やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

仮想通貨(暗号資産)相場は何度でもバブり、何度でも弾ける


 というわけで、一時期は600万円台を付けていたBTCも相場は一服、いまでは400万円を割る動きになっていて、いろいろと周囲も阿鼻叫喚であります。

 かくいう私と言えば、随分低い金額でちょっぴり持っていたものが、リアルの忙しさにかまけて放置していた状態からダーッと上がって、ダーッと下がってきたという点で「何も起きていなかった」という結論になるわけですが。

 この実需をさほど伴わない暗号資産関係は相場観というものがあまり存在せず、大量保有者やテスラ社のような目立つ取引者の動きによって上がったり下がったりするだけの市場環境ですので、FXとはまた違った雰囲気の思惑相場が繰り返されることでしょう。

 YouTubeでも語りましたが、個人的にはいわゆる資産バブルの局面においては、ドルや円などの既存通貨がどんどん市場に流れ込んで「有限なもの」「有望なもの」から買われて値段がどんどん吊り上がる反面、同じ「有限なもの」同士の価格で見比べると実は価値としてはたいして上がっていません。要は、政府が発行し中央銀行が管理するという意味での貨幣の価値が、コロナ禍での景気対策の名目で大幅に下落し、金利も上げられない状況で、これらの有限な品物に対して価値を失っただけであると言えます。

 BTCのような暗号資産も、いちいち電力をかけてスクラッチして当たりを引かないと採掘されないという意味において有限であり、有限であるからこそ商品に対するヘッジとして値段が付き、テスラ社ほかさまざまなアナウンスがあるごとに翻弄されて上がったり下がったりするというギャンブルになるのも仕方がないところです。実需はさほどありませんから。

 SPACであれ暗号資産であれ、カネ余りが世界的に続いているからこそのバブルであって、南海泡沫事件とさほど変わりはないのですけれども、他方でそのバックグラウンドになっているのはSDGsも含めた「持続可能な社会にしていこう」というムーブメントや、脱炭素社会のお題目と共に国や社会、企業に課せられる制約を当たり前のように受け入れていかなければならない現実の問題です。こんなものに右往左往させられて情けないと嘆きたい面もありますけれども、どこぞ大きな資本が外資系コンサルや広告代理店経由でどんどこメディアを使い、ある種の「洗脳代理店」的なアプローチで刷り込みに入っているので始末に負えません。

 さらには政府中枢にもこれらの息のかかった人物が参与や広報アドバイザーとして政府要職や閣僚の付近で耳打ちをしている現状がある限り、それらが仮に日本政府や産業にとって不利な条件がそろっているのだとしても「全力で取り組む」と疑いなく前のめりになり、自分のところの産業だけが痛い思いをして対応を余儀なくされるということが繰り返されます。まるで橋本行革時代の外圧による制度変更のようです。

 最近になって、いきなり脱炭素2050年までに46%を再生エネルギーによる電源開発とする環境大臣・小泉進次郎さんのネタが登場し、みんなで「そんなことは可能なのか」と首をかしげました。その後、有志が情報開示請求を環境省にかけたところ、試算として脱炭素の電源開発を具体的に将来推計で積み上げたという数字はまったく出てこず、菅義偉政権の中で、ある種の思い付きの努力目標をそのまま発表しただけということが判明して、さらにみんな首をかしげる事態になったのは印象的です。

 どうにもこの世界は米中対立と、緩衝材としての気候変動問題が軸足となって、いろんな制約を社会や企業活動に課していく世界観でしばらくは行きそうな感じです。

 ここで、冨山和彦さんがTwitterで公益資本主義について明快に書いておられますが、いくらお題目のSDGsだよといったところで、経営不振にあえぎリストラしながら何とかROEを積み上げている日本企業にとって、持続可能かどうかは社会じゃなくてお前らの会社のほうだろというのはあります。しかしながら、これらのお題目が成立しない企業が仮に国際的なサプライチェーンから弾かれ、監査の名目で企業の中に大手を振って入ってくるような事態になれば、それこそ技術や人員の流出も待ったなしな展開に陥ることは間違いありません。

 私たちがまず何に騙されないようにするべきか、というところから物事を考えていかなければならないのですが、世間で出回っている議論を見る限り、なかなかよろしくない方向に我が国はどんどん向かっていっているのだなあという感が強いのであります。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.333 我が国のコロナ対策行政にかかわって思うことや、壮大な濡れ衣話、国際政治に翻弄されつつあるSNSなどについて語る回
2021年5月1日発行号 目次
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【0. 序文】偉い人「7月末までに3,600万人高齢者全員に2回接種」厳命という悩み
【1. インシデント1】「それ、ボクじゃありません」スペシャル
【2. インシデント2】国際政治の中で色々と責任を負わされつつあるSNSはどこへ向かうのか
【3. インシデント3】コロナ下の結婚観と出生数減少の微妙な関係について
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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