高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

グローバリゼーションの大きな曲がり角

高城未来研究所【Future Report】Vol.487(2020年10月16日発行)より

今週は、浜松にいます。

ある朝、カフェで友人を待っていると、ふとまわりを見渡せば、周囲はブラジル人ばかり。
どうやら新型コロナウィルス感染拡大により工場が閉鎖され、コミュニティの溜まり場となっている様子です。

欧州であればベルギーやドイツなど、全国民の15%から20%近くが欧州以外からの移民のため、街角のカフェが、各国移民コミュニテイになっていることが、多々あります。
香港でも日曜になると、セントラルにフィリピン人やインドネシア人メイドが集まり、香港でありながら、香港ではない空間を形成しているのを目撃します。
香港には約35万人程の外国人メイドが働いており、人口比で約5%程度のフィリピン人とインドネシア人メイドが同国に滞在していることになりますが、日曜に開催される移民コミュニティの光景を見ると、5%程度でも圧倒されてしまうと実感したことがあります。

一方、日本は世界的に見て移民が少ない先進国として知られ、移民率で見ると2%にも満たないのが現状です。
このわずかな移民は、東京、大阪、名古屋などの大都市を除けば、中部地方に固まっています。
その理由は、工場で働く労働者確保のためで、それゆえ、長野や群馬、静岡に多く、なかでも浜松の南区は、日本で一番ブラジル人が多い地域として知られ、僕も伺ったことがありますが、ブラジルのスーパーや新興宗教のウンバンダ教会まであり、まるでリトル・サンパウロの様相でした。

さて、カフェで大声で話す彼らに耳を傾けると、幸いにもポルトガル語とスペイン語が近いことから、何について話し合っているのか、それなりに聞き取れますが、どうやら、工場の働き手であった彼らや彼らの家族が、いま、露頭に迷うかどうかの瀬戸際に立たされている様子が伺えます。

なかには、工場で提供される食事を頼りにしていた人もいるようで、明日食べるものをどう調達するかと、困り顔でずっと話している人もいました。

一般的に、歴史ある国の移民率が12%を超えると、社会がいびつになると言われています。
ベルギーは、現在およそ18%まで移民率が高まっていることから、社会が相当不安定になっており、というのもコミュニティが発展する形で国家内国家を形成し、独自の法律のもとで別の社会システムを作り上げ、事実上の無法地帯が出来てしまっているからです。

ベルギーの街を歩いていて、うっかり別の国家内国家に入ってしまったら、そこは本当に別世界。
話している言語も価値観も、ベルギーとは異なります。
これと同じ感覚を、浜松の街角のカフェで感じたのです。

実はこの数ヶ月、浜松で起きるブラジル人事件は急増しており、先月も浜松市の住宅に侵入して現金を盗んだとして、連続窃盗犯の疑いがあるブラジル人の男4人が逮捕されました。
また同じく先月、高級車を狙い盗んでいたブラジル人らが逮捕され、静岡県中部と東部で、同様の被害が50件ほど相次いでいると発表されています。

これは、単に偶然かもしれませんし、もしかしたら何かの予兆なのかもしれません。
この予兆とは、単に移民による犯罪増加を示しません。

欧州を見ると、移民率が5%を超えたあたりから国民に社会不安が高まり、同時にポピュリズム政権が台頭しはじめ、8%を超えるとそれまで考えられなかったような人物が、リーダーとして支持を集めます。
そして12%を超え、いびつになった社会を取り戻すと宣言して登場した人物、つまりポピュリストが、その地区のトップに治ります。
米国を見ればわかりますが、21世紀に入ってヒスパニック人口が急増し、2012年には人口比13%を超え、2016年にはトランプ大統領が誕生しました。

現在、浜松南区の移民率は3%程度ですが、二世まで含めた出生率を考えると、そう遠くないうちに静岡からポピュリストな政治家が登場し、2030年代後半あたりに、地域のトップになることが、十分考えられます。

仕事がなくなり、帰ろうにも母国での新型コロナウィルス感染拡大により、帰国もままならず、やがては食べるものにも困窮していく。
この光景は、ユーロ危機と言われた2011年に、欧州で僕が散々見てきた光景と酷似しています。
つまり、西と東の間と言われる静岡で、今までとは違ったポピュリズム運動が起きるのを、僕はどこかで想起するのです。

近年、在留資格「特定技能制度」に代表されるように、政府は移民受け入れを急速に推し進めています。
それもそのはず、「人手不足対策」としながらも、実態は不動産資本主義とも言える日本の金融&ゼネコンシステムを維持するため、都心の空いてしまった不動産を埋めるのには、もはや移民しか手がないからに他なりません。

ちなみに、日本の公式な「移民」の定義は、「1年以上外国で暮らす人」を移民としていることから、僕も移民ということになります。

朝のカフェで見た、悲痛な移民の叫び。

グローバリゼーションの大きな曲がり角を、浜松で感じる今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.487 2020年10月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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