好奇心の育み方には、主に二つのアプローチがある。それをここでは、仮に「父親的」アプローチと「母親的」アプローチと呼ぶ。
今日では、この呼び方はジェンダー的な差別とのそしりを免れないかもしれない。しかし古来より、この二つのアプローチはだいたい父親と母親が分担してきた。
そうしてそれは、子供が母親の胎内から生まれてくるという摂理が変化でもしない限り、今後もずっと代わらないだろう。
だからここでも、それを父親的、母親的と呼ぶことにする。ただしもちろん、父親が父親的なアプローチを、母親が母親的なアプローチをしなければいけないというわけではない。これが入れ替わってもいいし、どちらかの親が両方担ってもいい。
まず「父親的」なアプローチであるが、何かに夢中になっている姿を見せること——その背中を見せることである。
これは、「ドラゴンボール」の主人公・孫悟空に典型的だ。
孫悟空は、戦いが好きである。そして、二人の息子、悟飯と悟天に自分の戦っている姿を見せる。その背中を見せる。しかもそれを楽しそうにしているところを見せるのである。
すると、二人の息子も自然と戦いに興味を持つようになる。戦いに好奇心を覚えるのだ。そうして成長を果たしていく。
実際、長男の悟飯は最初は戦いが好きではなかった。しかし、あまりにも父親が楽しそうにしているのを見て、溢れ出る好奇心を抑えることができなくなった。そうして、やがて進んで戦いに身を投じるようになるのである。
次いで「母親的」なアプローチであるが、これもやっぱり「ドラゴンボール」に典型的だ。それは、孫悟空の妻のチチだ。
チチは、二人の息子、悟飯と悟天にどのように接するか?
それは「禁止」である。彼女は、二人の息子に戦いを禁止する。これを全力で止めようとするのだ。
するとやっぱり、二人の息子は溢れ出る好奇心を抑えきれず、結果的に戦いに身を投じるようになる。
子供が好奇心を育むのは、この二つの方法によってなのである。これは、この世の真理なのだ。
こうしてみると、「ドラゴンボール」というマンガにはこの世の真理が象徴的な形で描かれているというのがよく分かる。このことは、「ドラゴンボール」が世界中の数多くの人たちに受け入れられている理由の一つだろう。単にマンガとして面白いだけではなく、この世界を凝縮して描いた「神話」となっているのだ。だから人は、そこに共感したり、感情移入したりせずにはいられないのである。
もっといえば、「ドラゴンボール」は「人が人をどう育てればよいのか」を学ぶことのできる格好の教科書でもある。このマンガに描いてあるやり方を参考にすれば、子供の好奇心を大きく育めるのだ。
ところで、好奇心は「父親の背中と母親の禁止」によって育まれるというのをここまで見てきたが、では父親が好奇心を持ち、母親が禁止するようなものとは何か?
特に、母親が禁止するものとは何か?
例えば、父親が勉強に好奇心があり、これを一生懸命していたら、母親は絶対に禁止しないだろう。あるいは、父親が家事に興味があり、これを楽しそうにしていたら、それを禁止する母親は世界中のどこにもいない。
しかし、これでは好奇心が育まれない。せっかく父親が楽しそうに勉強や家事をしていても、母親が禁止しなければ、子供はそれに興味を示そうとしないのだ。
では、母親が子供に禁止するものとはなんだろうか?
その答えは一つしかない。
「危険」である。
母親は、子供が危険なことをすると必ず禁止する。チチも、二人の息子が「戦い」という危険なことをしていたから、これを全力で禁止したのだ。
つまり、子供の好奇心を育むには、父親が危険なことに夢中にならなければならないのだ。そうして、母親の禁止を上手く引き出さなければならないのである。
その意味で、「好奇心」は「危険」と背中合わせの概念でもある。子供は、危険なものでないとなかなか好奇心を育めない。そうして好奇心を育めないと、成長も覚束ない。つまり、成長を果たすためには「危険」を避けては通れないのだ。
この関門は、やはり若いうち、というよりもほとんど幼いうちに通過させる必要があるだろう。そうしないと、成長に必要な好奇心を得ることができない。「可愛い子には旅をさせよ」とは、まさにこのことを表していたのだ。
では、幼い子供をどのように危険な目に遭わせたらいいのか——次回はそのことについて見ていきたい。
※この記事は岩崎夏海さんのメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」2015.7.2 教育考:その24「『ドラゴンボール』に学ぶ好奇心の育み方」に掲載されたものです。連載の続きは定期購読にてご覧ください
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