高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

レストランからバルへ、大きくかわりつつある美食世界一の街

高城未来研究所【Future Report】Vol.626(6月16日)より

今週は、サンセバスチャンにいます。

いまから十年以上前に出版した自著「人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか― スペイン サン・セバスチャンの奇跡」は、年々版を重ね、おかげさまでいまも売れ続けている一冊です。
当時スペインに住んでいた僕は頻繁にこの街に通い、観光資源のない街がたった10年で変われた理由を独自の視点でまとめました。

なにしろ車で10分もあれば一周できる小さな円の中に、ミシュランの星は16個もあるような街は世界中どこにもありません(次点は京都)。
アルサック、アケラレ、マルティン・ベラサテギなどの三つ星レストトラン、ムガリッツ、アメリアはミシュランの2つ星、ココチャ、アラメダ、エルカノは1つ星を獲得していました。
さらにこの十年で、サンセバスチャンは欧州のみならず、世界的な美食の街としての名声を確かなものにしましたが、新型コロナウィルス感染拡大以降、いまは様相が少し変わっています。

まず、トータルで19個もあったミシュランの星は、残念ながら2023年度版ミシュランガイドではミラドール・デ・ウリアの一つ星が失われて、スベロアとエメ・デ・ガロテがコロナ禍を乗り切れず、2022年末をもって閉店してしまったので、星の数が少なくなっています。
一昨年の2022年にアメリアのシェフ、パウロ・アイラウドがミシュラン2つ星を獲得しましたが、実はサンセバスティアンでの2つ星は16年前にムガリッツが獲得して以来のことで、正直、サンセバスティアンのレストランのピークは過ぎ去った感が否めません。
この背景には、新型コロナウィルス感染拡大だけではなく、この15年間サンセバスチャンを牽引してきたトップシェフたちの高齢化問題もあります(三ツ星シェフ3人のうち二人が70代)。

また、「美食の街」の看板を狙って、世界的なチェーンも進出。
今年、ロバート・デ・ニーロが出資することでも有名な「NOBU」ホテル&レストランがラ・コンチャ湾を見渡すサンセバスチャンの一等地にオープン予定で、「ラグジュアリーなファストフード」と揶揄されながらも「環境に配慮した食の提供」を謳い、大きなトピックとなっています。

一方、バルは活況です。

コロナ禍のなか、苦境で喘ぐバルを助けるために地元の人たちが足繁く通い、2020年度の多くのバルの売り上げは、驚くことに過去最高の売り上げを記録しました。
また、美食を目的にきた観光客もサンセバスチャンの流儀を理解し、レストランよりバル廻りを楽しむようになってきたのも近年の特徴で、こうしたことから、サンセバスチャンではレストランよりバル巡りをするのが定着しています。

しかし、反動もあります。
それが、あまりに人が増えすぎた観光公害=オーバーツーリズムです。

もともと小さな街ですが、近年は明らかなキャパオーバーとなり、事実、地元の人たちは観光客でごった返す旧市街の小さなバルに行くのを避けるようになりました。
先週末、ラグビーの試合が開催されたこともあって、人口20万人に満たない街に8万人以上のフランス人が押しかけ、旧市街は事実上「占拠」される事態が発生。

このような現状と賃料が年々高くなるのと相まって、バルの中心地がグロス地区へと移行しています。
ムガリッツのシェフ、アンドニが「Muka」と「Topa Sukalderia」という2軒のバルをオープンするなど、グロス地区には続々と意欲的な新店がオープン。
個人的には、三つ星レストラン「アケラレ」ラボの人たちが、趣味同然で手がける「MATALAUVA」は、特筆すべき一店だと思います。
わずかな食材だけを使って、火を一切使わず、素晴らしい一皿を作り上げています!
食材は、「アケラレ」と同じ。
これぞ、サンセバスチャンという一店です。

高齢化したシェフが率いるレストランからバル巡りへ。
オーバーツーリズムにより、意欲的なバルは旧市街からグロス地区へ。

来客数とレストランがピークを超えたサンセバスチャンは、いま、大きくかわりつつあると感じる今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.626 6月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

人はなぜ「モテたい」のか? いかにして集注欲求を昇華させるかが幸福のカギ(名越康文)
「脳ログ」で見えてきたフィットネスとメディカルの交差点(高城剛)
国会議員は言うほど減らすべきか?(やまもといちろう)
英国のシリコンバレー、エジンバラでスコットランド独立の可能性を考える(高城剛)
目的がはっきりしないまま挑戦する人の脆さと凄さ(やまもといちろう)
ビジネスマンのための時間の心理学――できる人は時間を「伸び縮み」させている(名越康文)
オランウータンの森を訪ねて~ボルネオ島ダナムバレイ(1)(川端裕人)
成功を導くのは、誰からも評価されない「助走期間」だ–天才を育む「ひとりぼっちの時間」(ソロタイム)(名越康文)
「たぶん起きない」けど「万が一がある」ときにどう備えるか(やまもといちろう)
パニック的なコロナウイルス騒動が今後社会にもたらすもの(やまもといちろう)
なぜNTTドコモは「dポイント」への移行を急ぐのか(西田宗千佳)
中国からの観光客をひきつける那覇の「ユルさ」(高城剛)
夏の終わりに不老不死の可能性を考える(高城剛)
衰退がはじまった「過去のシステム」と「あたらしい加速」のためのギアチェンジ(高城剛)
いつか著作権を廃止にしないといけない日がくる(紀里谷和明)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