やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

安倍政権の終わりと「その次」


 先日、こんな記事を書きました。

12月8日、12月15日「解散総選挙説」の衝撃

 結果論になりますが、解散総選挙を打って安倍政権が改憲勢力に準ずる議席数を確保し、安倍晋三さんの総裁四選をもって戦後の憲政史上初の改憲の国民投票に駒を進める、というプロセスとしてはラストチャンスであったと思います。

 もう年明けに解散総選挙をする気力は安倍政権にはないでしょう。

 桜を見る会に始まり、萩生田光一さんの身の丈発言、小泉進次郎さんのセクシー発言その他、いわば「在庫一掃内閣」と揶揄された改造安倍内閣からはつまらないスキャンダルが目白押しで、令和への改元で一時期浮上した支持率も元通りかそれ以下になってしまいました。

 さらには、景気低迷が色濃くなり、明らかにヤバい水準になるところへ消費税増税を強行したので、対中国輸出急減をモロに受けておそらく景況感は来年4-6月期に向けて悪くなっていくことでしょう。もちろん、日本の政策不備だけがこの難局の理由ではないとはいえ、戦後最長となった安倍治世が結果として慢心を生み、各所で緩みまくってどうしようもなくなっているのもまた事実であります。

 決定打となったのは、アメリカと中国の東アジアを挟んでの覇権争いが誰の目からも明らかになったところで、日米関係が国際関係の替え難い基軸であるはずの日本が、習近平さんの国賓扱い来日の下準備に安倍さん訪中し、さらに日中共同ドクトリンも予想される『第五の文書』まで飛び出してしまう始末で、アメリカサイドがここにきて安倍政権に対して強い批判的感情を持ち始めているのは紛れもない事実であろうと思います。

中国大使「第5の政治文書も」 習氏来日で

 何も「アメリカを怒らせるなよ」と従米的な話をしたいわけではなく、アメリカと離れた後で日本がどのような立ち位置で東アジアで影響力を維持するのかという出口戦略なしに中国接近したところで、あとから中国に手のひらを返されたらアメリカからの信頼と庇護を失った日本は東アジアで孤立することに何の配慮もないのかという話になるわけであります。

 人権と平和を是とする民主主義陣営に位置する日本が、ウイグルやチベット、香港問題で大変な民族浄化に手を出す中国共産党一党支配の中国政府と正面から「戦略的パートナーである」と手を結ぶこと自体が時期尚早であって、おそらくは、国家安全保障会議(NSC)事務局長・谷内正太郎さんを事実上解任し、安倍さんの腹心である元情報官・北村滋さんを局長に据えた人事も、この中国との外交において谷内さんが強く反対したからではないかと思います。

 北村さんが長年情報コミュニティの中核としてアメリカなど英語圏当局の信頼を強く受けてきた立派な人物であるにせよ、安倍さんの進める官邸外交は外務省がいままで培ってきた伝統的な外交チャネルとの価値観の違いが顕著で、いわば情報部門と外交部門が渾然一体となり、官邸と外務省という二元外交も同然の問題を引き起こすきっかけとなってしまうのは世耕弘成さんと今井尚哉さんが深入りして大失敗してしまった対ロシア外交と同じ轍を対中国で踏んづけてしまう危険は避けられません。

 単に一国内の経済政策であるアベノミクスの行き詰まりや不良閣僚・自民党議員のスキャンダル続出でどうしようもないという話ではなく、情報面、外交面で日本の立ち位置が非常に危うくなるような官邸独自外交が展開された結果、(アメリカがトランプ大統領を担いでしまうという不安要素はあったにせよ)日本がいいようにやられて対露、対中、対韓などで得点を稼ぐことができなくなっているという実情が浮き彫りになっていると思います。

 いま必要なことは日本の外交、安全保障に関して旧秩序(自由や人権、民主主義を守る価値観を護持する思想)にきちんと回帰し、国内問題を再定義して新たな人口減少時代を迎えた日本の国威・国力を維持するグランドデザインを発表することです。

 それには、少子化対策や教育問題を含む社会保障、失業・転職や解雇規制、働き過ぎを防ぐ働き方と日本人の問題に実直に向き合う国内問題を整理する傍ら、海外からの移民と地方経済のような中身に手を入れられる方法を早期に模索しなければなりません。

 さらに、科学技術や産業競争力の点ではグローバル経済がさらに進展する前提で日本の役割を明確にし、データ資本主義への対応や航空宇宙・海洋も含めたフロンティアに対応する政策の充実など、取り組むべき問題は各方面にあります。

 そのうえで、日本がどういう社会を目指し、国際社会にどういう機能を提供する存在になるのかという「我々は何者であるか」をきちんと定義することが必要な局面に差し掛かってきたのは事実です。

 しかしながら、現状の安倍政権で起きていることは「安倍さんからの人心の離散」であり、桜を見る会の問題で明らかであったように、官邸の対応は官房長官・菅義偉さん以下もはや完全にグダグダで、他の有力者も含めて誰も安倍晋三さんを守ろうとせず、いまや話題は「ポスト安倍」一色となっています。解散だ、総裁四選だと騒ぐのは、もはや安倍さんを政治的に盛り立てるネタも必要性もなくなったのでそれを言わざるを得なくなっているだけであって、東京五輪後に行われる自民党総裁選では安倍さんが後継指名をした候補が勝てるかどうかだけが問題になるのではないかと思います。

 その足元には、日中共同ドクトリンを含む『第五の文書』策定のために安倍さんも含めた関係議員に対してせっせとどこぞからの資金を流し込んで日米分断を図るしょうもない政治ゴロの世界があり、苫小牧、小樽に留寿都といった北海道カジノ構想とパラレルに不思議な資金の流入があったのもまた事実ではないでしょうか。

 どうしようもない話が跋扈しているうちに、日本の産業力は低迷し、大学は機能不全となり、少子化は進展して日本のための政策をどうするべきかという議論が盛り上がらないまま沈没していくことだけは避けたいというのが正直なところで、そろそろどうにかならないものでしょうか。

 なお、夜間飛行に運営していただいている私の経営情報グループが満五年を迎え、新規の会員さんの募集をするぞということになりました。

ミーティン・山本一郎経営情報グループ「漆黒と灯火」 - 夜間飛行

 毎月ゲストの方をお呼びして会員さんの目の前で対談をし、当日お越しになれなかった方にはその様子をDVDでお送りするというスタイルでやっております。ご病気やご出産以外でほとんど退会者が出ず、とはいえあまり手広く募集するのも性質としてどうなのかと思っていたのですが、若干名の募集をしたいとのことで、告知とさせて戴きます。

 ご関心のある方は、ぜひご応募ください。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.283 安倍政権の終わりを考察しつつ、二者間ファクタリング問題や閉塞感のあるネット事情、さらには例の大型経営統合事案にまつわる愚痴などを語る回
2019年12月27日発行号 目次
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【0. 序文】安倍政権の終わりと「その次」
【1. インシデント1】『二者間ファクタリング』問題と貸金業問題について炸裂するんですかね
【2. インシデント2】無邪気でどこまでも理想的であることを許されたインターネットの終焉
【3. インシデント3】LINEが頑張るほどに風当たりが強まるワイ困惑の巻
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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