※高城未来研究所【Future Report】Vol.625(6月9日)より
今週は、ベルリンにいます。
現在、ドイツ全土で金融緩和とウクライナ紛争の影響から、高いインフレ率やエネルギー料金の驚くほどの高騰が見られます。
先月のインフレ率は+6.1%、エネルギー消費者価格+6.8%、食料品消費者価格17.2%と国民の生活を直撃しており、デモが増え、不満が高まっているのが街角でもわかるほど緊張が漂います。
また、街を歩いてもコロナ後の目に見える大きな変化を感じないかもしれませんが、引き続きリモートワークが続いていることから、鉄道に乗る人が激減。
リストラなどもあって、ドイツ鉄道のサービスが著しく悪化し、かつては正確さを誇ったドイツ鉄道ですが、いまでは定刻通りに走ることの方が稀になってきました。
同じく、空港やフライト便数の減少による混乱も続きます。
このような背景には、「出社」や「出張」というビジネス業態が大きく変化したことや、企業側がインフレ社会に対応すべく「徹底したコストカット」等が挙げられますが、勤務形態を変化することができず、インフレによって賃金交渉が難航する病院や学校では、ストライキが多発しています。
今週、ベルリンでは3日間も教員組合によるストライキがあり、大半の学校が閉鎖しました。
治安も悪化しています。
外国人が関わる重大犯罪が後を絶たず、大量移民のコストももはや無視できなくなってきていますが、ドイツ政府は国の予算を節約し、あたらしい労働力によって年金を支払うために大量移民が必要だと主張しています。
しかし、2023年だけでも、移民のための住宅や社会保障が年金支給額を上回る360億ユーロほど費やす予定であり、政府の主張は大きく崩れていると報道されています。
また、数年前にドイツが掲げた無人化政策「インダストリー4.0」(第四次産業革命)は着実に進んでおり、コロナ x インフレ x 人手不足 x AIの急速な進歩により、情報産業に限らず、全産業の自動化が進んでいることから、移民はもういらないと本来はリベラル寄りだったIT産業に従事している人たちも考え始めました。
このような現状および国民生活レベルが著しく下がっているため、現政権に対する不満が高まっており、あたらしい右派と目される「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が急速に上がりつつあります。
先週公開された独公共放送ARDの世論調査によりますと、反移民政策を掲げる「ドイツのための選択肢」の支持率は18%と記録的な数字を叩き出し、ショルツ首相率いる社会民主党と同率の2位に急浮上しました。
現在、ドイツ経済は2四半期連続でマイナス成長ですが、「ドイツのための選択肢」は、移民排斥によって既存国民の生活を安定させることと、既得権を壊して成長することを掲げて人気を博しています。
AfDのクルパラ共同党首は、「(国民の)利益を最重視するわれわれの方針が認められた」とコメントしています。
一方、シュルツ首相が所属するSPDの祭典では、ウクライナ戦争支援反対の聴衆から「盗賊、嘘つき」と罵声を浴びせられ、退却する事態に追い込まれました。
今週公開されたBild紙世論調査データによりますと、人口の18%(1090万人)がAfDに投票することを示し、人口の26%(1570万人)が、AfDに投票することに前向きであると答えていることが判明。
あわせて、ウクライナを支持する人が激減し、ロシアを支持する人が急増中です。
政党支持率の最新の世論を地域毎に色分けした地図を見ると、黒系が中道右派のキリスト教民主同盟、赤系が中道左派の社会民主党、青系がAfD(ドイツのための選択肢)ですが、明らかに新連邦州(旧東ドイツ)で青系が優勢になっているのが分かります(https://www.wahlkreisprognose.de/2023/06/02/bundestrend-union-und-spd-stabilisiert-afd-im-hoch/)。
元々東に属するベルリンも他ではありません。
いま、ドイツ国民の多極分断化、いや右傾化は急速に進んでいるように見える今週です。
気候はいいんですけど、それもあって街角はデモやストばかりですが。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.625 6月9日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。