やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「新聞を読んでいる人は、政治的、社会的に先鋭化された人」という状況について



 通信社ベンチャーという聞きなれない新興企業を立ち上げて精力的に政治動向についての記事を執筆・公開しているJX通信社の米重克洋さんという御仁がいて、彼が非常に興味深い調査結果を出してきています。

東京新聞読者の安倍政権支持率は「5%」、対する産経新聞読者では「86%」― 都内世論調査番外編(米重克洋)

新聞の発行部数と世帯数の推移

新聞購読率減退中、2015年では高齢者すら減る(2016年)(最新)

 この数字に新聞購読者の年齢や世帯数推移などをクロスしてみると、20代は一割程度しか新聞を購入しておらず、精読率を考えるとほとんど新聞紙を読む習慣を持たなくなりました、ということが言えます。

 一方で、新聞「紙」ではなく新聞「記事」への接触回数というとスマートフォンで新聞を読む機会が増えたこともあってずっと横ばいで、また20代後半ぐらいから「ある程度、社会人としての経験を踏まえることで新聞が伝えたいことを理解できるようになり、接触時間が増える」という傾向を見て取ることができます。確かに、政治的主張や社会に対するものの考え方というのは、ある程度人生経験を踏んで、自分なりの価値観が固まってからでないと情報摂取しようとはなかなかならないのかな、と思うわけです。

 しかるに、冒頭の米重さんの「特定の新聞の購読者は、安倍政権をどれだけ支持しているか」のグラフで見ると明らかな党派性が見て取れるというのは興味深いところで、つまりは新聞社のブランドやプリファレンス(好み)を認知して自分からその新聞に寄っていく消費者構造が明らかになったということでしょう。もちろん、何も知らないうちから特定の新聞を読んでその新聞の主張を信じて政治的態度を固めていくという面もあるかもしれませんが、しかしすでにほとんど新聞「紙」に接触しない年代がどんどん増えていく中で全年代の総量評価で特定の新聞に安倍批判や安倍支持が固まっていく状況を見ると、新聞の主義主張が影響したというよりは日々の暮らしの中で価値観が固まっていって、そして分断していったというほうが合理的であろうと考えます。

 今回の選挙でもそうなのですが、もともと自民党は地方政党から都市型政党へとシフトしていく過程で都市部の40代以下の層からの支持を得ることで、浮動票が増えている状況でも穏やかに高い支持率を確保して政権を維持してきたのがここ5年間の動きです。そう考えると、いわゆる左派的な言動で読者を集めている新聞の購読者が概ね高齢者のメディアになっていく状況は、日本の政治的状況の「地殻の動き」をかなり明確に表しているのだろうなあと思うわけですね。

 個人的に思うのは、以前から書いてますが「新聞はもう駄目だ」と言い募ることではなく、新聞「紙」と「紙」によったビジネスモデルの終焉と、新聞「記事」や新聞「記者」が信頼され求められていることとを切り分け、新聞のブランドを再構築しながら「昔ほどもうかる商売ではないけれど、読者の求める正しい記事を書き続ける機能とブランドとしての新聞社」を生き残らせることじゃないかと思うわけですが。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.194 新聞の持つ価値を改めて考えてみたり、ベンチャー界隈のアレな倫理観につっこんでみたり、昨今のサイバー犯罪の動向を見つめたりの巻
2017年6月30日発行号 目次
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【0. 序文】「新聞を読んでいる人は、政治的、社会的に先鋭化された人」という状況について
【1. インシデント1】ベンチャー界隈の倫理観が微妙過ぎる件で
【2. インシデント2】国家と個人という二極化が進むサイバー犯罪の行方
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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