※高城未来研究所【Future Report】Vol.654(12月29日)より
今週は、クアラルンプールにいます。
現在、マレーシア全土で巨大ショッピングモールの開店ラッシュが相次ぎます。
つい先日もKLの中心地ブキビンタンに「ザ・エクスチェンジTRX」がオープン。
同時期に日本で鳴り物入りではじまった麻布台ヒルズの店舗数およそ150店舗に対して、「ザ・エクスチェンジTRX」は400店舗超。
シャネルをはじめとするメガブランドや屋上公園などを有し、すでに落ち着いた感がある麻布台ヒルズとの熱気の差に、正直驚いています。
巨大モール「ザ・エクスチェンジTRX」のTRXとは、トゥン・ラザック取引所(Tun Razak Exchange)の頭文字をとったもので、マレーシア財務省がクアラルンプール中心部に開発した70エーカーのあたらしい金融街の略称です。
当初から同じ時期に開業予定の麻布台ヒルズを意識し、日本一の高層ビル「森JPタワー」が地上64階建て高さ330メートルなのに対し、TRX地区の最高層ビルは地上90階建て高さ453.6メートルと遥かに凌駕し(実はマレーシアで二番目)、近隣にも200メートル超えのビルが6本も立っています。
まさにマレーシアの高度経済成長を実感できる開発地域ですが、建築そのものの出来は日本より遅れをとっているのは否めません。
新しくオープンしたにも関わらず、タイルのひび割れや未完成の天井、エスカレーターやエレベーターの故障に至るまで、建物の粗雑な出来栄えは拭えません。
オープン2日目には、数時間の停電に見舞われました。
実はこのTRX地域は、このメールマガジンでも何度かお伝えしたことがあるマレーシア政府系ファンド「1MDB」が、当初立案していました。
「1MDB」は、国内産業の振興・多角化を建前とするエネルギー・不動産・観光・農業のための巨大ファンドでしたが、当時のナジブ・ラザク首相の個人口座に1000億円近い金額が振り込まれていたことなどがパナマ文書から発覚し、巨大マネーロンダリングの温床として知られていました。
この資金洗浄の一部として作られたのが、レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でした。
マーティン・スコセッシ監督による傑作映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、実在する株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの回想録「ウォール街狂乱日記」を原作に大ヒットしますが、プロデューサーはナジブ前首相の義理の息子ナジブ・ラザクと友人のリザ・アジズだったのです。
彼ら二人は、マネーロンダリングのために映画製作会社「レッド・グラナイト・ピクチャーズ」を設立し、マレーシア政府系ファンド「1MDB」から1年間で300億円を超える資金を横流しして映画制作のほか、ヨットや高額美術品などを購入し、放蕩の限りを尽くします。
また、「1MDB」ではビットコインを用いた資金洗浄も活発に行っていました。
当時の財務大臣がビットコインや仮想通貨について規制はまったく考えていないと述べていたことから、一時マレーシアは仮想通貨天国とまで言われて、フィンテックを表看板にブロックチェーン技術会議を開催しますが、実態は他でもなく、自分たちのマネーロンダリングが目的だったのです。
しかし、この世の春を謳歌したのも束の間、睨みがきく国内メディアではなく、外圧同然だった英語圏メディアが次々と不正を追及し、ナジブ首相は逮捕されるに至ります。
この「1MDB」の中核プロジェクトがTRXであり、シグネチャー・タワーは、新しく透明性があるマレーシア金融システムの象徴そのものとして再設計されます。
その後、パンデミックを乗り越えて、この度やっとオープンに漕ぎ着けました。
昨年2022年の経済成長率は8.7%と東南アジア主要国のなかで最高だったマレーシア。
「ザ・エクスチェンジTRX」は、果たして汚職に塗れたバブルの塔なのか?
それとも、あたらしいマレーシア金融システムの象徴となるのでしょうか?
「荒削り」感は否めませんが、勢いと熱が止まることは当面ないだろうと感じる今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.654 12月29日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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