やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

『魔剤』と言われるカフェイン入り飲料、中高生に爆発的普及で問われる健康への影響


 ここのところ、青少年の精神状態や学習について研究している精神科医や厚労省方面の人たちの間でよく話題になるのは「レッドブル」(オーストリア;レッドブル社)「モンスターエナジー」(アサヒ飲料)や「チョコラBB」(エーザイ)「EXSTRONG」(マツキヨ)など、カフェインやビタミンB群を大量に含有しているドリンク類の健康、精神面への影響で、これを早期に規制するべきかで大きな議論になっています。

 若い人たちの間では『魔剤』と称され、昔で言えば咳止め成分の入っているブロン系薬剤や「ユンケル皇帝駅」などの栄養剤の延長線上にあるものですが、具体的な精神薬効をカフェインに求めているため、いわゆるモカ剤(エスタロンモカなど)とも同様のソフトドラッグとも言えないレベルの商品群がここに入ります。


 
 カフェインについては、ご存知の通り含有量を問わずコーヒー飲料などを中高生が買い求めることもでき、これといった規制はされてきませんでした。実際、青少年がコーヒーを大量に飲む、つまりカフェインを摂取することへの問題は、すでにドイツなどで知見が得られ、とりわけエナジードリンクを大量に飲むことでの健康への影響は大きいということで問題視され始めている状態ではあります。

食品安全委員会
ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)、小児及び青少年のカフェイン摂取による心血管系への影響に関する専門家会議の結果を公表

 
 問題は、どのくらい摂取すればどういう健康被害が惹起されそうかという統合的な広域調査がまだで、誰がどのくらい飲んでいるのかすらあまり良く分かっていないうちに中高生の間で『魔剤』とされるエナジードリンクが流行してしまったことの問題はあります。

 もちろんこれらの飲料メーカーは問題の所在をよく承知しており、青少年向けの飲用は奨励していないと回答するほか、比較的彼らが購買しやすいコンビニエンスストアなどでの販売についてもこれから対応を検討するという回答をするところがほとんどです。

 コンビニエンスストア各社も問題は認識しているようで、社会問題化するようであれば状況を精査のうえ棚に置かないことは考えるということは内々に回答を貰っています。

 それにしても、なぜエナジードリンクがここまで一般に飲まれるようになったのかという点で、単純な話、カフェインに効果を依存する限りコーヒーでも充分とされます。「mlあたりのカフェイン量が多いよ」という意見もあるのですが、急性中毒を起こすこともあるカフェインは吸収速度に大きな個人間の違いがあり、ただしそのような急性中毒を起こさない程度の濃度の差でしかない、というのも知見としてあるようで、それならコーヒーもエナジードリンク同様に駄目じゃねえかという結論にもなり得ます。カフェイン量で青少年に売れる売れないを分ける規制ではダメそうだと言われている理由はここで、カフェイン飲料を売らせない規制ではなく青少年のカフェインによる健康被害を減らしたいという話が主眼なのでカフェイン量で規制してしまうと本当にエスプレッソも売れなくなってしまうわけです。

 そうなると、エナジードリンクという青少年が手に取りやすいパッケージやマーケティングがいかんという話になりかねないのですが、欧米ではそれ以前にパーティードラッグが蔓延していてカフェインどころではないので事実上薬事行政上野放しになってしまっている、というのもイマイチ盛り上がらないところではあります。

 結局のところ、青少年に疲れたところでエナジードリンクを飲んでも「人生の前借り」でしかなく、疲労回復には結局睡眠しかないのだという啓蒙を広げるぐらいしか有効な対策がないのでは、と言われているのが悩ましいところです。これでかりに青少年の「エナジードリンク死」が具体的に出て報じられたとしても、社会的に規制しろと言う声が広まった後で「え、コーヒーも巻き込まれますけど?」と言われて、みんな真顔になってしまい静かになることが目に見えています。

 これほんとどうするんだろう? と思うのですが、どうしようもないんですかねえ。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.258 中高生に『魔剤』と言われ爆発的普及のカフェイン入り飲料問題に触れつつ、野党の偉い人が集まる経済対話にお呼ばれした話やGAFA関連のあれこれなど
2019年4月15日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】『魔剤』と言われるカフェイン入り飲料、中高生に爆発的普及で問われる健康への影響
【1. インシデント1】「消費税を上げるべきか」で激論となる類の神学論争
【2. インシデント2】プラットフォーマーをめぐる金とデータと著作権にまつわるあれこれ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

セルフィーのためのスマホ、Wiko Viewから見えるもの(小寺信良)
気候変動がもたらす望まれない砂漠の緑地の皮肉(高城剛)
ラスベガスは再び大きな方向転換を迫られるか(高城剛)
脳と味覚の関係(本田雅一)
バーゲンプライスが正価に戻りその真価が問われる沖縄(高城剛)
やまもといちろうのメールマガジン『人間迷路』紹介動画(やまもといちろう)
「死にたい」と思ったときに聴きたいジャズアルバム(福島剛)
これから「研究者」がマイノリティになっていく?(家入一真)
「USB-C+USB PD」の未来を「巨大モバイルバッテリー」から夢想する(西田宗千佳)
もう少し、国内事業者を平等に or 利する法制はできないのだろうか(やまもといちろう)
なぜ今? 音楽ストリーミングサービスの戦々恐々(小寺信良)
無我夢中になって夏を楽しむための準備(高城剛)
人間は「道具を使う霊長類」(甲野善紀)
あれ、夏風邪かも? と思ったら読む話(若林理砂)
週刊金融日記 第287号<イケメンは貧乏なほうがモテることについての再考察、小池百合子は出馬するのか他>(藤沢数希)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