高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

高解像度と景気の関係

高城未来研究所【Future Report】Vol.556(2022年2月11日発行)より

今週も東京にいます。

先週土曜日に港北イオンシネマで開催しました「green bean to bar CHOCOLATE Film Festival」に、コロナ禍にも関わらず大変多くの方々にご来場いただきました。
この場を借りまして、厚く御礼申し上げます。
誠にありがとうございました。

今回の上映では、現存する世界最高の解像度を誇る8Kプロジェクターを持ち込みまして、70mmフィルムを超える体験をご提供したいと考えました。
と申しますのも、僕が子供の頃に見たジョージ・ルーカスの「スターウォーズ」やスティーブン・スピルバーグの「未知との遭遇」などの強烈な映像は、シネラマと呼ばれる湾曲した巨大スクリーンを装備していた映画館で上映されていたソフトとハードの融合がもたらした唯一無二の体験で、これを超えるものを目指しました。

「シネラマ」とは、3本に分割された70mmフィルムを同時に再生してひとつの映像として繋げ、アスペクト比2.88:1という超横長サイズのワイドスクリーンで上映する特殊規格のことで、デジタルの解像度に置き換えれば、20Kを凌駕し、現在、上映されている劇場映画の100倍以上の情報量を持っていまます。
まさにリアル!(つまりVR)。
スクリーンの幅も横30メートルを超え、劇場の定員も1500人。
7チャンネルのサラウンドのため、各映画館には専門の音響エンジニアが配置され、劇場の広さや観客数などを考慮しながら、都度サウンド調整をしていました。
かつて映画を見に行くというのは、ライブ体験も同然だったのです。 

しかし、「シネラマ」方式による劇映画を製作するのはコストがかかります。
そこで、70mmフィルムを撮影時に縦圧縮し、上映時に横伸長するアナモルフィック方式が生まれました。
また、ブローアップと呼ばれる拡大技術の精度が向上し、35mmで撮影された映画も湾曲した「シネラマ」方式の劇場で上映されるようになります。
僕が見た「未知との遭遇」や「スターウォーズ」は、この方式です。

時を経て、日本のバブル期。
都心の真ん中にある高解像度を売りにした巨大シアターは、VHSビデオテープの普及と共に無用の長物と見做され次々再開発され忘れ去られていってしまい、同時にテレビが情報の窓として国民に定着します。
一方、音楽産業はレコードからCDへと移り変わる時でもありました。

さらにこの10年、映画も音楽も「ストリーミング」時代にあわせ軽量化され、バレないように情報を間引き、品質は劣化するばかり。
このような利便性を高めることを優先した「劣化時代」の反動から、近年、レコードの復権やアナモルフィック・レンズを使ったフィルム撮影や70mmフィルムをを水平方向に送るIMAX撮影が増えてきましたが、日本は肝心の上映方式が追いつきません。

かつて米国マイクロソフトの副社長で、圧縮技術MP3の開発に携わった西和彦が、後年「音楽を台無しにしてしまった罪滅ぼし」にオーディオ事業をはじめ、同じくマイクロソフトの共同創業者だったポール・アレンは、私費を投じてシアトルに「シネラマ」劇場をオープンしましたが、いまや日本では「シネラマ」どころか、70mmフィルムを上映できる劇場も皆無になり、技術者もいなくなってしまいました。

実は世界初のIMAX上映は、1970年大阪万博の富士(銀行)パビリオンで、この成功を得て開発元カナダ・マルチスクリーン社はIMAX社と改名します。
1985年には、つくば万博で再びIMAXが設営され、超高解像度映像と大音響が人々を驚かせました。

個人的には、高解像度と景気は同じような曲線を辿ると考えており、米国のゴールデンエイジに70mmフィルムが栄華を誇り、日本のゴールデンエイジにはIMAXやシネラマ、70mmフィルム上映ができるシアターがあちこちにあったことを思い出すと、あながち間違っていないように思います。
現在、中国のIMAXスクリーン数は、世界最大(米国の二倍)です。

もしかしたら、数週間しかないオリンピックより、高解像度の常設シアターとソフトこそが、国威発揚やあたらしい産業の牽引力になるのではないかと考えます。

また、どこかで上映会を企画したいと思います。
どうか懲りずにお付き合いくださいませ。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.556 2022年2月11日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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