やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

連合前会長神津里季生さんとの対談を終え参院選を目前に控えて


 先週、参院選公示日を控え、死ぬほど忙しいところを双方調整のうえ念願の対談記事にこぎつけた本件ですが、正直政治系議論の割にビックリするほど読まれまして…。

 労働問題も過渡期のギリギリのところですし、読者の関心が深かったんですかね。

神津 里季生×山本 一郎
連合が自民に近付いて行っているのではなく変わったのは向こうの方
連合はどこへ行く-神津前会長に聞く1

舞台裏から見た残念な野党解体劇―これでは国民に信頼されない
連合はどこへ行く-神津前会長に聞く2

日本の労働組合にはまだ存在意義もある、やるべきこともある
連合はどこへ行く-神津前会長に聞く3

セーフティネットの整備が少子化の歯止めのカギとなる
連合はどこへ行く-神津前会長に聞く4

 政策面では特に労働問題はセンシティブとされる一方で、野党総崩れの状況の引き金は間違いなく旧民進党の分裂騒動にも一因があり、その野党を支え続けてきた連合ほか労働組合や左派系活動も政策実現という点では行き詰まりを迎えた点は重ねて指摘されるべきことだろうとも思います。

 いろんな意味で、人が働くことの環境整備はよりよい社会の実現において外すことのできない政策のど真ん中に位置する一方、神津さんが繰り返しお話されていたように「食いはぐれることはないのだ」「路頭に迷わないで済むのだ」という社会の実現のために、どのようにしてセーフティーネットを構築し、古くからの日本人の社会論の中で出てくる「働かざるもの食うべからず」という自己責任をどのようにして良い形で着地するのかという面はもう少し考える必要があるのではないかと思います。

 他方で、既存の左派系野党勢力の埋没について言えば、自民党批判票の受け皿としての機能についても語られるべきかなと思います。これは、言わずもがな、反権力で反政府の人たちは基本的に左派政党に投票をするだけでなく、生活が苦しく政府に文句を言いたい無党派の人たちの投票先としても一手に左派が担ってきました。野党が自民党政治を批判し続けるのは、ひとえにいまの政府に文句があるのなら我々左派系野党へ、という投票誘導に他ならないわけです。

 この座組は長らく続いてきたものの、各選挙区で当選する見込みのないテンプレ候補を立て続ける日本共産党がいるお陰で、この自民党批判票の一部が共産党に流れ、結果として野党候補は常に票を共産党に奪われる罰ゲームとして共産党対策を求められるという悩ましい状況がありました。それゆえに、野党としては共産党への票割れを防ぐ意味でも彼らの政策の一部を飲む代わりに野党共闘として左派系に流れる現状批判票を立憲と共産とに流れ込むよう画策してきたのが流れであったわけです。

 しかしながら、そこへみんなの党の事実上の後継として、野党勢力の中に新しく右派系野党としての日本維新の会ができてしまいました。いままでは、生活に苦しい人は総じて左派に投票するところが、選択肢として維新が出てきてしまい、ここがまた野党としては現状批判票をさらに分ける具となってしまったためにどうしようもなくなりました。当然、政権奪取どころではなく、共産党を含めた野党共闘を進める地合いも緩いままに、どんどん埋没の度を強めていくことになります。

 さらに、左派系政党としてはれいわ新選組が一定の票を取るようになってきました。これがまたどうしようもない政党で、実現可能性の低い政策を掲げない割にいかれた有権者のゴミ箱のような扱いをメディアからもされるようになると、実は共産党や立憲民主党が確保していた現状批判票のそれなりの割合がこれらポピュリズムに踊らされる変な反権力の有権者が支えていたのではないかとまで考えらえるようになってしまいました。

 ただ、人間の知性というのは限りがあって、正直言えば日々の暮らしの中でまっとうな働きをし、所得を得て家族を養っている人が一番慎みのある社会人だという話である一方、そういう人たちが政治に関心を持たざるを得ない状況というのは実のところあまり良い社会ではないとも言えます。

 また、現状批判票をどれだけ積み上げようとも、少なくとも国政選挙たる今回の参議院選挙でさえ、おそらく投票率はそう高くならず、下手をすると4割台中盤で終わってしまう可能性があります。裏を返せば有権者の半分以上が国政選挙で投票に行かないという現実もまたあります。それだけ有権者が投票をして自分たちの代表を決めるというのは、人によって「重い」ことなのだ、とも言えます。

 連合も含めて、政治と生活を繋ぐ存在というのは選挙を考えるうえではとても貴重で、外部の人たちからすると組織率が下がっていく労働組合の、その寄り合い所帯のように見える連合の役割を非常に軽視する面があります。確かに新しい連合代表の芳賀友子さんのある種のユニークなキャラクターを受け入れきれない人たちも少なくなく見られます。

 他方で、労働組合のようなもともと労働者によっても企業によっても業界によっても利害関係が異なる人たちを、一つの組織のもとで統一的な政策を掲げ政治活動をするというのは結構大変なことです。原発問題ひとつとっても、イデオロギー的に反原発を叫ぶ左翼活動家のような労働組合員と、労使協調のもと今年の夏や来年の冬の電力供給が止まれば労働組合活動どころか会社自体が潰れかねないという危機感を抱いて原発推進を掲げざるを得ないと力説する関係者もいます。

 どちらも言い分としては成立するわけですが、私も過去メルマガや『WiLL』の記事でも書いた通り、古本伸一郎さんが前回衆院選に出なかった(出られなかった)事情なども斟酌するに、豊田章男さんマターともまた異なる構造が浮き彫りになってきます。そこから、なぜ自民党・麻生太郎さんと連合会長が労働政策で意見交換をするために食事をするのかも含め、具体的な政治のリアルがそこにあると考えなければならないのだろうと思います。

人間迷路 Vol.350 「野党共闘」という宴の後を考察しつつ、衆院選東京選挙区の総括やプラットフォーマーの現状などに触れる回(2021年11月03日配信)

立民・共産党のエネルギー政策は亡国へと至る道【山本一郎】

 日本経済は衰退すると悲観するのは仕方がないとして、いま生きる私たちの生活を日本人としてどう守り、如何に生き抜いていくのかは、民主主義である限り私たちは主に選挙で意見を社会に反映させ、改善の努力を図っていく必要があります。これ抜きに動かない部分が多々ありますので、その辺をしっかりと見据え、政治に関する情報を集め分析し、評価し、暮らしや仕事に役立てていかないとなあと思います。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.372 参院選を控えて思うことをあれこれと語りつつ、京都方面のちょっとやばい話やAIに宿る知能の話題に触れる回
2022年6月28日発行号 目次
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【0. 序文】連合前会長神津里季生さんとの対談を終え参院選を目前に控えて
【1. インシデント1】京都と反社会的勢力
【2. インシデント2】人工知能(AI)とどう付き合うかを考えなければならない時代
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】相場の節目に物故が重なる話

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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