小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

やっと日本にきた「Spotify」。その特徴はなにか

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年9月30日 Vol.098 <秋は腹ペコ号>より

9月29日(すなわち、このメルマガが発行される前日だ!)、Spotifyが日本参入を正式発表した。4年前から「来る」と何度も言われ、「NetflixかドコモのiPhoneかSpotifyか」と一部では言われていたが、ようやく発表に至った。詳しい発表会のレポートや、ダニエル・エクCEOのインタビューはAV Watchの方(9月29日中には公開されているはずだ)を見ていただくとして、ここではサービスのプレビューと発表会のこぼれ話をお伝えしたい。

・「音楽と生活」を推すSpotify

・発表会場。アーティストからのメッセージビデオもすべて「Konnnichiwa JAPAN」で始まった。

さて、Spotifyとはなにか? 発表会の冒頭で、Spotify JAPANの取締役であるハネス・グレー氏は「われわれはテクノロジー企業ではない。テクノロジーを利用する音楽企業だ」と語った。ある意味あたりまえなのだが、この辺がSpotifyの言いたいことであり、本質とも言える。

アップルにしろAmazonにしろ、「オンライン配信」の第一世代=ダウンロード販売からスタートしている企業は、楽曲を「買ってもらう」ためにお勧めし、プロモーションする。しかしSpotifyが(実質的に)生み出した第二世代のデジタルミュージックである「ストリーミング・ミュージック」は、楽曲を「買う」形になっていない。正確にいえば、第一世代の事業者が移行したモデルでは「買う」ものとのミックスモデルになっているが、それは「後付け」といってもいい。

ストリーミング・ミュージックは「聞き放題サービス」と言われる。だが、それはサービスの性質を正確に表したものではない。音楽の聞き放題サービスに「価値を見いだしてもらう」ために、「好きかもしれないけれど知らない曲」を発見する機能を強化しているのが、Spotifyなどのストリーミング・ミュージックなのである。

いつも聞く曲がだいたい同じなら、わざわざ毎月お金を払う必要はない。ディスクでもダウンロードでもいいので「買えば」いい。聞く回数が増えればそちらの方がお得だ。使い方も今まで通りでシンプルである。しかし、大量の曲から「聞くかも知れない曲」に出会う姿を実現できていれば、それは新しい価値になる。

放送局のCDライブラリーやタワーレコードに放り込まれて、「なんでも好きな曲を聞いていい」と言われても、きっと誰もがまごつく。知っている曲を見つけて、それから聞いていくはずだ。だが、隣にDJがいて「君にはこれがいい」と言ってくれれば、知らない曲にも手を出すだろう。Spotifyなどがやっているのは、要はそういうことだ。だから、SpotifyアプリのHome画面も、いきなり「プレイリスト」である。無料プランは、楽曲を選んで聞く「オンデマンド」に再生時間の制限があり、「プレイリスト」なら無料になる。

・SpotifyアプリのHome画面。最近聞いたプレイリストと、聞いた楽曲をベースにした「おすすめ」が並ぶ。

「君にはこれがいい」が有効に働くには、お勧めのクオリティが高くなければならない。だから、ストリーミング・ミュージックの企業は必ず「AIとビッグデータ」の会社になり、音楽を知るキュレーターの能力に頼るのだ。そこにIT企業としてのアイデンティティが生まれる。

Spotifyが先行サービスと違う点をひとつ挙げるとすれば、いわゆる「ヒットチャート」の中に「バイラルチャート」があることだ。これは、Spotifyからソーシャルメディアへシェアされた量をベースにしており、一般的なヒットチャートとは異なる。こうした手法をうまく採り入れ、楽曲発見に活かしているところが、Spotifyの先進的な部分とも言える。

・Spotifyの特徴でもある「バイラル」でのチャート。いまは日本のものがまだないが、どういうランキングになるか楽しみだ。

一方で、ちょっと見た限りでは、楽曲のラインナップは他社と極端に違わないように思える。また、無料プランが差別化点ではあるものの、有料プランの料金は他社と同じ水準である。そして、ここまで説明したようなサービスの概要は「毎日、彼らが想定する使い方」をしてみないとピンとこない。

こうしたこともあり、Spotifyが「絶対日本でもヒットする」と、筆者には断言できるだけの要素がまだない。しかし逆にいえば、「音楽配信の使い方」が、他国同様日本も変わってくるかどうかの試金石にもなり得る。

この辺は、色々な人の意見が聞きたい。洋楽聞きの小寺さんなどがどういう反応をするのか、実は楽しみでもある。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年9月30日 Vol.098 <秋は腹ペコ号> 目次

01 論壇【小寺】
 Uberの本領発揮なるか。Uber Eats始動
02 余談【西田】
 やっと日本にきた「Spotify」。その特徴はなにか
03 対談【小寺】
 地方から世界に打って出るよしみカメラの秘密 (4)
04 過去記事【小寺】
 パソコンは“終わってしまう”のか
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。   ご購読・詳細はこちらから!

その他の記事

今年もウルトラデトックス・シーズンがはじまりました(高城剛)
「試着はAR」の時代は来るか(西田宗千佳)
フレディー・マーキュリー生誕の地で南の島々の音楽と身体性の関係を考える(高城剛)
21世紀型狩猟採集民というあたらしい都会の生き方(高城剛)
『外資系金融の終わり』著者インタビュー(藤沢数希)
週刊金融日記 第281号 <Pythonで統計解析をはじめよう、北朝鮮ミサイル発射でビットコイン50万円突破>(藤沢数希)
百田尚樹騒動に見る「言論の自由」が迎えた本当の危機(岩崎夏海)
暗黙の村のルールで成功した地域ブランド「銀座」(高城剛)
PCがいらなくなる世界(小寺信良)
Tカードは個人情報保護法違反に該当するのか?(津田大介)
企業のトップストーリーについて思うこと(やまもといちろう)
有料のオンラインサロンを2年やってみて分かったこと(やまもといちろう)
公職選挙法違反――選挙期間中にやってはいけない行為とは(津田大介)
人間の場合、集合知はかえって馬鹿になるのかもしれない(名越康文)
週刊金融日記 第277号 <ビットコイン分裂の経済学、ハードフォーク前夜の決戦に備えよ他>(藤沢数希)

ページのトップへ