茂木健一郎
@kenichiromogi

『「赤毛のアン」で英語づけ』序文

【期間限定】『「赤毛のアン」で英語づけ』序文

51h8jQcMEfL._SL500_AA300_茂木健一郎さんの朝の連続ドラマ「花子とアン」(出版社の社長役)および「スタジオパークからこんにちは」出演に伴い、好評の新刊『「赤毛のアン」で英語づけ』の序文を全文公開! 小学校5年生の頃から始まる、茂木さんの『赤毛のアン』への溢れる想いをぜひご覧ください。

 

はじめに――「新しい世界」と出会うために

私は、2011年4月から2013年3月まで、夜間飛行から「樹下の微睡み」というメールマガジンを発信していました。この本は、そこに連載した「英語塾」から、私の愛読書である『赤毛のアン』(Anne of Green Gables)シリーズ、そして、その作者ルーシー・モンゴメリ(Lucy Maud Montgomery)の他の作品についての講座を集めたものです。

本書を読んでいただくにあたって、私と『赤毛のアン』との出会いについて、お話ししておきたいと思います。

『赤毛のアン』の舞台は、カナダの東海岸にあるプリンスエドワード島です。この島にあるアヴォンリーという村に、マシュー・カスバートとマリラ・カスバートという、独身の兄妹が暮らしている。彼らは、グリーン・ゲイブルス(緑の切妻屋根)と呼ばれる自分たちの家に、孤児院から、畑仕事を手伝ってくれる男の子を引き取ることにします。

ところが、どんな行き違いからか、やって来たのは、見事な赤毛の女の子だった。この物語は、アン・シャーリーという、おしゃべりで想像力豊かなその子が、周囲の人々とかかわりながら、成長していくさまを描いています。

私が、『赤毛のアン』に出合ったのは、小学校5年生のときでした。このときは、日本に初めてアンを紹介した、村岡花子さんによる日本語訳(新潮文庫)を読んで、とても感動したのです。たちまちアンの世界に魅了された私は、シリーズの全作品を、夢中で読んでいきました。

そして、15歳の夏。ホームステイで訪れていたカナダ・バンクーバーの書店で、このシリーズのペーパーバックが並んでいるのを発見します。私は、さっそく『Anne of Green Gables』を手に入れ、生まれて初めて、小説の原書を英語で読みました。それまでに日本語で親しみ、内容を熟知していたとはいえ、高校1年生の私にとって、これはかなりキツイ体験でした。

しかし、私は、その後も、このシリーズのすべての巻を英語で読破。これにより、私の英語力は、飛躍的に高まったのです。と同時に、それまでの日本の英語教育とは全く異なる世界に、触れることができました。

初めて『赤毛のアン』を読んで以来、私は、アンの豊かな想像力や物事に感動する力、アンを取り巻く人々の温かさや、作者モンゴメリの深い人間への洞察などに、ずっと魅せられてきました。英語を学ぶことの大切さは、何よりも、それを通して、日本語圏にいては知ることのできない、新たな世界に出会えることにあります。私にとって、『赤毛のアン』は、まさにそうした出会いをもたらしてくれたのです。

ところで、みなさんの中には、この本で、初めて『赤毛のアン』の原文に触れるという人も多いのではないでしょうか。また、そもそも『赤毛のアン』の翻訳も、まだ読んでないという方もいらっしゃるかもしれません。

そのような方の場合、この機会に、『赤毛のアン』の翻訳を読んで、まずは話の流れをつかみ、それからこの講座を読むと、より立体的に理解できるように思います。今は、私が読んだ村岡花子さんの翻訳以外にも、いろいろすぐれた訳が出ていますから、本屋で手にとって少し文章を比較して、自分の感覚に合うものを選ぶといいかもしれません。

ちなみに、原書は、著作権保護が切れており、全文を例えば、こちらなどで読むことができます。

原書を読むコツについて、一つ触れておきましょう。

よく質問されるのは、わからない単語は、いちいち辞書を引きながら読めばいいのか、ということです。これは、なかなか難しい問題です。

文章には、それを読むリズムのようなものがあります。毎回立ち止まり、辞書を引きながら読んでいくと、そのリズムが狂ってしまうことがある。一方、単語がわからないばかりに、文章の意味がつかめないということもあります。

日本の英語教育では、一つひとつの単語の意味を確認して、いちいち日本語に翻訳して理解するのが普通です。そのような風土を考えると、ある程度単語がわからなくても、とにかく最初から最後まで読み通す、そんな読み方を私はおすすめします。1冊の原書を最初から最後まで読んだ、そのことが自信になって、1歩前に進むことができるはずです。

本書では、私が毎回、原文に対して日本語訳を付けています。しかし、その訳文も、その場で、即興で書いているものです。文学作品の翻訳ならば、工夫をする必要があるでしょうが、ここでは、みなさんの理解を助けるための補助の文章として意図しています。そう思って、参考にしていただければと思います。

それではさっそく、『赤毛のアン』のシリーズとモンゴメリの他の作品から、私のお気に入りの文章を取り上げて、解説していきましょう。

どうぞ、私が夢中になった物語の世界を、思い切り、楽しんでください!

 

新刊『「赤毛のアン」で英語づけ』

 

51h8jQcMEfL._SL500_AA300_茂木健一郎 著

高校一年のときに「赤毛のアン」を原書で読むことによって英語力が飛躍的に高まったという茂木氏。「とにかく最初から最後まで読み通す」ことで、自信をつけて「英語脳」を身につけることが英語力向上の秘訣。本書を一冊読めば英語力も自然とアップし、「赤毛のアン」という物語が持つ魅力にも触れることができます。名文で「英語脳」を強化する!!

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茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

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