※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年3月2日 Vol.163 <値の意味を考える号>より
2017年1月、クラウドファンディングサービス「Indigogo」にて、Gemini PDAなる製品の募集がスタートした。公開されたプロモーションビデオを見ると、かつてイギリスで販売されていたPDA「Psion 5mx」によく似ている。開発者の中には、かつてPsionをデザインした方も名を連ねているということで、仕上がりはかなりそれに近いものになるはずだ。
Psion向けに開発されていたOS「Synbian」は、その後ケータイ向けOSに転換して、スマホブームの直前まで活躍した。一方Geminiは、イマドキのマシンらしく、Androidだという。加えてLinuxでも起動する、デュアルブートとなる予定だという。
かつて筆者はかなりPsion 5mxを使い倒しており、あのキーボードを使って取材のメモ書きもこなしていた。入門用の書籍も出したことがある。これはオーダーしないと、ということで申し込んでいたのだが、2月28日に手元に到着した。
・2月ギリギリに到着したGemini
価格はかなり初期のキャンペーンに応募したこともあり、4G+Wi-Fiモデルで本体価格349ドル、送料70ドルの合計419ドルであった。こうした輸入物では、技適(技術基準適合証明)マークの有無が問題になるところだが、箱の底部に技適マークがあった。充電機にもPSEマークがあり、こうしてメディアでご紹介するのにも問題ないのは一安心だ。
・パッケージもなかなか凝っている
・箱の裏に技適マーク
概ね期待どおりの仕上がり
Psion 5mxをご存知ない方も多いと思うので、比較するのも意味がないかもしれないが、サイズ的にはまさに同じである。キーボードの配列も同じだ。ただし開き方が違っている。Psionの場合、キーボードが手前にせり出す設計となっていた。このギミックはカッコいいが、スペースバーがボディよりも手前に出てくるので、強くスペースバーを押すと、本体ごと手前に傾くという弱点があった。
・印象はPsionに似ている
一方Geminiは、ディスプレイの背面下部が後ろにせり出すことで、開いたときにキーボードがやや傾斜する設計となっている。薄い金属カバーをゴムパーツで繋いで曲がるようにしてあるのだが、そのゴムの背中がテーブル面に丁度当たるように設計されており、不用意に滑らないようになっている。このあたりの工夫が、デザイナーの腕の見せ所である。
・開いたときの構造が違う
Psion 5mxの打鍵感はかなり硬めで、ハードパンチャーでなければ取りこぼす感じがあった。それだけしっかり作られていたのだが、Geminiのキーボードはかなり打鍵感がソフトだ。取りこぼす感じは少ないが、キーの戻りが若干ペタペタする。メンブレン用のゴムシート材質が柔ら過ぎるのか、キートップの取り付けにぐらつき感がかなりある。キーボードがメインのモデルなだけに、このあたりは今後、改良して欲しい部分だ。
・キーレイアウトはほとんど同じ
本体の左サイドには、イヤホン端子とUSB-C端子がある。こちらの端子が充電用だ。右側には「スマートボタン」ともう一つUSB-C端子があるが、こちらの端子はHDMI出力ができるようになっており、充電には対応しない。スマートボタンは、ここを押すことで音声コマンドに対応するはずだが、色々設定をいじっている間に何も反応しなくなってしまった。おそらくこのボタンは、何らかのユーティリティでプログラムできるようになるのではないかと勝手に期待している。
ディスプレイの左右には、ステレオスピーカーがある。ただこの薄さなので、音楽のリスニングには向かない。ディスプレイを閉じると、天面に2つの隙間が見える。ここはディスプレイを閉じた状態でも通話できるよう、マイクとスピーカーになっている。どちらがマイクでどちらがスピーカーになるかは、本体のジャイロ検出により自動切換するようだ。
・天面には通話用スピーカーとマイク
SIMとSDカードスロットは、ディスプレイ背面のフタを開けた中にある。開けるためのツールも付属しているが、これを忘れると海外出張時にSIMの入れ替えができなくなるのは辛いところである。真ん中にある端子は、別売のアウトカメラユニットを取り付けるための端子である。デフォルトでは、カメラはディスプレイ脇のインカメラのみだ。
・上のツールでフタをメリメリッと開ける大胆設計
OSはスッピンのAndroidなのだが、操作は横向きのため、戸惑う部分もある。縦での使い方を思い出しながら、えーと、あれ? ああ、そうかそうかと納得して先に進む、そういう感じだ。
Linuxのブートは後日のアップデートということになっているので、現時点でのGeminiは単にハードウェアキーボードの付いたAndroidスマホである。そんなわけで展示会等での取材記事では、どうも変わり種スマホ文脈で語られる事が多いのだが、筆者が期待するのは電車内での原稿書きマシンである。つまり、現代版小型ワープロだ。
普通のスマホで書けばいいじゃないかと思われるかもしれないが、フリック入力では、残念ながら考えるスピードに入力が追いつかない。するとどうなるかというと、何を書こうとしたか忘れちゃうのである。せっかくの名文を思いついても、空中にどんどん消えていってもどかしい思いをする。
かといってソフトウェアのQWERTYキーボードではキーが小さすぎて、10本指を使ったタイピングなど到底できない。じゃあノートPCやタブレットは、というと、これも運良く席に座れないと入力できない。これまで色々試行錯誤したのだが、自分で納得できる方法論が見つからず、とうとう移動中の原稿書きは諦めてしまったという経緯がある。
Geminiはそのサイズから、カバンの上に置いても安定するし、立って使っても親指2本でタイプできるサイズだ。今後は原稿が詰まっている時は取材を諦めたりしてきたが、今後はもっと積極的に取材にも行けそうである。また機会があれば、細かい使い勝手などをご報告しようかと思う。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2018年3月2日 Vol.163 <値の意味を考える号> 目次
01 論壇【西田】
「電子書籍コミックが紙を抜いた」インパクトは本物か
02 余談【小寺】
ようやく到着 ポータブル原稿書きマシン「Gemini」
03 対談【西田】
Cerevo・岩佐さんと語る「出展する人のためのCES講座」(2)
04 過去記事【西田】
キーボードが「パソコンの印」でなくなる時代
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!
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