川端裕人メルマガ・秘密基地からハッシン!より

「日本の動物園にできること」のための助走【第一回】

川端裕人のメルマガ『秘密基地からハッシン!』Vol.038より、新連載・「日本の動物園にできること」のための助走を【第一回】のみ無料でお届けします。

<写真:筆者撮影>

まず最初に。

拙著「動物園にできること」を復刻して、2017年バーションの「第三版」として出版した。紙の本としても手に入れられる。

電子書籍  http://amzn.to/2mGMOUN
紙の本 http://bccks.jp/bcck/149418/info

このコーナーは、ここからはじまる息の長い企画。時々、思い出したようにこってりした内容のものを書いていくと思う。

題して、「『日本の動物園にできること』のための助走。」

「動物園にできること」は、99年に単行本が出て、06年に文庫になった。文庫版が出たのは、ちょうど旭山動物園がブームになっていたころだ。

単行本版、文庫本版は、結局、ベストセラーというわけにはいかなかったけれど「完売」した。つまり、裁断されることなく、印刷した分がぜんぶはけた。その後もしばらくは、流通在庫があったり、中古で安価に手に入ったりで、関心のある人にはよく読まれてきた。

絶版になった旧著を復刻してほしい、また、「続き」を書いてほしいとすごく熱烈に言ってくれる人の多く、まったく手を付けらずにいる現状に申し訳なく思いつつも、なかなかきっかけを得られずにいた。

今年になって、とうとう中古価格が4万5000円に高騰してしまったりして、さすがにこれはいかんと「復刻」のほうは果たした。

では、その先に進みたい。

前作では、基本的に北米の動物園を見ることで(99パーセントそっちがメイン)、結果的に日本を照射する話だったのに対して、今度は「日本の動物園にできること」を!

ふと省みると機が熟してるような気がする。旧版の復刻を果たしたからというだけではなく、「動物園にできること」を読んで、動物園に入ったとまで言ってくれる、あるいは、そこまで行かなくとも、モチベーションが上がったと言ってくれる若手がかなりたくさんいて(自分的には、「キセキの世代」と呼んでいる)、今度はぼくにモチベーションを与えてくれるからだ。

だから、やる。

まずはキックオフということで、いろんな動物園を訪ねては、ああだこうだと考えていきたい。その過程で、もっと取材すべきことが見えてくるだろうし、より精度の高い問題提起ができるようになるかもしれない。

現状、ぼくの知識は、まだらである。本にする時には、もっと全体像がくっきりみえていないといけないわけだから、まだ「助走」の段階。

その「助走」に協力してくれる動物園を訪ねていこうと思う。

最初の動物園は、茨城県日立市のかみね動物園。最初だから、問題意識の抽出のためにすごく長く、濃密に語る予定。

一度ではとうてい無理なので、何回かに分けていく。今回は、「さわり」のみ。

次回から、ガンガン飛ばします。

 

第1回 かみね動物園を訪ねる

茨城県日立市のかみね動物園を訪ねたのは、ちょっとした縁である。

ZOOサロンという、一般向けの講演を依頼され、その際、園長の生江信孝さんと一緒に園内をめぐって、色々、話を伺うことができた。

市民に対して、来園者に対して、そして取材に対しても、とてもオープンな運営方針で、「なんでも聞いてください」と言ってくださるのをいいことに、あんなこともこんなことも聞かせていただいた。

せっかくなので、東京圏からのアクセスから。

常磐線特急に乗れば、上野から1時間半ほどで最寄りの日立駅に到着する。この駅がとても印象的で、動物園に行き着く前のこの段階で、最初の驚きがあった。

太平洋が一望できるガラス張りの開放的な駅舎と、視界いっぱいに広がる海と空は、晴れていても曇っていても、胸にぐっとくる。これは、かみね動物園を電車で訪問する人たちの共通体験ではないだろうか。

日立市は、文字通り、日立製作所の城下町だが、そもそも、日立製作所は、神峰山にあった日立鉱山の機械修理製造部門から発している。お山の名を冠するかみね動物園は、日立市のハート、みたいなところにあるのかもしれない。


〈日立駅から太平洋をのぞむ〉


〈工場が駅からも見える〉

さて、駅からかみね動物園へは、日立電鉄バスに乗るとよい。10分ほど山側に走った斜面に立地していて、バスはすぐ近くを通っている。

入口には、かつて飼育しており人気者だったゴリラのダイスケをモデルにした像があった。平成24年6月10日に亡くなり、かみね動物園では最後のゴリラとなった。

ゴリラの話題になると、自動的に日本の動物園のこれからを案じてしまうのが、ぼくの最近の傾向だ。群れで飼育すれば繁殖するとわかりながら、動物園どうしが協力しあって、そこに至るまでずい分時間がかかってしまった。

結果、日本のゴリラは、今後、消えていく。だから、かみね動物園にも、ふたたび導入される見込みは今のところない。市営なので、議員から「ゴリラは入れられないのか」という声があがることもあるそうだが、現実的にそれが不可能であり、動物園としての「倫理」にももとることだというのは、おいおい説明しなければならない。

ここでは深入りせずに、園内へ。

最初に出会うのは、アジアゾウだ。ミャンマー生まれのメスで、ミネコとスズコの2頭。

ゾウは人気者だ。この日も、ゾウ舎の前には絶えず人がいて、子どもたちは目を輝かせていた。

でも、ゾウの飼育は動物園にとって、目下最大の懸案でもあり岐路に立っている……と語りそうになりつつ、やっぱりここは自重。のちに戻ってこよう。

(今回はここまで)

〈入口にはゴリラ(でも、今は飼育していない)〉


〈ゾウの放飼場〉

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「日本の動物園にできること」のための助走・第二回は最新号のvol.039にて読むことができます。

川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!

2017年4月21日Vol.038
<「日本の動物園にできること」のための助走/大英自然史博物館展/カワバタヒロトへの何でも質問箱/午後3時、JPLで待ち合わせ その2/蜂須賀正氏のドードー研究書を読む>ほか

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目次

01:「日本の動物園にできること」のための助走
02:【カナダ、恐竜と古生物の旅】
03:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
04:大英自然史博物館展からその先へ~どこよりも(まだらに)詳しい特別展ガイ
ド その2
05:宇宙通信:午後3時、JPLで待ち合わせ その2
06:カワバタヒロトへの何でも質問箱
07:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(38)蜂須賀正氏のドードー研究書を読む!
その1
08:著書のご案内・イベント告知など
09:特別付録「動物園にできること」を再読する:第八章「野生復帰の夢」コメン
ト編前半

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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