やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

貧乏人とおひとり様に厳しい世界へのシフト


 民泊大手のAirbnbの業績好調の一方、ニューヨーク市でも民泊の実質的な禁止が打ち出されました。勿論主たる理由はニューヨーク市のハウジングコスト急騰で、ホームレスが増えたことが一因ですが、他方で、年間550万人が訪れるとされるニューヨーク観光における貧困旅行制限をしないと市運営が立ち行かないよという切実な事情も出ています。

 禁止に至った市議会の議事録の一部も公開されていましたが、中でも、Wiredも記事にしていたエアビー物件が増えると犯罪も増えるという、まあそりゃそうですよねという論文の中身が追試で事実と認定されたことは物議を醸しました。

都市に「Airbnbの物件」が増えると犯罪も増える? ある研究が浮き彫りにした地域社会の課題

 もちろん、民泊が原因かどうかという因果推論までは当然ながら達していませんが、単純な構造では安く匿名性のある民泊が行き渡れば当然のようにそれを根城にする犯罪が増えるという可能性は容易に思いつくわけですから、この辺のシェアリングエコノミー関連の議論は業界側が考えるほど社会的には良いインパクトだけがあるわけではなく、また、むしろ遊休資産が安く流動することを考えれば必ずしも思うような経済効果があるわけではないという理屈も理解しておく必要があると思うのです。

 これらは、その地域に住んでいる人の質を下げる仕組みをシェアリングエコノミーによって安く宿泊することが可能になることで実現してしまうリスクそのものなのであって、同じことは、白タクのような自家用車ライドシェアもまた、同様の効果を示す可能性があります。留意すべきは、利便性を引き揚げるUber Taxi的なサービスは経済合理的に意味はあるけれど、ライドシェア自体は経済効果がないか、安値での運用になるのであればマイナスになりかねないよという問題です。

問題はライドシェアではなく、配車システムの利便性とタクシー運転手さんのお給料の問題

 それもこれも、安く便利に移動したい利用者からすれば、価格が下がって便利じゃないかという一方、これってちょっと前までお前らが問題視していた客単価が引き上げられないデフレ問題の根幹だったんじゃないですかという問題なんですよね。既存のタクシー業者の利便性が上がったり、客単価が引き上げられたりすれば経済的に成長はするのかもしれませんが、ライドシェアで起きていることはこれらの既存のサービスから客を剥がしてきて安い値段で品質が担保されない移動手段を規制緩和で用意しましょうという話に過ぎませんから、やはり政策的にはUberのように便利なシステムを参考にして既存のタクシー会社のアプリ配車サービスをもっと便利にしろや、そのついでにタクシーの運賃を上げたり、より合理的なリムジン(ハイヤー)サービスにシフトしろやということに尽きます。

 さらに、これらの議論の根源には「貧乏人はコスト高なサービスを使えなくなっていく」ことでもあります。また、一人で行動する消費者・利用者にとっては、複数で同じリソースを使う類のサービス(宿泊やタクシー移動など)は、コスト対比で見ればどんどん不利になっていきます。都市生活の基本は、どのような事情があっても国民の動きを制約しないように経済的価値を決めていきましょう(=家族でも単身者でも必要であるならば一人あたりの費用が同じになるようなサービスグレードを準備しましょう)から、複数利用を前提とする経済活動にシフトすることをも意味します。

 おそらくは、同じようなことで金融サービスもコンテンツも、サービスを受ける個人の予算や信用のグレードを推測して、低いドブ客にはサービスを行わない仕組みになっていく可能性が強く示唆される現象ですし、人口が減少し生産性が低い地域はますますこれらの取り組みから脱落していくことは間違いありません。悪くいくと病院も教育育児も移動も生産活動も、成り立たない地方では人が住むなという状況になるのでしょう。それでいいんでしたっけという議論をべき論で進められる時代は過ぎつつあり、人口減少による撤退戦で人が住まない地域にはサービスを行わない方向に(ますます)行かざるを得んのかなあと思う次第です。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.417 貧乏人とおひとり様に厳しい世界がやって来ることに心を痛めつつ、芸能プロダクション汚染や自動運転のこれからについてあれこれ考える回
2023年9月25日発行号 目次
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【0. 序文】貧乏人とおひとり様に厳しい世界へのシフト
【1. インシデント1】橋本環奈も元モーニング娘。も、芸能プロダクション汚染で取り沙汰される旦那衆問題
【2. インシデント2】無人のトラックやタクシーを自動運転で走らせるということ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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