属性で反対に晒されるタイプの制作ですから、岸田さんに異次元だと言われてもお前の行動力のなさが異次元だぞと反論されて終わってしまうのもまた事実ではないかとも思います。

大山加奈「バスに双子ベビーカー突入」から「子連れスタバ批判」の煉獄

 そのたいていにおいて、子どもの育てにくさみたいなクレームから、いわゆる子育て支援や教育費補助のほうに政策の軸足が移るのは当然で、妊娠している期間は人生の中でも一人あたり8か月ぐらいしかありませんから、必然的に妊婦の声は政策に届かないのもまた事実となります。

 また、自民党調査会が子育て支援策として、子どもを生んだら奨学金減免という謎施策を打ち出し、これが野党から批判されててしどろもどろになっているのも興味深い点です。

出産条件に奨学金の返済減免 教育費軽減で提言へ―自民調査会

 というのも、いずれの政策も「子どもが生まれた後に支援します」というものであって、政策効果という点では極めて厳しいものであるが、政策としてはそのぐらいしか打ち出しようがないぞというのが現実なのかなあとも思うわけですよ。

 国立社会保障人口問題研究所では、割と早いうちから少子化対策のための課題は「婚姻数」「晩婚化(インターバル)」「人口構成」によって合計特殊出生率が減少していくことは論証していて、おのおののパラメータを引き揚げていくためには結婚適齢期の女性を取り巻く経済苦を取り除くことが重要という結論になっています。

 会計検査院でも東北大学の佐藤浩さんがそのまんまの論考を出しておられて、まあきっとそうなんだろうと思うわけです。

少子化と子育て・就業支援事業の効果の検証

 ところが、政府が出生率対策で呼んできた学者がなぜか京都大学の柴田悠さんだったため、この人さすがにマズいんじゃないのと思いながらみんな見ておるわけです。

“異次元”の少子化対策 京都大学柴田悠准教授に聞く 2025年のタイムリミット 「親ペナルティー」脱するには

 この手の重要な政策を推進しなければいけない待ったなしな状況で、待ったなしだと主張してくれているのはまあ良いにしても、その根拠が他の政策で一定の成果が出たからその予算をそのまま積んでいけばもっと効果が出たはずだと単純推論で与太話を投げる人を呼んではいけないと思うわけですよ。

 さらには、一部マスコミで野党の首長に丸乗っかりする形で出生政策の不手際を論難する記事が出ていました。見た限り30件ぐらい立て続けに出ていたので、まあ頑張ってますねって感じなんですが、気になったのは日本人にすら選ばれない日本という言われ方で現行の出生率の低迷を解説する記事です。

 一理ある内容も含むのですが、ただ、合計特殊出生率が0.7台に落ち込んだ韓国や、同じく1.0を割りそうな中国や台湾、シンガポールあたりの出産事情を加味すると中国もシンガポールも台湾も選べないじゃんかというツッコミは当然成立します。なに言ってんだおまえ。

 そんなこんなで、本当に異次元の出生対策をするなら、民主主義的な観点をかなぐり捨てて出生数に直接影響する母親数を増やすか、独身者にどんどんペナルティとなる税制をつけて結婚を促すかしかないんじゃないのと思います。なんだかんだ出生数に一番効くのは母親数と婚姻数であり、女性の社会進出とか子育て支援などはほとんど出生数にはポジティブな影響を与えなさそうだということはほぼ確定でやんすから。

 何よりも、私たちの社会のために子どもを産めと言われると馬鹿みたいに反発する人もいるけど、より解像度を上げるならば、結婚せず子どもも生まなかったおまえの老後に介護保険出しつつ施設でおむつ取り替えるのは他人の子どもなんだよということに尽きます。

 同性愛者にも結婚を、という話はあるけど、それはそれで当事者は大事なことかもしれないものの、出生数をどう確保するかという観点からはあまり有効な政策ではないことを踏まえると、やはり無理矢理でもマッチングして結婚させるような何か仕組みが必要なんじゃないかとは思いますね。はい。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.398 加速する出生数減少をどうしたものかと憂いつつ、小池百合子さんの動向やマイクロモビリティ推進政策はどうなのよとつっこんだりする回
2023年2月28日発行号 目次
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【0. 序文】22年出生数減少の「ですよねー」感と政策の手詰まり感のシンフォニーについて
【1. インシデント1】俺たちの小池百合子はみたび女性総理を目指す
【2. インシデント2】マイクロモビリティ推進という錦の御旗
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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