やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

日本はどれだけどのように移民を受け入れるべきなのか



 個人的には「綺麗事の逆襲」っていうイメージで捉えているのですが、社会的に正しいとされることと、政治的にコミットされたことと、実際に起きていることが全部違う、って問題は往々にしてあると思うのです。

 日本で言えば、私などはかねてから「問題だ」と言っているのですが、移民が激増して、いまや世界でも移民受け入れ人数で4位になるほど、海外から日本へ働き手が入ってきています。もちろん、人口減少に見舞われる日本において、社会的に必要だからこそこれらの移民が頑張って下支えしてくれているという側面はあります。一方で、労働力として入ってきた移民もまた、立派な人間であり、意志を持っているわけですから、日本に留まる限り日本の社会で適切に受け入れられることを求めている存在でもあります。

 先日、中野区と新宿区の学校教育の問題を目にする機会があったのですが、新宿区は特に移民の子弟が区立小学校に通うケースが多かったり、家庭が丸ごと生活保護という事例さえも少なくないなか、日本側の受け入れが進まないもので立ち往生している事例もあります。しかし、社会的には「移民の受け入れには前向きではない」ので、コンビニで外国人の人が店員をしていると日本語ができないと冷たくあしらったり、いずれ帰るからと実習生制度の枠内で使い捨てのような働かせ方をする。

 一方、政治の分野で言えば、ぶっちゃけ日本人が日本人の子供を育てる待機児童でさえ満足に問題を解消できないのです。外国人の受け入れに当たって、日本語教育をどこまでやらせることができるのかを議論するという場当たり的な話から、失業した外国人家族をシンガポールのように帰国させるような仕組みにするのか、あるいは日本化を進めて末永く日本社会で受け入れるためのルール整備をするのか、あまりきちんと定まっていません。

 実際、アベノミクスの行き詰まりに直面している首相官邸においても、あまり正面から移民問題を取り上げ政策ビジョンの中に組み入れていこうという動きは見えません。そこにあるのは、産業界からの要請に基づいて、なし崩し的に移民がどんどん入ってきても構わないよというある種の(経産省が良くやる)黙認なのでしょうが、短期的には労働力の確保で辻褄は合うものの、そういう移民の人も歳をとる、家族を養うようになる、母国から家族を呼び寄せる、働けなければ生活保護を受ける、一世はともかく二世三世と定着するならば帰化もする、これらのことも踏まえて、中長期の日本社会に与える影響と、文化も考え方も違う移民の人たちとどう社会が向き合うのか考えなければならないわけです。

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 おそらく、少子化対策、高齢社会対策と並んで、日本の社会に大きなインパクトを与える移民問題について、もう少し現実で起きていることと、将来日本がどういう多民族国家になっていくのかも踏まえて検討するべきこととを多重に検討していく必要はあるでしょう。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.227 移民問題の現実を考えつつ、アメフト事件がきっかけで注目が集まる日大の闇、顔識別技術をめぐるあれこれを語ってみる回
2018年6月1日発行号 目次
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【0. 序文】日本はどれだけどのように移民を受け入れるべきなのか
【1. インシデント1】日本大学のアングラ度合いは果たしてアメフト問題で表沙汰にできるのか
【2. インシデント2】急速に進化を遂げつつある顔識別技術の明と暗
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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