やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

中国からの謂れなき禁輸でダブつく高級海産物どうしようって話


 一時帰国するや否や「お前どう考えとるねん」という無茶振りが来ておりまして… 正直、常識的には「そんなもん圧倒的にカントリーリスクなのだから、うっかり政府が救済や助成を検討するまでもなく民間に任せておけばいいじゃないか」という話になるんですけど、北海道知事の鈴木さんまで出てきてワイコラ仰っておられるので困ったものだなあと。

 まあ確かに前回のメルマガでも指摘しましたけれども、中国本土と香港をベースに約1,200億円程度の商いが22年にあるのは事実で、それがいきなりゼロになるのだから、高級ホタテもナマコも価格が暴落するだけでなく、官民(私はその仕組みは良く分かっていませんが)で用意している倉庫で捌けない冷凍ものがダブついてしまいそうなのだとか。

 でもこれは、貿易統計を見るまでもなく中国がコロナシフトの経済政策からいきなりレッセフォールみたいな無視コロナに政策転換したことで一時的にリベンジ消費が勃興したため需要が急増、それに伴って先物のように海産物を抑えるという戻り消費によって作り上げられた一時的な需要と価格高騰であったわけです。

 函館税関の取り扱い状況を見ても苫小牧出しの物品の7割は中国だったと言いつつも、そこからさらに欧州や東南アジアに流れる品物もあり、最終的にどこに到着しているのかはよくわからんのです。これが、中国による海産物禁輸によって突然扱い高がゼロになりましたというのは正直中国との取引である限りは当然起き得るカントリーリスクそのものなのであって、正直申し上げて「これ(福島でのALPS処理水海洋放出)で中国との取引がゼロになってしまったどうしてくれるんだ」と政府に詰め寄られても「それは中国との取引である限り起き得ることですから諦めてください」としか本来は言えないものだと思うんですよね。

 ただ、ガソリン・電力の激震緩和措置もそうでしたが科学的根拠や政策的正当性、あるいは受益者負担・応能負担といった原理原則から往々にして政策が逸脱してしまうのもまた日本のこれらの補助金行政の日常ですので、騒いだもの勝ちでどうにかしろとごね得のようになってしまうのは福島漁業も北海道海産物も同じような状況なのではないかと思います。

 で、これはもう科学的根拠も特になく中国の政治的状況で巻き込まれるように日本が貿易において不当に損害を被っていることに他ならないわけですから、WTOに提訴したり、中国が積極的な加入を進めたがっているTPP加盟については「そんな非科学的なエンバーゴーを平気でやるお前らは入れてやれませんな」と日本としては当然突き放すべき状況であることは言うまでもありません。

焦点:中国のTPP加盟申請、最大のハードルは「政治」

 さらには、中国の市場開放が進んでいない分野(コンテンツなど文化ものも含め)に対する市場開放を求める動き(&互恵的市場・貿易状況の確保)や、半導体や希土類も含めた経済安全保障面でのあれこれに加えて、中国本土にいる日本人・日本国籍の皆さんや日本企業、組織の資産保全と安全を強く求めるべき状況にあるのも事実です。

 特に、日本企業に対する不透明な資産の接収が中国では往々に行われてきたことへの補償だけでなく、昨今では中国を訪問する準政府関係者や商社など日本企業幹部社員、学識経験者に対する不当な拘束も増えてきています。このあたりは中国当局の胸先三寸で日本人の生命・健康や財産が不当に失われることに他ならず、日本政府としては単に中国側の事情で微妙な言いがかりをつけられて禁輸措置が取られ国内産業の収益性が毀損してしまったのでお詫びで補助金をとかいうレベルの議論ではなく、昔年の日中貿易における制度上の不均衡にも踏み込んで対処しなければならないのではないかとも思います。

 裏を返せば、いままでそれだけ対中貿易も日中外交も見た目よりもはるかに劣勢のまま推移してきたことで、中国からすれば強硬に出れば日本は一定の譲歩をするかもしれないという様子見でやってきているわけですから、どちらかというと穏やかな人柄で鳴る岸田文雄さんの代わりに矢面に立って言いたいことを言ってくれる外相なり官邸有力者なりが出てきてくれないとなあとも待望するところです。

 蛇足ながら、この難局だから外務大臣に国内でコワモテで知られる茂木敏充さんの再任をという話が、内閣改造をにらんで突然浮上していました。非常に微妙なところなんですが、アメリカ様から名指しで親中派だと問題視されてきた河野太郎さんや林芳正さんらは、結果的に、特定の問題で中国に一方的に譲歩するようなこともなく、割と無難かつ穏当に外務大臣の職を国益重視で熟して来られたように思います。

 他方、茂木敏充さんというのは怖そうに見えて対中国でも対アメリカでも、自分の上からドーンと「お前な」と言ってくる外交姿勢の国に対しては不必要に宥和的な側面が否めず、非常に賢い人ではあるけれどもタフな交渉事にはもっとも向いていない人物の一人なのではないのかなあとも感じるところがあります。

 中国からの圧迫的な外交も、水面下での平謝り的な硬軟交えた有りようのすべてを知っているわけでは当然ありませんが、今回の事案は結構重要な局面に至りつつあり、日本としても言うべきことはしっかり言っていきましょう、何となれば黄砂や海洋汚染でも中国はこれだけ酷いしWHOの武漢調査も非協力的で何のデータも出してきてないじゃないかいい加減にしろと国際舞台で堂々と言えるようにした方がいいんじゃないの、という風に感じます。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.415 改めて中国との付き合い方をどうしたものかと思案しつつ、日本大学の薬物問題周辺やスマート家電普及の余波などを語る回
2023年8月30日発行号 目次
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【0. 序文】中国からの謂れなき禁輸でダブつく高級海産物どうしようって話
【1. インシデント1】日本大学の薬物問題周辺に横たわる、それ方面の闇
【2. インシデント2】スマート家電は本当にスマートで便利なのか確認してから使うべし
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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