言語獲得以前の声の世界に学ぶ

間違いだらけのボイストレーニング–日本人の「声」を変えるフースラーメソードの可能性

間違いだらけのボイストレーニング

皆さんは、ボイストレーニングと聞くと、どういったものをイメージされるでしょうか?

「腹式呼吸や発声練習を行うことで、出せる音域が広がり、声量が豊かになる」

そんな印象を持っている方が多いのではないかと思います。あるいは、歌やスピーチがうまくなるためのトレーニング、と捉えている方もおられるでしょう。

しかし、残念ながら、今、一般的に広がっているボイストレーニングをやっても、ほとんど、そうした効果は期待できません。それどころか、ボイトレをやることによって、かえって喉を痛めたり、歌に対する無用な劣等感を植えつけられてしまっている人が少なくないという悲しい現実があります。

その理由は、科学的に間違った考え方やメソードが、ボイトレの世界に広がってしまっている現状にあります。

筆者は、ボイトレの世界に、できるだけ科学的かつ、効果的なボイストレーニングのメソードが浸透することを、切に願う者です。先般上梓した『最高の声を手に入れるボイストレーニング フースラーメソード入門〈DVD付〉』や、2017年5月から私塾「野生の声音」を開講したのも、一人でも多くの方に、科学的なボイストレーニング、すなわち「フースラーメソード」を知っていただきたいという一心からです。

 

2017年5月開講! 第1期会員限定30名で受付中!
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武田梵声の私塾「野生の声音」
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フースラーメソードとは何か

フースラーメソードは、フレデリック・フースラー(1889-1969)というスイスの声楽発声の教育者・研究者が、晩年に発表した、発声指導法です。それは、経験と感覚に頼っていた従来の声楽指導に対して、解剖学や生理学を踏まえた科学的な発声理論かつ方法論という、非常に画期的なものでした。

現在、フースラーメソードはボイストレーニングの「バイブル」として位置づけられています。しかし、それにもかかわらずフースラーが追求した発声指導法そのものは、ボイストレーニングの世界に十分に浸透していません。

科学的で、誰にとっても素晴らしい効果をもたらすフースラーメソードが十分に広がっていないのはどうしてなのか。そこには、いくつかの理由があります。一つは、声帯に関する科学的な知見が未成熟だった19世紀の誤ったボイストレーニングが、20世紀にアメリカのショービジネスが世界各地に広がっていく過程で、世界中に深く、根をおろしてしまったという歴史の綾があります。

一言で言えば、アメリカのショービジネスから生まれたスター歌手たちが、その(誤った)手法で育った、という言説が広く流布してしまったわけです。その結果、さまざまな誤ったボイストレーニングの考え方や手法が、世界中に広がってしまいました。

「スター歌手がやっていた方法論なら、そう悪いものでもないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、もともと素養がある人は、誤ったトレーニングでもある程度、歌えるようになります。しかし、そういう人が現役を退いたあと、「私はこうやってトレーニングをしていた」とばかりに、同じメソードで指導しはじめると、問題が生じてきます。誤った指導法はなかなか改められず、多くの人が、思うような声を手にすることができていないという現実が、今なお、続いているのです。

 

声は「喉を吊る筋肉」によってコントロールする

フースラー・メソードの最大の特徴は、喉の筋肉と発声のメカニズムを明らかにし、その訓練法を指し示したことにあります。声は声帯によって発せられることは誰もが知ることだと思いますが、この声帯の筋肉は、それ自体では自在に動かすことができません。

フースラーは、この声帯をコントロールする筋肉、喉頭懸垂機構(こうとうけんすいきこう)を発見しました。これは、簡単に言えば「喉を吊る筋肉」のことです。この筋肉を鍛えることができれば、どんな人でも超一流の歌手や俳優、声優に負けない、すばらしい声を発揮できるようになります。

そしてフースラーは、解剖学的見地から、ある結論に達していました。それは、誰の身体にも、自由自在に歌い、語ることのできる潜在能力が眠っている、ということです。一般の方々と、超一流の歌手や声優との間で、喉の構造や機能にそれほど大きな差があるわけではありません。違いは、喉の筋肉が十分に目覚めているか、否か、なのです。

一部の才能のある人だけではなく、誰もが自分の声の可能性を引き出すことができる。本当の意味で普遍性を持った、科学的なボイストレーニングが歴史上初めて、登場したのです。

ボイストレーニングの教室に行くと、「お腹から声を出して」とか「頭のてっぺんから声を出すように」といったアドバイスを受けるかもしれません。しかしながら、思うように声を出せない原因は、この「喉を吊る筋肉」の未発達にあります。腹筋や横隔膜は関係ありません。

高い声がでない、声量がない、音程が悪い、滑舌が悪い、喉が疲れる、声が枯れる、声が伸びないなど、声にまつわる悩みのすべては、喉頭懸垂機構のトレーニングによって、改善できるのです。

 

7種類の声を用いたトレーニング法

これほど画期的で、深い可能性を秘めたフースラー・メソードが十分に広まっていないもう一つの原因は、指導者の不足があります。フースラーメソードを本当の意味で学ぶには、このメソードを深く理解し、実践できる指導者について、学ぶ必要があります。しかし、フースラーメソードを十分に理解しているボイストレーナーは、まだまだ少ないのが現状です。

