高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

国産カメラメーカーの誕生とその歴史を振り返る

高城未来研究所【Future Report】Vol.517(2021年5月14日発行)より

今週は、石垣島にいます。

石垣の気温は、もう30度。
好天が続く素晴らしい日々ですが、街中は驚くほどにガラガラで、
北部に出向くと、普段は駐車待ちの人気スポットに誰もいません。

レストランは、最終予約受付が18:30とのことで、夜型の島人も行かなければ観光客も訪れないことから、どこの店に行っても閑古鳥が鳴いて(泣いて)います。

しかし、不動産価格は、高止まりしたままの状態が続いています。

2016年から19年にかけて、ホテル2000室以上が開業に至った「インバウンドバブル」と、離島防衛の「基地バブル」(防衛省2021年度予算案に、石垣島平得大俣地区の陸上自衛隊配備関連事業費約352億円を計上)がいまも続いており、街には誰もいないのに、工事現場は活況という気持ちの悪い「実態経済との大きな乖離が見られる」のが、現在の石垣です。
この行方は、過去に習えば、八重山史上最大のバブル崩壊につながっていくことになると思われます。

さて、今週も(性懲りも無く)知ってるようで知らないカメラとレンズの歴史を、もう少しお話ししたいと思います。

第二次世界大戦末期、連合軍はヤルタ会談によりドイツ占領地域の分担を決定します。
ツァイスが位置するイエナ、ドレスデンといった地域は、すべてソ連軍の占領予定地に含まれていましたが、いち早く(ツァイスの技術を得るため)占領していた米軍は、ソ連軍への占領地引き渡しの前に、ツァイスの主要技術者を西ドイツのハイデンハイムやオーバーコッヘンに家族ごと拉致。
アメリカは、当初よりツァイスの技術力を高く評価しており、イエナやドレスデン空襲の際にも、ツァイスの工場だけは空爆目標から外していました。

一歩遅れたソ連軍は、イエナ・ドレスデンなどのツァイスグループの工場、施設、設備機器、そして多くの熟練工(マイスター)を接収し、東ドイツ・ツァイスを人民公社「Carl Zeiss Jena」を設立。
こうして、光学機器メーカーの巨人だった「ツァイス」は、第二次世界大戦後、東西に引き裂かれます。

一方、三菱グループの光学メーカーで、ガラスからレンズまで一貫して製造していた「ニコン」(日本光学)は、海軍の光学兵器の国産化を担い、戦艦大和の測距儀をはじめとする重厚長大な製品の開発および製造を行っていました。
しかし、敗戦で軍需を失ったことから、ライカを手本にカメラボディの開発をスタート。
軍事レンズメーカーからの脱却を計ります。
このカメラが、進駐軍の米兵に人気となり、朝鮮戦争特需でカメラメーカーとして軌道に乗ります。
なかでも、朝鮮戦争に取材に来たジャーナリストが、ニッコールレンズの性能を評価し、「ライフ誌」の表紙を飾るようになって、一躍「ニコン」の名が世界に知られるようになりました。
こうして、堅牢な設計の一眼レフ「ニコンF」が報道の世界のスタンダードになっていきます。

このニコンの躍進に追いつこうとしたのが、産婦人科医だった御手洗毅です。
御手洗は、アヘンで財を成したジャーディン・マセソン商会(旧「東インド会社」)から資金調達を受け、帝国陸軍光学兵器のエキスパート赤坂歩兵第1聯隊中隊長山口一太郎陸軍大尉を招聘し、国産カメラの製造工場を新設。
これが、キヤノンです(「キャノン」ではありません)。
キヤノンの名前の由来は、慈悲の光の存在である「観音」から来ており、同社のレンズ「KASYAPA」(カシャパ)」は、釈迦の弟子のひとりである「マハーカーシャパ」に由来します。
ジャーディン・マセソン商会からの資本で大工場を作ったキヤノンは、量産によるコストダウンを武器に、国産の有力カメラメーカーに成長していきました。

また、ナチス政権樹立後、ドイツから逃げ出すように光学エンジニアが日本にやってきます。
彼らと共に関西で小さなカメラメーカー「日独写真機商店」がはじまりました。
これが、「稔るほど頭を垂れる稲穂のように、常に謙虚であれ」と社是を持つ「ミノルタ」(稔る田)です。
「ミノルタ」は、陸軍と海軍に双眼鏡を収めることで、徐々に規模が拡大。
第二次世界大戦中は、軍需工場の指定を受けていましたが、戦時中に工場が空襲や火災で全焼被害を受け、戦後ゼロからスタート。
苦難の末生み出した35mmレンズシャッターカメラ「ハイマチック」が、NASAの厳しい試験をクリアした宇宙飛行用カメラとして採用されたことから世界的に大ヒット。
この資金を技術開発に投入して生まれたのが、世界初のシステム一眼レフカメラ「α-7000」です。

こうして、今日まで続く「αシリーズ」のカメラが、はじまるのです。

(もう少し続きます)
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.517 2021年5月14日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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