川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

幻の絶滅鳥類ドードーが「17世紀の日本に来ていた」という説は本当なのか

川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」2015年10月2日 Vol.001より

あなたは「ドードー」を知っていますか?

インド洋マスカリン諸島のモーリシャス島に生息していたドードーは、17世紀に絶滅した飛べない鳥で、おそらく「最も有名な絶滅鳥類」です。

人間が絶滅に追いやった野生生物という括りの中で見ても、「最も有名」な部類でしょう。Dead as Dodo(ドードーのように死んでいる=完全に死んでいる)という英語の表現があるほどで、その点でも、絶滅動物の代表と見做されているわけです。

いやドードーと言われてもイメージがわかん!
という人のために1枚だけ写真を。

dodo_perta
 

ロンドン自然史博物館に展示されているドードーの復元「剥製」。

実は、どこにも本物の剥製は残っておらず、今あるのはごくごく少数の骨と、さらに少数の皮(皮はオックスフォード大学に顔と脚のものだけある)だけなのです。

こういう剥製っぽいもの見たら、残された骨や当時の絵などをもとに、最近作られたものだと思ってください。他の鳥の羽毛でそれっぽく再現してあるわけです。

さて、ドードーは、物語の中の生き物としても「有名」です。ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」(1865年)の中にも登場するので、実在の鳥だったと知らないまま、ドードーの名だけ知っているという人もいるでしょう。

でも、実在の鳥です。いや、でした。

実は、ルイス・キャロルが「アリス」を書く直前まで、ドードーは一時、「架空の鳥ではないか」とされた時代もあったようです。17世紀中に絶滅してしまって標本もほとんどなかったのだから仕方ありません。

しかし、19世紀半ばになって、標本の再発見や、モーリシャスでの化石の発見が続き、「実在の鳥だった!」とあらためて受け入れられたとか。ルイス・キャロルは、それを素早く物語の中に取り込んだわけです。絶滅動物界のカリスマであるドードーは、ぼくにとっても、十代で初めて知って以来、「会えたらよかった生き物ベスト10」には必ず入る、個人的な偏愛動物でもあります。

そんなドードーが1647 年、江戸時代初期に日本に来ていた! という情報が入ってきました。

本当だとしたら、世界的にみても数えるほどしかない「生きたドードー」が島外に持ち出されて、生きたままよその土地へ到達したレアな事例です。調べるうちに、さらにドードーと日本の不思議な縁が明らかになり、どんどん深まっていきます。もはやドードー沼とでもいうべき事態に陥っている最近のわたくしです。

渾身のドードー・チェイス、開幕!
 
 

『不思議の国のアリス』から『ドラえもん』にまで登場する愛嬌のある鳥

ドードーが来日していた。

と書くと、ポール・マッカートニーかミック・ジャガーか。大物ポップスター、ロックスターが日本各地のドーム球場あたりをまわるツアーにでも来たのか、と思う人もいるかもしれない。

いえいえ、17世紀の絶滅動物です。でっぷりした不格好な姿に描かれる飛べない鳥です。けっこう大きいです。正確には、計測した人もいないので分かりませんが、体長1メートル、重さでも20キログラム前後はあったでしょう。で、来日は1600年代です。

本当に、人の心をとらえて放さず、歴史家や小説家や、もちろん鳥類学者も、想像力をかき立ててられてやまない、ファンタスティックな鳥です。物語にもよく出て来ます。

そのように説明すると、「ああ『不思議の国アリス』の!」と思い出してくれる人もいる。アリスの中の「コーカス・レース」(あるいは、「ドードーめぐり」)を幼心に記憶している人は多いようだ。

さらに、「ああ、最近、コスタリカで再発見されたやつ!」という謎の反応があったので、ちょっと調べてみると、このような動画があった。

https://www.youtube.com/watch?v=fPkB5Hs_f4E

イグアナを観察する定点カメラにドードーが映っていた! 350年ぶりの再発見! なのだという。

もともとインド洋のモーリシャス島の鳥なので、中米のコスタリカにいたというのは、変な話だ。いったいどういうことか。きちんと動画を最後まで見ると、謎は簡単に解き明かされていて、ブラジルのNGOの啓発目的のものだったとわかる。

というわけで(?)、今の地球には、やはりドードーはいない。

1558年、オランダのファン・ネック提督が率いる探検船団が訪れた際に報告され、半世紀後には非常に希少になっていた。1660年代から80年代には絶滅してしまったとされていて、記録は非常に少ない。また、残っている記録も、素人の観察の域を出ないものがほとんどだ。最後の目撃報告は1681年、イギリス人のベンジャミン・ハリーによる(とされる)。

進化論のチャールズ・ダーウィンも、ビーグル号の航海でモーリシャス島に寄港しているが、ドードーには会ってもいない。それどころか「ドードーの島」を訪問しつつ、航海記には一切、言及していない。彼のモーリシャス訪問は1836年なので、ドードーがいなくなってから、実に1世紀半以上たっていたのである。

