石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』より

人生における「老後」には意味があるのでしょうか?

石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』2016年7月8日Vol.25より



【Q】「老後」に希望が感じられません

最近は子どもを作らずに夫婦だけで過ごすという方も多いようです。でも、それって老後に相手に先立たれたら、さみしいような気がします。いや、人間誰しも、老いたら寂しく過ごすものでしょうか。そうだとしたら、この先に希望もなく試練しかない気がします。人生において老後にはどんな意味があるのでしょうか。

 

【A】そもそも人生に意味なんてない。希望は自分で作るものではないでしょうか

えー、老後に?

その前にですね、人生とか命っていうものに意味はないよね。

例えば海の中の海底火山とかにブクブク熱水が湧くじゃないですか。ああいうところでしか生きられない海の生き物ってたくさんいますよね。海の底の真っ暗な熱いドロドロの温泉しか知らないまま死んでいく生物と、人間って、何にも変わらないと思いますよ。自分の意思でもなく、選んだ場所でもないところに、この時代たまたま生まれて死んでいくだけのものなので。

だから意味を作りたいと思えば作れるけど、「何の意味があるでしょうか?」と思っていたら意味は作れないんだよね。

あなたは今イメージだけで語っているじゃない。「年を取ったら悲惨に違いない」って。いやいや、そんなはずないよね。だって今の心を持ったまま年を重ねていくんだから。

例えば、今映画を見たり、お芝居を見に行ったり、あるいは友達と飲んで楽しいと思いますよね。それは年を取っても全く変わらないじゃないですか。その自分の自由時間は、老後にさらに増えていくわけなので。考え方によっては今よりずっと楽しくなるかもしれない。でも、命に意味なんて何もない。その中でどうやって生きたらいいのかということだけしかないんです。

「子どもがいなければさみしい」っていうのも決めつけに過ぎないよね。子どもがいてさみしい人なんていっぱいいるじゃない。子どもに殺される親もいるし、子どもが人を殺すっていうような事件もたくさんあるので。その意味の作り方は自由なので、「さみしい、つまらない老後にならないように、お好きなように生きたらどうですか。でも、そもそも命に意味なんてないよ」っていうのしか答えようがないんだよね。

ただ生まれて死んで、その中でなんとかもがいて、よりよい人生を送りたいと思っているだけ。それが人間だと、ぼくは思うな。

でもそれはカタツムリだってインフルエンザウイルスだって一緒だけどね。そういうこと考えるのであれば、昔の哲学者たちが人生の意味をどう捉えていたのかということを、ちょっと勉強してみると楽しいかもね。

でも、ライオンに食べられるシマウマにも、シマウマを食べるライオンにも意味はないと思うよ。ただおなかが減ったから食べているだけで。人間だって年取ったら死ぬっていうだけでしょ。でもそういう命が満ちている地球に生まれたっていうのがおもしろいよね。月に生まれたら石ころだからね。

 

石田衣良ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』

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石田衣良
1960年、東京都生まれ。 ‘84年成蹊大学卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターとして活躍。 ‘97年「池袋ウエストゲートパーク」で、第36回オール読物推理小説新人賞を受賞し作家デビュー。 ‘03年「4TEENフォーティーン」で第129回直木賞受賞。 ‘06年「眠れぬ真珠」で第13回島清恋愛文学賞受賞。 ‘13年「北斗 ある殺人者の回心」で第8回中央公論文芸賞受賞。 「アキハバラ@DEEP」「美丘」など著書多数。 最新刊「オネスティ」(集英社) 公式サイト http://ishidaira.com/

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