やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

菅政権が仕掛ける「通信再編」 日経が放った微妙に飛ばし気味な大NTT構想が投げかけるもの


 9月28日深夜、日経が突然報じた「NTT(グループ)、NTTドコモを完全子会社化へ」というニュース、未明にもかかわらずNTT関係者自身が確認に追われる始末で「また日経の飛ばしか」「確報が出るまで様子見」となったものの、その後全国紙やNHKも後追い報道することで何となく事実追認された形になっています。NTTとNTTドコモとで言い換えると訳が分からないので、本稿ではNTT持ち株と表記しますが。

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 さらにその後、30日付でNTT持ち株によるドコモ公開買付を含め記者会見が行われ、買付期間は9月30日から11月16日までの33営業日でTOB価格は1株につき3,900円ということで、約4.3兆円の借入を金融機関に対して起こすことも併せて発表されています。非常に興味深い記者会見の内容が日経に掲載されていて、あっ、一応はちゃんとしたリークだったんだ、というかリークすんなやという話になっておるのが興味深いところです。

NTT、ドコモ完全子会社化を発表 「携帯値下げも検討」

 NTT持ち株自体は手元現預金が1兆円ほど、現金化できそうな流動資産で見ると1.2兆円ぐらいあるので、当面のところは借入での対応と中長期にもう一度NTT再編をやるのかどうかというあたりが見どころになります。対顧客サービスの正面窓口はドコモが受け持ちつつ、6Gに向けた布石として、NTT東西の持つインフラとドコモの対5G、6G投資がどのような規模感で統廃合されていくのかが焦点になってくる感じでしょうか。

 この買収のお陰で、内閣発足前から携帯電話料金の値下げを事実上の公約としてきた新総理大臣・菅義偉さんの野望に一歩また近づくわけですが、単に携帯電話料金を下げろということでNTTドコモの株主対策をしたというよりはある程度既定路線としてNTT持ち株によるNTTドコモの「回収」は予見されてきてはいました。実際、記者会見でもあったように今年4月からドコモの完全子会社化については議論されてきたとのことですが、ここにきて、菅さんが総理大臣になったので検討を進めていたものが一気に実現へと時計の針が進んだというようなニュアンスなのではないのかな、と思うところが大です。

 以前、YouTubeでも語りましたが、概ね携帯電話料金の値下げという点では、(1)電波オークション、(2)土管と上物を分ける上下分離案、(3)政策目標を掲げた政府による経営介入という路線があるよねと思っておりました。結果として、一番現実的でライトなオークション以前に先に(3)経営介入がドーンと前に出た、というのは菅政権の「本気」が動かしたと見るべきか、NTT再結集を見越した大同団結は「他3社のお守りをしたくないNTTグループの意思表明」と考えるべきかは悩ましいところではあります。

 結果として、この取り組みが出た以上はNTTドコモも含めたau、ソフトバンク、楽天のMNO4社での上下分離案はむつかしくなりました。土管専用電電公社案はまだ残っている、と説明する向きもありますが、個人的にはNTTはサバーブや山間・離島部を非NTT系に開放する意志はあまりないのでしょう。東西・コムの再編が必須な上下分離がMNO4社で進まないとなると、非NTT系でだけ、インフラ分野での協業、統合を考えながら当面の5G投資負担を軽くし、また、来たる6G向けの研究開発投資を行っていくことになるのではないかと思います。

 そして、この大同団結によって一気に苦しくなるのはソフトバンク、楽天モバイルになります。単純に経営体力の問題というよりは、NTT持ち株によるドコモ買収で競争原理に基づかない、あまり採算や利益率を考えない携帯電話料金の値下げが政府主導で断行されるぞということになると、ソフトバンクグループにしても楽天にしても、おのおのMNOを独自で持っていることがむしろ負担になってしまいます。場合によっては、携帯電話料金が本当に下がり始めるようであればソフトバンクグループはソフトバンクから足抜けを考えるでしょうし、楽天モバイルも楽天グループからの離脱や外部からの資金調達を独自で考えるようになるかもしれません。

 大正義NTTが新電電公社として各製造業や販路を従えて復活するという図式があるとそれはそれで面白いなと思いつつも、いまや日本国内の経済・市場でだけ通信ビジネスを見ていてはならない状況でどういう競争政策を維持し、その向こう側に世界市場をどう見据えるのかは重要なポイントであると言えましょう。NTTが、非NTTが、というよりも、まずは国内の通信産業のあるべき合理的な競争や規制とは何であり、どのようなイノベーションを起こし、海外へのインフラ輸出の枠組みや技術的な足がかりを作っていくためにどのような業界環境が必要か、というグランドデザインが必要であることは言うまでもありません。

 単純に、日本市場の中だけを見て再編を語っても、もはやこの界隈は成り立たないということでいいんじゃないでしょうか。むしろ、市場面でも技術面でも、海外と国内をきちんとスコープに入れて判断するべき時期になったと思います。

 世界的に後塵を拝する通信世界での技術革新に対して、日本国内の携帯電話料金の下げは明らかにR&D原資の喪失を意味する一方、通信業界の統廃合や合理化が進み、国内通信製造業の立て直しが連動して進められるならば、ある程度は果実のある改革になっていくことでしょう。ただ、具にされるNTT持ち株以下NTTグループのトップたちがこのあたりの話をどこまで真正面から理解して具体的なロードマップを組むのかというのは悩ましい予想になります。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.309 NTTによるドコモ子会社化、中曽根康弘さんの国葬問題、国内金融機関における不正送金事件などついて思うところを語る回
2020年9月30日発行号 目次
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【0. 序文】菅政権が仕掛ける「通信再編」 日経が放った微妙に飛ばし気味な大NTT構想が投げかけるもの
【1. インシデント1】中曽根康弘さんの国葬問題に思う
【2. インシデント2】暗雲低迷を思わせる我が国のFintechなあれこれ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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