フースラーが開発したのは「アンザッツ」と呼ばれる、7種類の声を出すことによって、「喉を吊る筋肉」を鍛える方法です。

よく誤解されるのですが、アンザッツは「7種類の声を出す」ことを目的とするものではありません。7種類の声を発声することによって、「喉を吊る筋肉」が鍛えられる。その結果として、誰もが持つ声の潜在能力が目覚める。これが、フースラーメソードの考え方です。

そして、アンザッツの「7種類の声」をコントロールできる指導者は、残念ながら今のところ、そう多くはありません。その理由の一つとして、アンザッツの7種類の声のいくつかは、西洋音楽をベースとした教育を受けてきたボイストレーナーにとっては、少なからず違和感のある発声であるということが、挙げられるでしょう。一言で言えば、西洋音楽的な価値観からすれば、あまり「美しい」と思えない発声が、そこには含まれているのです。

しかしそれは実は、当然のことです。なぜなら、フースラーは、フースラーメソッドを完成させるために、世界中の民謡を含む、各地の発声法の根元を研究していたからです。そこにはなんと、人類が言語を獲得する以前の発声に関する研究も含まれていました。

イギリスの考古学者、スティーブン・ミズンの『歌うネアンデルタール』によれば、旧石器時代から、私たち人類は歌っていたということがわかっています。(個人的には、彼らがどのように歌っていたかということは、非常に興味深いと感じています。文明の未発達な世界において、おそらく唯一のコミュニケーション手段として使われていた「歌」は、もしかすると現代の超一流の歌手や声優でも及ばないような、すばらしいものだったのかもしれません)

こうした人類が本来持つ声に関する潜在能力を、フースラーは「プライマリー・ボイステクニック」と呼び、それを生涯のテーマとして探求し続けてきました。フースラー・メソード(アンザッツメソッド)は、その結晶というべきものです。よって、フースラーを西洋音楽の枠組みだけで理解しようとすると、必ず理解を誤ることになるのです。

そして、フースラー・メソードを指導する難しさも、ここにあります。なぜなら、指導者が7種類の声をある程度以上の水準で発声することができなければ、生徒は、その声を真似ることができないからです。

 

音楽に国境は「ある」が、ボイトレに国境は「ない」

世に普及しているボイストレーニングや発声法の大半は、クラッシック(西洋古典声楽)やロック、ポップスといった欧米の歌謡、芸能をベースにしています。そのため、例えば邦楽、古典芸能、民謡、民族音楽、民俗音楽のためのボイストレーニングや発声法、発声訓練といったものを、ほとんど目にすることはありません。

それゆえに、「アニメソングを歌いたい」「ハードロックを歌いたい」という人が、ボイストレーニング教室に通い始めると、どういうわけか、イタリアのオペラのような発声練習ばかりを求められる、という滑稽な(本人にとっては、深刻な事態ですが)ことが起きています。

中には「オペラの発声の良さがわからないのは耳が悪い証拠だ」という趣旨のことを口にしていたボイストレーナーもおられましたが、これは極めて危険な考え方だと私は感じます。

「音楽に国境はない」という説を、私は支持しません。音楽には、明らかに国境があります。そこには文化背景に基づいた、美意識の相違があります。もちろん、その言葉を口にする人に、悪気はないのでしょう。しかし「音楽に国境はない」という時、その人は無意識のうちに、西洋近代の音楽だけを念頭に置いているのです。

一方、「プライマリー・ボイステクニック」をベースに作られたフースラー・メソッドは、そうした文化の壁を超えた発声指導法と言えます。何しろ、ネアンデルタール人までを射程に入れた、人類共通の生物学的ベースに基づいたメソッドですから、限りなく普遍性があると言えます。西洋音楽に限らず、民族音楽を含めたあらゆる分野に活用できるのも、当然なのです。

実際、私が指導してきた方の中には、歌手や俳優、声優に限らず、タレント、アナウンサー、政治家や経営者、教師、スポーツのインストラクター、ビジネスマンまで、「声」を仕事にしている、あらゆる人が含まれています。

ボイストレーニングは人間の声をより自在にし、より自由に表現できるようになるためのものです。もっと歌が上手くなりたい、人前で堂々と話せるようになりたい、自分の声の可能性を追求したい、声を通して、人間と文化の深淵に触れたい……。どんな動機であっても、フースラーメソッドは、きっとあなたの力になってくれることでしょう。

 

第1期会員(2017年5月期)募集受付中!

武田梵声の私塾「野生の声音」

 

武田梵声の私塾「野生の声音」は、フースラーの高弟クレッチマーの流派でフースラーメソードを学んだ直系の孫弟子であり、これまで3万人以上に芸能指導、発声指導を行った第一人者である武田梵声氏が、満を持して開講する私塾です。

会員は毎月1回(原則土曜日開催)定例ゼミにご参加いただけます。その他、イレギュラーにワークショップ等のイベントを行うことがあります。

また、定例ゼミの模様を収録したDVD+αは、翌月、ご自宅に送付いたしますので、ご都合によりゼミに参加できなかった方も、ゼミの内容をご覧いただけます。

詳細・お申し込みはこちらから!

 

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