紀里谷和明
@kazuaki_kiriya

紀里谷和明のメールマガジン「PASSENGER」より

恋愛がオワコン化する時代の不幸

※紀里谷和明メールマガジン「PASSENGER」2015年3月20日発行vol.42より。

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「期待値」が高くなりすぎている?

――近頃、「若者の恋愛離れ」が進んでいるというニュース(※)がありました。

個人的な印象なんですが、最近は、女性も男性も恋愛にファンタジーを抱きつつも奥手になっている。一方で評価は厳しくなっていて、お互いに歩み寄れなくなっている気がします。「セックスはしたいけど面倒な恋愛や結婚はしたくない」という男性側の本音があって、結婚願望のある女性はそれを受け入れられない――といったわかりやすいすれ違いもあるとは思うのですが、事態は、もう少しこじれているのかなと。

※今年の新成人男女600人を対象とした意識調査で「誰ともつきあったことがない」若者が、過去最高47.8%を記録した(オーネット調べ 参照)

うーん。一言で言ってしまうと、みんな「面倒くさい」んでしょうね。「恋愛」という手間のかかることをするのが、面倒くさい。

あとはファンタジーと言ったように、期待値が高すぎるというのも、やっぱり問題だと思いますよ。さらに、それを煽るようなことをメディアがやっているでしょう。

「こうじゃなきゃいけない」というのが大きすぎると思います。女性であれば、彼氏は「イケメンじゃないと」「お金は持っていてほしい」とか、男性であれば、彼女は「可愛い子がいい」「優しくないとダメ」とか、思い込んでしまっているじゃないですか。

その期待値のレベルって、ひと世代前より、相当高いと思いますよ。その状態で理想と現実を見てしまうと「恋愛なんて、無理にしなくていいか」と思ってしまうのも、まあ、わかりますよね。男性であれば「AVでいいか」「2次元でいい」と思ってしまうかもしれないし、女の人も「アイドルを追いかけてたほうが楽しい」となってしまうかもしれない。

というのは、自分が期待値を下げなくても、環境が提供する仮想現実のレベルが高いわけだから、誰にも相手にされなかった結果、そうなってしまうということです。

個人的には、周囲の女の子が「あ、無理!」みたいな感じで、異性を切り捨てているのを見ていると、正直「残酷だなあ」って思いますよ(苦笑)。自分の期待値に満たない人を切るスピードが、あまりにも早いなと。

もともと人間同士が関わるのって、「すごく面倒くさいこと」じゃないですか。手間暇かけて人と関わった結果、傷つくこともある。それを、少しずつテクノロジーが面倒くさくないように、解決してきた。関わらなくても済むようにしてきたわけです。恋愛を楽しみたいだけだったら、今は疑似恋愛で済ますという方法がある。傷つかない代償として、俺たちはそこにお金を払っているということだと思います。

ですから、言ってしまえば、今は「恋愛離れ」というよりも「恋愛をしなくてもいい環境がどんどん整ってきている」ということなんじゃないでしょうか。時間をつぶす方法もあるし、擬似的な恋愛もあるし。最近は、恋人ビジネスみたいなものもあるわけでしょう。

――なるべくして、そうなってるということですよね。ただ「果たしてそれでいいのか」というツッコミもありますよね。たそういう疑似恋愛ばかりだけだと人間の想像力が枯れたりしないのかな、と。

それは、でも「デパ地下の総菜を買うな」という話ですよね。そりゃあ、自分で料理したほうが身体にいいだろうし、経済的でしょう。でも、すでに作ってあるものが売っていて、おいしいとなれば、そちらを買う人がいるのは当然でしょう。恋愛を含めてすべてがビジネスになっているから、そうなってしまっているということ。

 

一途な愛が普遍的なものなら、アイドルは次々と出てこない

恋愛や結婚というと「一人と添い遂げないといけない」という話になりがちですけど、もし、みんながみんな、そんなに一途な恋愛ができるんだったら、こんなに次々と新しいアイドルとか出てくるはずはないと思うんですよ。

アイドルを見ていても、残酷なほどに移り変わりが激しいじゃないですか。かなしいけど、人間って、そういう生き物だから、しょうがないんじゃないでしょうか。手軽な疑似恋愛が流行るのも、自然の摂理がそのまま表れているだけなんじゃないかと。

――お話を伺っていると、「恋愛」という概念自体が「終わり」を迎えつつある
んじゃないか? とも思えてきたんですが。

「恋愛」という言葉自体、俺はあまり好きじゃないんですよ。「恋」という概念が入ると、それはもう、交渉ごとなんじゃないか? と思っていて。というのも、みなさんが今、恋人に求めているものってだいたい「条件」なんですよね。「こういう条件でないとつきあえない」「こういう条件の人のほうがいい」というもの。

――そこにあまりとらわれると、不幸になりそうですね。

そう、不幸になりますよ。もう、不幸になっているかもしれない。だから、「一夫一妻制じゃなくて、いっそのこと多夫多妻制になったほうが、変なジェラシーも生まれなくて、いいんじゃないか?」と俺は、ときどき思ってしまうのですけれどね。

 

紀里谷和明メールマガジン「PASSENGER

2015年3月20日発行vol.042
<日本の「新卒一括採用」は本当に謎でしかない><なぜ恋愛離れが起きるのか?>ほかより

361.最近のキリヤ
2.日本の「新卒一括採用」は本当に謎でしかない
3.なぜ恋愛離れが起きるのか?
4.今週のおすすめ漫画
5.Q&A
6.お蔵出しフォト
7.メディア掲載・作品など

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紀里谷和明
映画監督・写真家紀里谷和明。生まれ育った熊本から15歳で単身渡米、全米屈指のアートスクールで建築・デザイン・音楽・絵画・写真などを学ぶ。世界中を旅しながら、PVやCMなど表現の場を広げ、2016年には初のハリウッド長編映画を公開予定。 紀里谷和明公式サイト:Kiriya.com/クリエーターSNSサイト:freeworld.tv

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