※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年12月28日 Vol.203 <今年もありがとうございました号>より
12月1日より、BS/110度CSによる新4K放送がスタートした。右旋および左旋での放送となるが、NHKおよび在京民放キー局の放送は右旋なので、従来設備でも受信できる。ただし日本テレビの「BS日テレ」だけは来年9月1日からの放送開始なので、まだ見られない。
一応筆者も仕事柄、4K放送の内容は把握しておきたいと思い、4Kチューナーを購入して受信してみた。入手したのはピクセラの「PIX-SMB400」だ。家電メーカーからもチューナーは出ているが、今年4月の「4K8K映像機材展」で取材させてもらって「買います」と言ってしまった手前、買わないわけにもいかない。
・俯瞰するには悪くない? 「4K8K機材展」
https://av.watch.impress.co.jp/docs/ex/kodenishi/1116034.html
今回は、既存設備で新4K放送を受信するまでのプロセスをご紹介しよう。
まずは配線の見直し
筆者宅は110度CSを契約していないので、BSの受信に限った話で進める。CSもアンテナが別なだけで、実際に配線は混合されて引き回されているはずなので、基本は同じように考えてもらって差し支えないだろう。
新4K放送の受信は、まず周波数帯域を理解することから始まる。BSには右旋と左旋が、従来の放送は右旋で行われてきた。したがってアンテナも、最近のモデルでなければ右旋しか受信できない仕様となっている。したがってBSの場合、右旋で受信できるのは下記の表の青エリアの放送局に限られる。
・4K8K放送事業者が使用する放送波(A-PABサイト)
一応在京民放とNHKは入っているので、総合番組は受信できる。
続いてケーブリングだ。屋根に上って自分でアンテナを立てる人はあんまり居ないと思うのでご存じない人も多いだろうが、地デジやBSなど複数のアンテナがある場合、屋根の上で混合器を使って1本の信号にまとめ、ケーブル1本で室内まで引き込まれる。そして室内で分波器を使って地デジとBSを分離し、別々のケーブルでテレビチューナーに配線する。
ここで次の図をご覧頂きたい。テレビ放送の周波数帯域は、その時代時代によって次第に高周波化してきた。
・テレビ放送の周波数帯域(パナソニック「4K・8K放送を視聴するための準備」)
10数年前の室内配線機器であれば、一番上の10〜2071MHz対応のはずだ。いわゆるケーブルの芯線むき出しで配線しても問題なかった時代である。これでもアンテナが右旋だけしか対応していないなら、BSの受信は問題ない。10年ぐらい前に設備更新した建物なら、もう少し高周波対応の10〜2602MHz対応の機器に置き換わっており、CS右旋とBS左旋の一部の帯域まではカバーしているはずだ。
もし完全に左旋まで受信したいのであれば、アンテナを変えるだけでは済まない。左旋の周波数まで対応した設備に全入れ替えだ。つまり、アンテナを始め混合器、信号を増幅するブースター、信号を分岐させる分配器、地デジとBS/CSを分離する分波器、そして壁埋め込みのテレビ端子である。設備が古い場合は、ケーブルも引き直しが必要かもしれない。
WOWOWやスカパー!といった専門チャンネルを受信したいのであれば、左旋対応するしかないが、普通に民放とNHKの総合番組が見たいだけであれば、既存設備のままでチューナーだけ買えば受信できる。筆者宅の場合は、分波器が前時代のものだったので、それだけは新しいものに交換した。
4K放送の現実
4K対応チューナーへは、分波したBSを直接チューナーに挿せばよい。あとはチューナーのHDMI端子でテレビと接続するだけで、4K放送が受信できる。4:2:2対応やHDR対応は、それほど気にしなくていい。Autoモードにしておけば、チューナー側が自動で判断する。
・解像度やHDR対応はオートモードで自動的に判断される
なおピクセラのPIX-SMB400はアンドロイドTVなので、テレビ受信以外にもストリーミングサービスが受信できる。ただイマドキの4Kテレビなら、すでにネットサービス受信機能が内蔵されているものも少なくないだろう。本機はUSB端子にHDDを繋げば、番組の予約録画ができる。チューナーとしての基本機能は全部入りである。
では現在放送されている番組表を見てみよう。12月27日の放送だが、お昼から夕方にかけて、NHK以外はほぼテレビショッピングで埋まっている。
12月27日お昼の番組
実際にいくつか視聴してみたが、ショッピング番組はほぼ生放送なので、4K放送である。ただし、各民放自前の番組ではなく、QVCやショップジャパンなど、いわゆる他局の番組が流れているような状況だ。
ドラマの「はぐれ刑事純情派」や「江戸の旋風」は、SD時代の番組だ。これを4Kにアップコンしても、驚くほどの高画質になるわけではなく、単に4Kテレビなりに引き延ばされて見られるだけである。
一方でNHKは頑張っている。ほぼドキュメンタリーではあるが、元々4Kで制作した番組を再放送しているようだ。過去の番組ではあるが、ある意味見逃し放送が4Kで行われている。
プライムタイムになると、民放各局もショッピング以外の番組編成となる。だが朝日は旅番組、テレビ東京は卓球リーグ、TBSとフジは報道番組だ。そして0時を過ぎるとまたショッピング番組に戻るという状況である。
12月27日のプライムタイムの番組
4Kのキラーコンテンツとは何かと言われれば、確かに紀行ものやドキュメンタリーなどは4Kらしいかもしれない。あるいはスポーツ中継もアリだろう。だが報道や演芸番組は4Kのキラーコンテンツとは言いがたい。単に生放送だから4Kでやれる、というだけのことだろう。
正直、現時点ですぐに4K放送が見たいという番組編成とは言えない。ただ大晦日と元旦は、各局とも長時間のスペシャル番組を用意しているようである。特にNHKでは、年末の紅白歌合戦は地上波とは全く違うカメラ割りでの放送を予定している。地上波と4Kのテレビを2つ並べて両方見ながらというのは、なかなか楽しいかもしれない。
新4K放送も、開局まではずいぶんとキャンペーンを行っていたが、開局してからは逆にあまり情報が聞こえなくなっている。せっかくのスペシャル番組も、放送まであと数日に迫っているというのに、もっとネットなどを使って積極的に番組宣伝をやったらどうなのか。テレビの告知はテレビでやれば十分という時代は終わり、テレビを見ない人を4K放送に呼んでくる、そういう気概がなければ、普及はおぼつかないのではないだろうか。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2018年12月28日 Vol.203 <今年もありがとうございました号> 目次
01 論壇【西田】
VRMで考える「フォーマットとはなにか」
02 余談【小寺】
意外に簡単に見られる新4K放送。だが課題も…
03 対談【小寺・西田】
機材から語る、アダルトビデオの栄枯盛衰(5)
04 過去記事【西田】
岡山で見た「タッチネイティブ世代」
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!
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