やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

圧力というものに関して


新年早々メルマガにこのようなことを書くのもなんだとは思うのですが、一般的な企業不祥事をメディアでやるとき、普通は一度取り上げただけでは終わらず、二度、三度と繰り返し問題を報じることになります。もちろん一回目で大反響で是正されて終わりというのが理想なのですが、実際にはいくつかの理由で複数回ネタを用意してしばらく問題が話題となるよう工夫するのが常道でありますし、私も実際そのようにします。

なので、一番最初にセンセーショナルなタイトルで問題を報じると当然みんな「おっ」と思ってくれるわけなんですが、その一発目の盛り上がりだけで「ああ、話題になったね、良かったね」で終わらせるわけにはいかないので、二発目、三発目、あるいはそれ以上の話題になりそうなネタを仕込んでおく必要があるわけです。

逆に言えば、単発で終わってしまうようなネタはネタではありません。たとえそれが反響を呼ぶものであったとしても、あんまりそれ以上には広がらないので、いわゆる「検索エンジンの肥やし」とか、何かあったときの引用用、思い返し用になって終わるだけです。

その点では、年始のソシャゲ話などまだいいほうで、取材を進めて裏づけを取ったと思ったらいきなり圧力がかかったり、関係者が証言を撤回して使わないでほしいと言い出したりすると「ああ、やっぱり何かあったな」と思うわけであります。場合によっては、大スポンサーとしての立場もあるから広告引き上げるぞとか平気で言ってくるわけでして、報じる前からそういう話になるぐらいなら、そんな取引切らせてでも本丸の問題について語るぞコラという話になりやすいのが私の心情であります。

いま本腰で調べたいなあと思っているもののひとつが横浜の再開発事業、というか横浜カジノであります。別にソシャゲ云々はどうでもいいけど横浜スタジアムの運営権が本当に最後まで着地するのかや、計画の中枢に入っている埠頭は特定筋方面では著名人の超絶おじいちゃんの利権そのものなので、そんなものに銭突っ込んでカジノをおっ建てるのが本当に国民の利益に直結すると本気で信じているのか聞いてみたい気分で一杯なのです。

しかしながら、お台場はもちろん、築地だ沖縄だ大阪だ宮崎だと各地域のカジノ構想が事実上見送られ、生き残っているIR法適用対象候補地が事実上横浜のみなんだと彼らが説明する以上、なぜ横浜なのかをもう少しきちんと説明していただかなければならないと思うわけであります。

こういう話を新聞社があまり書かないのは、配慮をしているからではなく、新聞社が掲げる裏取りの水準まで引き上げるのがなかなかむつかしいからです。別に直接の圧力がどうというのは二の次で、また天の声的な配慮があるとしても「お前らのビルに入居しているその政府系団体の賃料はいくらなんだ」という嫉妬のような反論がある程度でそれ以上の話にはなかなかならないでしょう。

一人の人間として、知られたくないことがあって、それを書かないでほしいと思う気持ちは分かります。しかし、事実関係として法的な問題があったり、税金を投入するような公的な話で手続きを踏まずに強行しようとしたり、あるいは特定の反社会的な誰かの懐に多額の資金が転がり込む的な話があったのだとすると、むしろきちんと書かれて公の人々に見てもらって、どう判断するべきなのか衆議を経て解決していくのが望ましい社会だろうと思うわけであります。つまり、書かれないことで表ざたにならずひっそりと決めてしまいたいと願うのは、必ずどこかにやましいところがあって、他の人に知られると難癖をつけられて頓挫するのでどうにかしたいということなのでしょう。

その活動に意義があるのだと言いたいのであれば、堂々とそのように主張すればよく、営業妨害だ中傷だという話ならば、では現行法や一般的な社会通念においてそれが許されることなのかどうかということは、胸に手を当ててよく考えてほしいと強く願う次第であります。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.146 新年早々、カジノ問題や芸能界のあれやこれやでメディアのあり方に思いを馳せつつ、サイバー戦争や日本の政治にも触れるてみる回
2016年1月25日発行号 目次
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【0. 序文】圧力というものに関して
【1. インシデント1】ベッキーは叩かれて、なんでジャニーズ事務所はいじられないんですかね
【2. インシデント2】ITと安全保障の関わり方が問われる時代の到来
【3. 特別対談】乙武洋匡さん:第一回
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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