Dead as Dodoという英語の表現が象徴するように、ドードーは歴史時代以降の絶滅動物の中でも代表的な種だ。

「不思議の国アリス」という物語の力を借りた部分があるかもしれないが、世界で最も多く語られてきた絶滅鳥類と言われる。

ぼく自身は、高校時代に手にした絶滅動物図鑑で、この鳥に魅了された。SF作家ロバート・シルヴァーバーグの「地上から消えた動物」(The Dodo, the Auk and the Oryx)を読んで、さらに興味は高じた。

http://amzn.to/1V1qcEc

絶海の孤島に住み、ずんぐりむっくりしで、間抜けな雰囲気で、憎めない。こういう鳥が森林を闊歩していたとなると、ぜひ見てみたい! そう願った。

 

「ドードーが日本に来ていた」という証拠が見つかった

 
実は日本でもドードーに魅力を感じた人が多く、ラストショーグン・徳川慶喜の孫で華族だった蜂須賀正氏は、イギリスでの留学時代にドードーと出会っている。

日本に帰国した後、ドードー研究で博士号を取得(北海道大学)、その後、英語で出版し「ドードーとその一族、またはマスカリン群島の絶滅鳥について」(1953年)は、ドードー研究を彩る研究書として、今も引用されている。

物語の世界では、日本でも、河野典生が「ドードー」という短編をものし、薄井ゆうじは短編小説『ドードー鳥の飼育』を書いた。また、マンガの『ドラえもん』には「モアよドードーよ永遠に」(単行本第17巻収録)というエピソードがあって、映画の『ドラえもんのび太と雲の王国』でもドードーが登場する。

というわけで、ぼくたちの社会でも、ドードーは語られ続けているし、小説家や漫画家の想像力を刺激し続けている。得も言われぬ、インスピレーションの源でもあるわけだ。

そのドードーが、日本にきていた。

それも生きた状態で。

これは実はどえらいことだ。

ドードーは、発見後、すぐに数が減り、絶滅してしまったので、島の外に持ちだされた数がそもそも少ない。島外に生きたまま到着したことがはっきり言及されているのは、片手で足りる例しかない。

前出の蜂須賀正氏も、「来日」の可能性には言及していたが、証拠はつかめないままだった。以来、「話半分」で話題にするような、そういうネタでありつづけた。

それが2014年、あっけなく、「証拠が見つかった」というのである。

ロンドン自然誌博物館のウェブページをなにげなく見ていたところ、同館の鳥類部門の研究者、ジュリアン・ヒューム博士が、ドードーが日本に送られ、日本の出島まで到着していたことを示す論文を発表!というニュースが出ていた。

その論文は、"Historical Biology:An International Journal of Paleobiology"という論文誌に掲載されており、タイトルは、"The dodo, the deer and a 1647 voyage to Japan"(「ドードーと鹿、1647年、日本への旅」)で、著者は、Ria Winters & Julian P. Hume。

Ria Wintersは、オランダの研究者で、ロンドン自然史博物館のジュリアン・ヒュームと一緒にハーグに保存されている歴史資料を探し、1647年、出島の商館長日記から日本にドードーが来ていた記述を見つけたという。

(続きは川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」2015年10月2日 Vol.001にてお読みください)

 
最新号の目次はこちら!

川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!

Vol.002(2015年10月16日発行)目次

01:本日のサプリ:ニュージーランド南島のキガシラペンギン・ヒナバージョン
02:秘密基地で考える:日本のイルカ飼育レベルは、北米の25年遅れ?
03:宇宙通信:種子島の子、ロケットが日常である件
04:移動式!:すべての母ちゃんを救った男--産褥熱の原因をつきとめたゼンメルワイス
05:カワバタヒロトへの何でも質問箱
06:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(2)ドードー来日を裏づけるオランダ商館長の日記
07:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
08:せかいに広がれ~記憶の中の1枚:ルワンダの学校から・その2
09:著書のご案内・予定など

「秘密基地からハッシン!」の購読はこちらから!

川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

その他の記事

12月の夏日を単に「暖冬」と断じてしまうことへの危機感(高城剛)
選挙だなあ(やまもといちろう)
(1)上達し続ける人だけがもつ「謙虚さ」(山中教子)
手習いとしてのオンライン・エデュケーションのすすめ(高城剛)
日本はどれだけどのように移民を受け入れるべきなのか(やまもといちろう)
「50GBプラン」にして、5G時代のことを考えてみた(西田宗千佳)
『戦略がすべて』書評〜脱コモディティ人材を生み出す「教育」にビジネスの芽がある(岩崎夏海)
ルンバを必要としない我が家でダイソンを導入した話(小寺信良)
トレーニングとしてのウォーキング(高城剛)
ボツ原稿スペシャル 文春オンラインで掲載を見送られた幻のジャニー喜多川さん追悼記事(やまもといちろう)
東京と台北を比較して感じる東アジアカルチャーセンスの変化(高城剛)
外資系企業の「やり得」を止められるルール作りこそがAI規制の本丸(やまもといちろう)
渋谷オフィスビルの空室率から感じる東京一極集中の崩壊(高城剛)
「人を2種類に分けるとすれば?」という質問に対する高城剛の答え(高城剛)
「テレビに出ている若手ロシア専門家」が古典派ロシア研究者にDISられる件(やまもといちろう)
川端裕人のメールマガジン
「秘密基地からハッシン!」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回以上

ページのトップへ