※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.023(2018年6月22日)からの抜粋です。
「10円であらゆるレシートを買います」と宣言して話題となった「ONE」。もともとはモバイル決済システムを開発していた会社がセキュリティ問題を解決できずにサービスを閉鎖。二の矢として放ったのがこのサービスです。
消費動向とユーザープロファイルのマッチングを行い、そのデータを集めて企業に消費者動向データとして販売するというビジネスモデルです。登録は属性情報の入力は多いものの、比較的シンプルですが、溜めたポイントを現金化するには免許証などの本人確認が必要となるため、本人を特定した上で消費行動を分析することもできます。
将来的には、レシートの蓄積で溜めた預かり金を直接使うための決済システムへと接続する意図が見えますが、企業スポンサーを募ってのクーポン発行ビジネスなどの可能性もあります。消費動向がわかれば、何を日常的に消費しているのか、価格帯なども含めて予想できますし、いつも買っているお店がわかれば、近隣の別のお店からのクーポン発行は広告効果が大きいでしょう。
レシートだけでなく、例えばスポーツ観戦や観劇、映画入場券なども買い取れば、エンターテインメントの嗜好性もわかるでしょう。それによるターゲティング広告向けの応用価値は小さなものではないと想像できます。
しかし、ONEへのレシート買い取りが殺到したことで、1日経過せずにサービスを一時中断。おそらく大手ネット系企業が出資して再開するのでは? と想像していたら、そこにDMMがお金を出したというのが最新の状況です。
おそらく、DMMとしてはひとつのジャンルに絞ってデータを集め、自社サイト内などで活用し、どのようなビジネスの可能性があるのか、収益モデルについて研究するために実証試験や調整を行い、将来的にデータ外販や自社事業への応用を模索しようとしているのでしょう。
そうした意味では、話題になったものの、まだ大きくはなっていない未成熟なサービスを青田買いして、ともかくデータを集めるという動きなのだと思います。同じように考えている企業は少なくないと思いますが、彼らが急ぐのには理由があるのでしょう。
そして、おそらくはEUの個人情報保護委員会が定めた一般データ保護規則(GDPR)が課した情報規制と無関係ではありません。GDPRは個人情報の規制強化を行い、それを破る企業に対して大きな罰金を科す法律を施行しました。これにより、グーグル、Facebook、Instagramなどの活動が制約され、将来的には広告収入に頼るネットメディアの活動にも影響を与えると言われています。
今回の動きは「見えないところでうごめく何かを規制する」という動きと「規制が欧州から日本に飛び火する前に事業としての可能性、ノウハウを探ることで前に立っておきたい」という意図が重なり合ったものと見ています。
本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」
2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。
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