やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「ヤングケアラー」はそんなに問題か?


 こども家庭庁がヤングケアラー問題に踏み込んで、読売新聞が提灯気味の関連記事を書くという事態に発展していました。

中2の18人に1人「ヤングケアラー」、悩み打ち明けられず…こども家庭庁が支援強化へ

 もちろん、ヤングケアラー対応を活動で取り組んでいる筋からは「なに言ってんだおまえ」みたいな声も上がっているのですが、若者が介護をやること自体を社会問題化させたい勢力がいるのは以前から分かっていたことですから、さもありなんという風に見えておったわけです。

 これには補助線が必要だと思うのですが、今回の社保審ではわずかながら訪問ヘルパーさんの基本報酬を削減しています。おそらく、同じような形で次回改定もヘルパー報酬は減額の方向で議論が進むことでしょう。

第239回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料

令和6年度介護報酬改定 介護報酬の見直し案

 また、改定案をしげしげと見ていると、おそらくは介護ステーションについては運営上の必要最低限の加俸をしつつも需要の残る地方での介護についてはかなり見捨てる裁定にならざるを得ないと判断しているように見えます。訪問介護の見た目の利益率が高いことも大きな背景だったと思いますが、現状で社会福祉法人のサービス多様化も踏まえて考えると効率の悪い在宅介護に多くの点数を割り当てて非効率を温存するよりは、新しい介護制度の模索という観点からも一定の道筋をつけようとしているようにも見えます。

 地域包括ケアは団塊の世代の後期高齢者入りとともに需要が爆発する一方で、ここに公的介護の力点を置いても非効率は変わらないわけで、基本的には施設に入るギリギリまでお前らは自宅でちゃんと療養し、自活できない要介護等級になるまで粘ってくれ、公的介護保険のお世話になるのは思い止まってくれという残留思念が込められているとすら感じます。

 裏を返すと介護保険という仕組み自体が自前の保険制度で回せるような財務状況でないのは明白で、これ以上高齢者が増えるともたないので、地域包括ケアもなるだけ地元で、かつ自宅で自身と家族による自活でどうにかしろよという意味合いにならざるを得ません。

 自宅に介護が必要な高齢者がいて、公的なケアが段階的に削れていけば必然的に家族が高齢者をケアしなければならないのであって、そんなことは当たり前である一方で、ご主人の老父老母を義理の娘であるお嫁さんが介護することは「ワイフによるケア」で社会問題化しないのは何故なんだと思うんですよ。孫がやっても奥さんがやってもケアはケアですからね。

 また、今後の課題としては生涯未婚の男女が高齢化したり病気になったりして暮らせないのをどうするかという別次元の問題が迫ってきます。とはいえ、もともとどんな仲睦まじい高齢者夫妻でもどちらかが先立つと平均3年ちょっとは高齢者おひとり様世帯になるわけですから、いまさら未婚の高齢者が増えるのはどうするんだと言われても「それは人間が生きていく上での摂理なのだ」で終わる話ですが、この問題が再発見されると特に都市部では身寄りのない高齢者対策も含めた議論をしておかないと2041年に間に合わないことになります。

 結論から言えば自身でできる社会保障としての婚姻・出生率の向上と、ぜいたく品である核家族を社会的にだんだん取りやめていく方向でしか解決策はないことになります。出生・子育て世帯と未婚単身世帯との間で政策的な格差がきつくなるのは当然として、そもそも父母子どもで構成する核家族が出生率の低下に寄与している疑いが強い以上は希望出生率のような交絡因子の多い数字の向上を目指すよりは「親は積極的に子どもの婚姻成就に介入して孫をたくさん作り、地域で老人を支えられるような都市設計をしましょう」という方針にならざるを得ません。

 必然的に、ヤングケアラーは公的介護が財源問題と高齢者増から後退していくことを意味する以上はどうしても発生する話です。これだけ切り出して社会問題だといくら言い募ったところで、そもそも介護保険も存続するか怪しい状況でどうするつもりなのかはいま一度問い直されるべきでしょう。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.433 ヤングケアラーが根本の問題ではないことを論じつつ、AIの運用が面倒くさいという話や能動的サイバー防衛の導入目処が見えない件を語る回
2024年2月27日発行号 目次
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【0. 序文】「ヤングケアラー」はそんなに問題か?
【1. インシデント1】AIの学習を正していったらいつの間にかキャンセルカルチャー仕草を身に付けていた件
【2. インシデント2】能動的サイバー防衛(ACD)差し戻しと割とビッグな波高し
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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