小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

カップ焼きそばからエリアマーケティングを考える

※この記事は小寺信良&西田宗千佳メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」2014年12月12日 Vol.014 <「おなじみ」の変遷号>の冒頭です。

e6d5fdc0602f6f4dc90abe295483906e_s-compressor

個人的に好きな行為として、「色んな人に生まれた土地で食べていた『普通の食べ物』の話を聞く」というものがある。この中でも、特に面白いのが「日本中どこにでもある、あたりまえのもの」について聞くことだ。これが意外なほどあたりまえではなかったりする。

ちょうど先週は、カップ焼きそばの「ペヤング」が回収・出荷停止になった件もあり、「カップ焼きそばの市場分布」について、SNSなどでも話題になることが多かった。よく食べられている食品のブランドの違いは、驚くほど多岐に渡っているのが実情だ。

特に気に入っているのが、「卓上で使っている調味料のブランドを聞く」ことだ。たとえばソース。みなさんどこのものをお使いだろうか。関東の人は「ブルドックだろ?」と言うし、大阪の人は「イカリ」か「オリバー」だし、中部・北陸の人(私もそうだ)は「カゴメ」、となる。もちろん家庭によっても違うが、驚くほど地域による偏りが多いのだ。しかも、同じメーカーであっても、濃度やブランドが少しずつ違う。関東圏は「中濃」表記のものが好まれるし、中部(特に中京地域)では塩分が多めであるらしい「こいくち」が多い。関西は料理による使い分けが、他県より活発だ。

「あんた、IT関係なのになんでそんなことに詳しいの?」と言われそうだが、好きなんだからしょうがない。なぜこういうことが好きかというと、そこに「マーケティング」「物流」の本質がある、と思っているからだ。企業戦略やマーケティングを取材し始めた頃、ある流通系企業の重役と食事中、食品流通の話を教えられ、非常に勉強になった。その時に聞いた内容は、筆者の考え方のベースになっている。

調味料の好みがわかれているのは、その土地の料理に対する好み……だけではない。食品流通における、各企業の食い込み方が大きく影響している。関東における「ブルドック」、関西における「イカリ」の例は、それぞれがより地場に近い企業であり、営業・物流が容易であったからだ。カゴメは他の2社より全国ブランドである印象が強いものの、元々愛知が本拠地であることから来ている。

テレビCMが影響するような商品は、より多く売ることが求められているため、地域差が小さくなる。しかし、「油」「醤油」「ソース」「ゆで麺の焼きそば」「乾麺」といった食品は、日常的なものであるがゆえに、広告宣伝より「店舗での棚構成」「日常的なセールの打ち方」で人気が決定する。安ければいいというものでもなく、棚に並んでいればいいというものでもない。「日常に染みこむために、店舗と協力して認知度を高める行為」が、その土地の味を作る。

現在はコンビニエンスストアの普及により、こうした状況にも変化がある、と聞いている。しかし、1960年代から積み重ねた「食品流通の構図」と「食の伝統」は、コンビニの棚にもいまだ影響力がある。

ただ、そこをひっくり返す商品も生まれる。前出・カップ焼きそばがその好例だ。1980年代は「東のペヤング」「西のUFO」という状態が長く続いた。しかし1990年代になり「一平ちゃん夜店の焼そば」が登場すると、一気に中部圏ではこれが広がった。いまや三強時代なのだそうだ。どうひっくり返したかまでは、寡聞にして知らない。そこには壮絶な棚争いがあっただろうことは、想像に難くない。

どこでも同じものを食べ、どこでも同じものを売っている、というのは幻想なのだと思う。地域性を無視して生活もビジネスも成り立たない。携帯電話だってIT機器だって、意外と地域差はあるものだ。その辺に着目し、ビジネスを見直して見るのも面白いのではないだろうか。カップ焼きそばから、そんな風に無責任に考えたりもしている。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2014年12月12日 Vol.014 <「おなじみ」の変遷号>目次

01 論壇(西田)
ジャストシステムに聞く「一太郎」の30年とこれからのビジネス
02 余談(小寺)
水素エネルギーに対する根本的な勘違い
03 対談(小寺)
PTAとは一体何か (1)
04 過去記事アーカイブズ(西田)
商品は塗装で変わる
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)

 
12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

 

ご購読・詳細はこちらから!

 

筆者:西田宗千佳

フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

その他の記事

泣き止まない赤ん坊に疲れ果てているあなたへ(若林理砂)
空想特撮ピンク映画『ピンク・ゾーン2 淫乱と円盤』 南梨央奈×佐倉絆×瀬戸すみれ×国沢実(監督)座談会(切通理作)
時の流れを泳ぐために、私たちは意識を手に入れた(名越康文)
「いままでにない気候」で訪れる「いままでにない社会」の可能性(高城剛)
プログラミング言語「Python」が面白い(家入一真)
『戦略がすべて』書評〜脱コモディティ人材を生み出す「教育」にビジネスの芽がある(岩崎夏海)
古都金沢を歩きながら夢想する(高城剛)
ビッグマック指数から解き明かす「日本の秘密」(高城剛)
蕎麦を噛みしめながら太古から連なる文化に想いを馳せる(高城剛)
IT・家電業界の「次のルール」は何か(西田宗千佳)
小保方問題、ネトウヨとの絡み方などなどについて茂木健一郎さんに直接ツッコミを入れてみた(やまもといちろう)
成功する人は「承認欲求との付き合い方」がうまい(名越康文)
2015年買って良かった4つの製品(西田宗千佳)
ライカのデュアルレンズを搭載したスマートフォンの登場(高城剛)
他人と和解したければまず「身体を動かす」ことから始めよう(名越康文)

ページのトップへ