名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)より

「キャラを作る」のって悪いことですか?

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[Q] ボケキャラ、ツッコミキャラ、ギャルキャラ…最近の若者の間では、付き合う友人によってキャラを使い分けることが一般的になっています。これって良いこと? それとも悪いこと? 名越先生はどう考えますか?

 

[A] 同じ「キャラ」を作るなら、自分が成長できるような工夫が必要

 

キャラは「他人の求め」に応えてできあがるもの

学校でも職場でも友人関係でも、自分の「居場所」を確保するということは大切なことで、「キャラ」というのはそのための有力な「ツール」だと言えるでしょう。リーダー的なポジション、参謀的なポジション、ボケ、ツッコミなど、キャラクター設定はさまざまですが、わかりやすい「キャラ」を作って演じることは、仲間の間で、自分の居場所を確保するのにある程度有効です。

ただし、「ある程度」ということは、そこには限界や、デメリットもある、ということです。その大きな理由は、そもそも自分の「キャラ」というのは、ほとんどの場合、自分だけで選び取ったものではないことにあります。多くの場合、その人のキャラというのは、周囲の他人の求めに応じて自然にでき上がるものです。つまり、ある人が「ムードメーカー」のキャラに落ち着くのは、グループ内でそういうキャラが求められたから、ということですね。

もちろん、最初はそれでいいんです。ただ、これって意地悪な見方をすれば、周囲の人にとって「扱いやすい」キャラに、その人を押し込んでいる、という人間関係の力学の結果だということもできるわけです。

キャラを作ることで、自分の居場所を見つける。それは、ある程度までは非常に有効な方法ですが、必ずどこかで、息苦しさが出てくる。それは結局のところ、そのキャラが自分で選びとったものというよりは、誰かから押し付けられたものだからです。

 

オーディエンス(観客)の力が強すぎる

僕が今の若い人たちを見ていてちょっと気になるのは、「オーディエンス」(観客)の位置にある人たちの影響力が強すぎる、ということです。「◯◯さんはボケキャラだよね」ということがいったん定まると、なかなかそこから抜け出すことができない。それは、グループ内はもちろん、そのグループからちょっと距離のあるような人たちが、いわばミュージシャンのライブを眺めるみたいに、「ボケキャラとしての◯◯さん」を常に見ていて、その空気づくりに加担しているからです。

そういう「観客」の空気に呼応するようにキャラを演じるようになると、もうそのキャラから抜け出せなくなる。「自分のキャラに息苦しさを覚える」というのは、そういうことなんだと思います。

これは、どんな世界でも起こりうることです。たとえば、芸能やお笑いの世界でも、あまりにも熱心なファンがついてしまうと、それまでの枠組みを超えた成長が難しくなってしまう、ということが起きます。熱心なファンが期待するネタなり、曲なりを、同じように繰り返すということしかできなくなってしまう。いわば「期待に引っ張られる」わけです。

そういうファンからの無言の圧力にアクターが引きずられてしまうと、その人の成長が止まってしまう。これは別に芸能界に限ったことではありません。学校や会社など、メンバーがある程度以上に固定化されたコミュニティにおいては、ほとんど避け難く起こってしまうことなんです。

ただ、繰り返しますが、そうやって固定化したキャラの枠組みの中で生きるのは、悪いことばかりではありません。しっかりした「居場所」があったほうが、人は安心して生きることができる。ただ、人生のどこかで、そういうしがらみから脱していかないと、人は成長することはできない、というのもまた事実である、ということです。

僕らはみんな、他人から嫌われ、居場所を失うことに、心のどこかで恐怖心を抱いています。だからなかなか、いったん演じるようになったキャラを変えられなくなってしまう。そこには、現代社会における「観客」からのプレッシャーの強さ、という問題が影を落としているのだと思います。

 

キャラの変化に歴史性を取り戻す

一度演じるようになったキャラからいかに抜け出していくか。これは、現代社会において、人がいかに成長していくか、という問題とほとんどイコールといってもいいぐらいです。

逆にいえば、少し時代を遡れば、そういう「固定化したキャラの問題」を回避する社会の仕組みがあったんですね。その象徴が、徒弟制度です。お店に入った当初は「丁稚」だった人が、手代、番頭とだんだんと出世の階段を上る中で、いやおうなくキャラクターが変わっていく。「丁稚」と「番頭」では、ファッションも、話し方も、表情も、歩き方も、すべてが違う。つまり、社会システムとして「キャラが変わる」ステップがきちんと作り込まれていたわけです。

僕は「キャラクターを使い分ける」ということ自体には肯定的です。ただ、友達グループによってキャラクターを使い分ける、というだけでは、そこには成長の時間軸、すなわち「歴史」がありません。人間関係の「横軸」での変化ばかりで、人が成長していく「縦軸」のベクトルがないのです。

これは長期的に見ると、しんどい状況だと思います。人間的成長をともなわずに、対人関係の中でキャラを変え続けるだけというのは、あまりに不毛です。

観客(オーディエンス)の力が強く、自分のキャラから脱皮できずに苦しんでいる人に、僕がオススメしている方法があります。それは「旅に出る」ということ。それも、あまり目的を定めない旅がいい。テレビ番組で、「ダーツの旅」というのがありますね。ダーツの刺さったところにロケに行く、というあの企画です。ああいうふうに、時には自分の運命をサイコロに任せてみる、というのがいいんです。

一人で旅に出て、周囲に自分を知る人がいないところでは、僕らは自然と、自分が知らなかった自分を演じ始めます。できれば5泊、短くても3泊以上の一人旅に出る。帰ってきた頃には、あなたはそれまでの「キャラ」から脱却しつつあるのではないかと思います。

 

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名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」

2015年8月3日 Vol.105 目次

00【ご案内】類人猿分類の新刊、9月11日発売決定!
01【ピックアップ】「キャラを作る」のって悪いことですか?
02【近況】怒りのデス・ロードとデジャブについて
03精神科医の備忘録 Key of Life
・現実逃避という莫大なエネルギーが蕩尽されつつある
04カウンセリングルーム
[Q1] 母の怒りから身を守るには?
[Q2] 田舎暮らしが耐えられない
[Q3]他人からどう思われているかを知りたい
05講座情報・メディア出演予定
【引用・転載規定】
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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、京都精華大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『質問です。』(飛鳥新社、2013)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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