高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

季節の変わり目を迎えて

高城未来研究所【Future Report】Vol.745(9月26日)より

今週は東京にいます。

4ヶ月近くに及んだ欧州滞在から帰国すると、すっかり季節も移り変わり、夜は秋を感じるようになりました。

この時期の日本は、なんと言っても味覚の秋。秋が味覚の時期とされる大きな理由は、多くの農作物や水産物、山の幸が収穫の最盛期を迎えるからです。夏の厳しい暑さが去り、適度な気温と湿度に恵まれた秋は、稲をはじめ、さつまいも、里芋、かぼちゃ、きのこ、果実、栗、サンマなど、多彩な旬の食材が揃います。
これらの食材は、その季節でしか味わえない自然の恵みとして、古来より大切にされてきました。現代のように1年中何でも手に入る時代であっても、「旬」の味覚が格別とされるのは、その背景に蓄積された知恵や文化が息づいているからに他なりません。

この「味覚の秋」と並んで「食欲の秋」という言葉もよく使われますが、その源流は中国にあります。唐の時代の詩人・杜審言による「秋高くして塞馬肥ゆ」という詩が日本に伝わり、転じて人間にとっても食欲が増す過ごしやすい季節という意味合いで使われるようになりました。日本の旧暦では稲作が生活の中心を占め、新米の収穫や祭りも秋に集中します。そのため、収穫物を味わい感謝する文化が深く根付きました。

秋は神道の祭りと深い関係があり、五穀豊穣を祈願する春の祭りに対して、秋の祭りは収穫への感謝を表すものとして位置づけられています。日本各地の神社では秋の収穫期になると、たとえば伊勢神宮の「神嘗祭」や全国の「新嘗祭(勤労感謝の日の起源)」など、稲作の実りに感謝する祭礼が執り行われます。
これらの祭りは、作物の無事な収穫と自然の恵み、そして一年を無事に過ごせたことへの感謝を神に捧げる日本特有の儀式で、帰国するたびに、日本の長い歴史を実感するところでもあります。

また、気温が下がることで基礎代謝が上がり、冬に備えて動物的本能としてエネルギーを蓄えようとする季節でもあります。日照時間が短くなることで分泌が減じるセロトニン(安定や満足感をもたらすホルモン)とその材料であるトリプトファンを補うために、肉や乳製品が食べたくなるという生理学的メカニズムが機能するのもこの時期の特徴です。

今週は二十四節気で言う「秋分」を迎えています。秋分は太陽が真東から昇り真西に沈み、昼と夜の長さがほぼ同じになり、秋分の日を中心とした一週間は「彼岸」と呼ばれ、祖先や自然への感謝を込めてお墓参りをする習わしが今も続いています。

「秋分」は、陰陽五行の考え方でも非常に象徴的な時期でもあります。陰陽とは、自然界のすべての事象・現象を「陰」と「陽」、つまり静と動・夜と昼・寒と暖といった二元のバランスでとらえる中国由来の思想で、秋分はその二元が最も均衡するタイミング、つまり昼夜や陽陰のバランスが整い、自然界全体が調和を保つ節目となり、心身のバランスに気をつけなければいけない時期です。

一方、五行は「木・火・土・金・水」といった五つの元素により万象を説明し、秋は「金」にあてられ、金は収穫や実り、成熟を象徴し、ものごとを収斂させて心身を落ち着かせる性質と古来より言われてきました。空気が澄み穏やかになる秋分以降は、人の心も夜長とともに静かに内省へと向かう季節になります。

しかし、その前の「土」は夏の終わり(長夏)に大雨が降ることを意味します。今週は、まだ「土」から「金」へと移り変わる最中だと感じており、この時期には「湿邪」による消化吸収系(脾・胃)への影響や、心身の重だるさ・むくみなどが強調される季節ですので、十分な注意が必要です。
夏に飲みまくった冷たい飲料は避け、冬に備えて自然な甘み(芋類・豆類・新米・かぼちゃ・とうもろこし・人参など)を少しづつ取りいれるタイミングなのです。

ですが、現代の日本では気候変動の影響によって、秋の期間が以前より短くなっている事実が数々の観測データから明らかになっています。たとえば、気象庁のデータ分析によると、夏の終わりが遅れ冬の始まりが早まる傾向が続いており、日平均気温が秋らしい「20℃から10℃」に該当する期間が統計的に短縮されています。
僕が子供の時には9月初旬に涼しい秋風を感じられ、11月中旬まで秋の余韻が残っていましたが、最近では10月になっても夏日が続き、気づけば11月下旬には急激に冬へ移ってしまうケースも増えています。
特に1990年代後半以降の温暖化(実はヒートアイランド化)により、この傾向が加速し、秋を過ごす期間が「通過点」と称されるほど薄まってしまいました。

気候がこれほど変わると、僕らはすでに「新世界」に生きていることを再考しなければいけないのだろうし、本来、人間の体とシンクロする季節感も、各人がしっかりと自己調整しなければいけなくなったのだろうな、と考える今週です。

春と同じく、体調を崩しやすくなる季節の変わり目ですので、どなた様もいつも以上にバランスを保つ意識を!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.745 9月26日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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