小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

地味だが「独自色」が蘇った今年のCEATEC

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年10月6日 Vol.144 <変わりゆく世界号>より


10月3日から6日までの4日間、千葉市・幕張メッセでは「CEATEC JAPAN 2017」が開催された。このメルマガの発行日は会期の最終日にあたるが、メルマガを読んでからCEATECに行く方は、さすがに少ないだろうと思う。

本メルマガの愛読者の方なら、なんとなく理解していただけていると思うのだが、筆者(西田)は、CEATECのあり方にかなり批判的だった。海外からの来場者も集められず、テレビ映えばかり考えた、中身が空虚な大型展示ばかりが脚光を浴び、新製品発表の場としての役割も失われているCEATECに、開催の意味などない……と思っていたのだ。

おととしまでは。

昨年からCEATECは、いわゆる家電見本市ではなくなった。IoTを軸にしたイベントに変わっている。ただ昨年は、「ああ、流行り物を軸に、ちょっとふわっとしたイベントになったのだな」という印象を強く持っていた。CEATECの方針転換について、出展者側もどこか戸惑いがあったのではないか……と思う。

だが今年は違った。

いくつかのメディアに質問されてなかなか困ったのが、「今年のCEATECの目玉は?」という質問だ。過去のように家電見本市だったのならば、「今年は3Dテレビが」とか「4Kテレビが」と言えばいいので楽だった。だが、もはやCEATECにそういう要素はない。「IoT」というテーマが、そもそも非常に広いものだ。ぼんやりしているのは宿命といえる。そこに、無理矢理業界的なトレンドを作ることもしていない。だから、「この製品が売れます」的なニュアンスで「今年の目玉」を聞かれるのが、非常にやりにくかった。

では、トレンドがなかったのか? というと、そうではないと思うのだ。筆者が感じるトレドはもちろんあった。それがなにかと聞かれたら「解析」と答えたい、と思う。

昨年までのCEATEC、「データを集めること」に重きが置かれすぎていたのではないか……と思う。センサーが数多く展示され、それがネットにつながってIoTになるのはいい。だが、その後の展示は「未来の社会」になってしまい、なんとも現実味が薄かった。

だが今年は、「センサーから集めたデータを処理して、見せる」ところまで視野に入れた展示が目立ったように思う。

特に多かったのは、光学系センサーを使い、健康状態(薬事法的なリスクもあるので、「未病状態」と言った方がいいかもしれない)をチェックするソリューションだ。発想は珍しいものではない。だが、その場で来場者を解析し、結果を見せる例が意外と少なかった。今年はシャープやパナソニックを筆頭に、そういうパターンがいくつも見られた。

音声認識にしても、三菱電機がデモした「同時にしゃべった2人の言葉を、1つのマイクでの入力から、ディープラーニングで分離する」技術が面白く、興味深かった。

Origin Wireless社が展示した「センサーレスIoT」も面白い。Wi-Fiの電波の変化を読み取ることにより、電界内にいる人や動物の移動、ドアの開閉などを認識する。従来なら、部屋にいくつものセンサーを設置して対応するところだが、同社の技術であれば、特殊な機器を導入することなく、それらの情報が取り込める。これも、電波の変化を細かく解析する技術があってのものだ。

IoTという言葉が広く使われるようになって、すでに4〜5年が経過した。データを集める技術も、その発想も十分に成長したものの、「IoTの成果」はそこまで広がっていない。それは、データをどう分析し、活用するかというレイヤーの組み立てがうまくいっていないからだ。「これなら鉄板」という用途が多くあればいいが、むしろこれから開拓する部分の方が多い。

そこで、ディープラーニングに代表される「分析」「解析」の技術が進化したことから、情報の見せ方が変わってきたのではないか……と思うのだ。次には、そこから「どんな用途シナリオを描くのか」という話になる。それは、会場で各企業が提示したものに他ならない。

結果的に、IoTを切り口としつつも、各出展者の展示する内容は、非常にバラエティに富んだものになった。知識や発想力があり、ブースで色々と話を聞くような来場者にとっては、実に「分析しがいのある」イベントになってきた、と言える。だからおそらく、来場者の見方によって、「興味深い」と感じたところは違ってきているのではないだろうか。だから、ここで挙げたのもあくまで「西田の見方」である。

その分、軽くトレンドを知りたい……という来場者には酷なイベントになっているかもしれない。大規模なイベント集客には、マイナスの方向性とも思える。大企業にはなかなか酷なイベントにも思える。

だが、このくらいの方が独自性もあるし情報価値も高い。みな、わざわざ時間を割いて幕張まで来ているのだ。自分の業務に関係する、自分だけが得られたなにかを持って帰れるほうがいいに決まっている。CESやIFAの劣化コピーのようなイベントではなく、「これはCEATECである」というイベントに、少し近づいたのではないだろうか。

次に必要なのは、そういう「発想や発見との出会い」を助ける方法の確立だ。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2017年10月6日 Vol.144 <変わりゆく世界号> 目次

01 論壇【小寺】
 PTA広報紙を電子化する
02 余談【西田】
 地味だが「独自色」が蘇った今年のCEATEC
03 対談【西田】
 MastodonからYouTuberまで。松尾公也さんと語る「情報発信」のカタチ(5)
04 過去記事【小寺】
 洗濯物はたたまないという選択
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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