茂木健一郎
@kenichiromogi

メルマガ号外で開講していた英語塾が書籍になりました!

『赤毛のアン』原書から、アイスクリームの話

新刊『赤毛のアン」で英語づけ』

 

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高校一年のときに「赤毛のアン」を原書で読むことによって英語力が飛躍的に高まったという茂木氏。「とにかく最初から最後まで読み通す」ことで、自信をつけて「英語脳」を身につけることが英語力向上の秘訣。本書を一冊読めば英語力も自然とアップし、「赤毛のアン」という物語が持つ魅力にも触れることができます。 名文で「英語脳」を強化する! !

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『樹下の微睡み』英語塾第3回、今回も、前回に引き続き、私が小学校の時に新潮文庫の村岡花子さんの翻訳を読んで感動し、高校の時には原書を読んだ、『赤毛のアン』(Anne of Green Gables)から、私のお気に入りの文章を取り上げ、解説しましょう。

なお、前回お伝えしたように、Anne of Green Gables原書は、著作権保護が切れており、全文を例えば
http://www.gutenberg.org/files/45/45-h/45-h.htm
で読むことができます。

 

アンは人生の「一回性」を理解している

それではまず、原文から。

"Diana is having a new dress made with elbow sleeves. She is going to wear it to the picnic. Oh, I do hope it will be fine next Wednesday.
I don't feel that I could endure the disappointment if anything happened to prevent me from getting to the picnic. I suppose I'd live through it, but I'm certain it would be a lifelong sorrow. It wouldn't matter if I got to a hundred picnics in after years; they wouldn't make up for missing this one. They're going to have boats on the Lake of Shining Waters-and ice cream, as I told you. I have never tasted ice cream. Diana tried to explain what it was like, but I guess ice cream is one of those things that are beyond imagination.

 

13章、The Delights of Anticipation(予期することの喜び)にあるこの文章は、アンが、ピクニックを楽しみにして、そのことについてマリラに熱心に話す部分です。

アン・シャーリーという少女は、想像力のかたまりです。周囲の大人が、「バリーさんの湖」と呼ぶ池を、「輝く湖水」(Lake of Shining Waters)と名付けたり、周囲の世界を、自分自身の想像力で変えていってしまう、魔法のような精神をアンは持っています。

アンは、まだアイスクリームを食べたことがない(I have never tasted ice cream.)。冷蔵庫などが今ほど普及していなかった当時においては、アイスクリームは貴重で、珍しかったものなのでしょう。今の子どもたちにとっては、アイスクリームなど、コンビニに行けば簡単に買えるものなのかもしれません。そのアイスクリームを夢に見て、その味を一生懸命に想像しようとするアンの健気さが、新鮮で、感動的です。

「ダイアナが、その味を一生懸命説明しようとしてくれたけれども、アイスクリームは、想像力が及ばないものだと思う」
(Diana tried to explain what it was like, but I guess ice cream is one of those things that are beyond imagination.)

これは、まさに、私のライフワークである「クオリア」の問題です。アイスクリームというクオリアは、実際にそれを体験しなければ理解することができない。そんな生きることの真実を、アンはさり気なく語ってしまっています。

そして、アンは人生の「一回性」を理解している。天気が悪くなったりして、このピクニックに行けなくなったとしたら、「もし、その後に100のピクニックに行けたとしても、このピクニックに行けなかったことの代わりにはならない」。
(It wouldn't matter if I got to a hundred picnics in after years; they wouldn't make up for missing this one.)

ここで表現されていることは、私たち日本人も感じたり、考えたりすることかもしれません。それが、英語だと、このように表現される、という点が面白い。外国語を知るということは、単に、便利な言葉を獲得するということではありません。このように、一つの精神の宇宙をかいま見る点に、醍醐味があるのです。

茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

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