やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

無風と分裂の横浜市長選2017、中央が押し付ける「政策」と市民が示す「民意」



 というわけで、結果的に波乱となったフォローアップの大型市長選2つ、仙台市長選と横浜市長選は終わったわけなんですが、横浜市長選については出口調査の結果から現職の林文子女史が当選ゼロ打ち、開票作業の始まる8時から1分経たずに調査各社から当選確実の一報が出てメディアで報じられることになりました。

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横浜市長選 現職の林氏 3回目の当選

メディア的には、大口の話として横浜市長選は菅義偉官房長官の影響力が強く、また重要法案であるIR法(通称・カジノ法)が前に出てきているため、横浜でカジノをやるのかやらないのか、ここで菅さんら政権側が支援している現職の林女史が落選するか、快勝ではない勝ち方をすると政権にさらなるダメージが及ぶのではないかという恐れがあったわけです。

 横浜市長選のコンテクストを簡単に説明すると、実のところ、林文子女史自身は旧民主党に所縁の深い政治家で、今回民進党が自主投票になり、支援団体である連合神奈川はその七割ほどが林女史の支援に回っております。

 一方で、年初から横浜市長選を目指して準備してきた長島一由さんは元民主党の衆議院議員(かつ元逗子市長、鎌倉市議を歴任)、奥さんも逗子市議で、女性関係にやや問題を抱えている以外は本来なら民進党の候補者の弾であることは間違いありません。

 さらには、なぜか共産党と維新の一部が伊東ひろたかさんを担いで三つ巴の戦いにはなったものの、要するに圧倒的に強い現職相手に左派新人二人が出ることになったわけで、そりゃ勝負にならなかろうというものです。ゼロ打ちも仕方がないレベルで見事に長島さんと伊藤さんに票が割れ、民進党も自主投票になったために林女史楽勝で終わったというのが実態です。

 では横浜市民の民意はどうだったのかというと、中央政界やマスコミの思っている二大看板である「菅官房長官のお膝元で政権応援候補が失態」も「カジノ法案で有力候補地である横浜の問題」も、いずれも横浜市民からすると大した争点になっていませんでした。まあ、当たり前と言えば当たり前なんですけど、それ以外にも野党側が争点にしたがっていた給食の問題も出口調査で重要だと回答した有権者は誤差レベルしかおらず、他の中枢都市同様に経済・雇用、街づくり、年金・医療体制、子育て環境というオーソドックスな順番で重要争点が並びました。その点では、国政と地方選挙の差を「こういう地方選挙に投票へ行く人はある程度弁えている」こと、またいまの横浜市政に概ね満足している有権者が全年代、男女に広がっていたというのが特筆するべきところかなと思います。

 一番大きいのは、どうやら70歳現職市長にもかかわらず、若者からの支持がそう細ってない点と、投票に行った無党派からは43%ほどの支持を林女史は受けていて、それだけ市長としての手腕に評価があったということに他なりません。さすがに次の4年で74歳、そこで降りることは考えているでしょうが、長島一由さんはその4年後を考えて出馬しているとすれば、横浜に何か重要な政策上の転換すべき部分を用意しておかなければならなかったでしょう。それが今回のカジノ問題であったとするならば、少しコンテクストを理解する補助線にはなるのでしょうか。

 そのカジノ構想ですが、一部ネットでも情報が出ておりましたが、地場企業で影響力があるとされる藤木企業がカジノ有力地域とみられる山下ふ頭のカジノ開発絡みから外されて揉めるというすったもんだがありました。単純に、周辺に闇カジノが多すぎてそこの権益を守ろうとする人たちがいたとすればそれは排除されるよねという内容に過ぎず、参画に重要な役割を果たすとみられるセガサミーとMGMなど海外オペレーターの進出の条件が周辺地域における反社会的勢力の排除であって、そのカジノ建設において反社絡みはすべて外さなければカジノ認可が降りない可能性が高くなるので、おそらくは文脈として菅官房長官が苦心の挙句こっそり外したというよりは堂々と排除したということなんじゃないかと思います。

 ところが、地元がこれに反発するとなるとカジノなど建たないわけでして、推進法案で指定される地域に入るどころの騒ぎではありません。また、カジノ建設に賛成の横浜市民もせいぜい24%ぐらいしかいないことが今回の選挙でも分かってしまったので、いわゆるオール横浜でカジノ受け入れ態勢をという話自体がそもそも存在しません。

 したがって、今回の選挙結果を見るまでもなく、どうも林陣営はこれらの面倒な地元企業との関わりが絶たれてむしろ幸いだったぐらいの勢いで、今後この方面のやくざ屋さんは整理の対象になるのではないかという鼻息の荒い当局の面々もおられます。

 逆に、それ以外の横浜市政という観点では、むしろ周辺自治体である横須賀や小田原、相模原などから川崎と一緒に人口を吸い上げ、いわゆる「縮小する首都圏」の中での勝ち組となっているというのが実態です。おそらくは、雇用と社会保障の両面から市の運営を考えていくうえではいままでとは違ったタイプのジレンマを持つことになるかもしれません。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.196 横浜市長選などをふりかえりつつ、深刻なシルバーデモクラシー問題や新聞の不思議なネット転売観などを語る回
2017年7月31日発行号 目次
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【0. 序文】無風と分裂の横浜市長選2017、中央が押し付ける「政策」と市民が示す「民意」
【1. インシデント1】猛り狂うシルバーデモクラシーの現状
【2. インシデント2】ネット転売問題と情報商材事情をそのまま混同して報道するメディアのナイーブさ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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