名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)号外 生きるためのエクササイズより

なぜ忘年会の帰り道は寂しい気持ちになるのか――「観音様ご光臨モード」のススメ

※名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」2013年12月12日 エクササイズ号外(Vol.013)より

 

飲み会の帰り道に寂しくなる理由

忘年会シーズンになりました。普段あまり飲み会に参加しない人も、このシーズンになると、会社の同僚や趣味の会、あるいは友人同士の集まりなどに行く機会が増えるのではないでしょうか。

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こうした、ある程度大人数の飲み会に行くと、帰り際、どっとさびしさが押し寄せてきた経験のある人は少なくないと思います。それは一見、「大人数ではしゃいだことの反動」のように感じますが、そこで感じたさびしさをひもといていくと、必ずしもそうではない、ということに気づきます。

僕は『驚く力』という本のなかで、この寂しさを<過去の乾き>と名づけました。それは、一言で言えば「自分が本当はどこにも所属していない」という所在感のなさだったり、「もっと楽しく過ごせたはずなのに」という挫折感だったり、「なぜ自分の話をもっと聞いてくれなかったのだろう」といった怒りなど、さまざまな感情がないまぜになったものです。

その源流にあるのは<過去の乾き>、具体的に言えば飲み会に対する「過大な期待」と、その挫折なんです。

 

「観音様ご光臨モード」のススメ

例えば10人での飲み会だったら、単純に考えれば、自分の話を聞いてもらえる時間は、飲み会全体の1/10のはずです。でも僕らはしばしば、1/3ぐらいの時間、自分が座の話題を独占している様子を期待して飲み会に出かけてしまうんです。

その結果、別に特別邪険にされたわけでもないのに、心のどこかに「期待外れだった」という感覚が生じる。もちろん、頭では自分が座の話題を独占できなくてもおかしくない、ということはわかっています。しかし、無意識のうちに抱いていた期待が裏切られた、という感覚だけは残っている。その感覚が帰り際の「さびしさ」になって押し寄せてくる。

この「さびしさ」を防ぐには、日ごろから心を明るく過ごしておくことと、忘年会だからといって浮かれすぎて、飲み会に過大な期待を抱かないようにすることですが、もうひとつ、「やばいな」と思ったときに効く、即効性のあるテクニックがあります。

それは飲み会のお店に入る瞬間、「自分はたまたまこの席に降り立った観音様だ」と思い込む、という方法です。

観音様なのだから、人からの話を聞いてあげるのは当たり前。自分の話なんか聞いてもらえなくてもまったく問題はない。その場にいる人の笑顔が増えれば、私は幸せです……そういう、「観音様ご光臨」モードでその場にスッと座る。

ばかばかしいと思うかもしれませんが、飲み会の帰り道でさびしい思いをした経験のある人は、ぜひ試してみてください。普段自分がいかに、飲み会に対して過大な期待を抱いて参加しているかがわかります。

勘違いしてはいけませんが、これは周りを見下したり、軽く見たりするようなモードとはまったく違います。観音様は慈愛の仏様です。周囲の話をよく聞き、場が明るい雰囲気になればなるほど、より輝きを増すのが観音様なんです。

そういう「観音様ご光臨モード」で飲み会に参加するあなたに、周囲の人はきっと、いつも以上に親切になり、あるいは興味をもって話を聞いてくれるでしょう。なぜなら僕らはみんな、心が落ち着き、明るい状態で安定している人に、自分の話を聞いてもらいたいと願っているからです。

今シーズンの忘年会ではぜひ一度、観音様ご光臨モード、試してみてください。

 

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、京都精華大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『質問です。』(飛鳥新社、2013)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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