高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

「リバーブ」という沼とブラックフライデー

高城未来研究所【Future Report】Vol.494(2020年12月4日発行)より

今週も、東京にいます。

米国は本格的ホリデーシーズンに突入しましたが、いつもならクリスマスに実家に帰ったり、バケーションに行く友人たちも、今年は新型コロナウィルス感染拡大のため、どこにも行く気配がありません。

米国のホリデーシーズンとは、毎年11月の第4木曜日の「感謝祭」(Thanksgiving Day)から一月初旬までの期間を指しますが、実は「感謝祭」の起源は相当曖昧で、何かを感謝するための祭りか、いまだ定かではない不思議な日でもあります。

一説によると、1600年代に欧州から米国にやってきた開拓移民が、本国から持ってきた種子で農耕を始めたところ、米国の土壌に合わず飢饉が起き、餓死者が続出。
その時、アメリカ先住民の助けにより危機を脱したことから、彼らに感謝を表す目的で先住民を招いて収穫を祝う宴会を開いたことがはじまりである、と美談が語られていますが、実は本国から種子だけではなく、インフルエンザなどの病原菌も持ち込んだため、先住民のうち約90%が病気により死亡してしまった、という恩を仇で返すような俗説がまことしやかに米国では語られています。
ただし、何が本当かわかりませんし、もし、これが事実ならリベラルな米国民にとって蒸し返したくない不都合な歴史でしょうから、「感謝祭」の起源を曖昧にするのも理解できるところです。

いまや「感謝祭」は、単なる七面鳥を食べるショッピングデーとして、すっかり定着するようになりましたが、近年、ベジタリアン用に豆腐で作られた七面鳥の形をした不思議な食べ物が大人気となり、年間でもっとも稼ぐ日だったショッピングモールは、新型コロナウィルスの影響以前にオンラインが常態化したことから次々と廃業。
この5年間で「感謝祭」は、まったく別の光景になっています。

この感謝祭の翌日11月の第4金曜日は、年間を通じた米国最大のオンラインセールスデーと言われる「ブラックフライデー」(黒字になる金曜の意)。
一斉に各社サイトで大売り出しがはじまることから、僕も目ぼしいものを事前にチェックし、価格が落ちるのを毎年待ち構えるのが習慣になりました。
いまや、90%オフも珍しくありません。

実は、本日無事発売となった新刊「LIFE PACKING2020」に、うまく掲載できなかったモノがあります。
それが、実際には形がないソフトウェアの数々で、なかでも音楽関連、そのなかでも「リバーブ」に相当入れ込んでいまして、今年のブラックフライデーでも、数多くのリバーブを買い込みました。

ご存知のない方にリバーブをご説明しますと、簡単に言えば「残響音」のことで、音が様々な物体の表面(硬いもの、柔らかいもの、高いもの、低いものまで様々)に反射する自然現象です。
しかし、コンピュータで作られた音源やレコーディング・スタジオでは、特殊な技術やツールを活用して出来る限り空間の音響特性を排除したドライな音が好まれるため、録音したあとに「リバーブマシン」を通し、自然な音に仕上げます。

その昔は、スプリングや鉄板、さらにはテープなどを使った「物理的ハードウェア」がリバーブマシンの主流でしたが、その後、デジタル技術の進化とともにハードウェアの「デジタルリバーブ」が一般化。
そして今日では、ソフトウェアがリバーブの主流となりました。

僕は、このリバーブ・ソフトウェアが相当好きでして、手持ちのプラグインと言われるリバーブを改めて数え直すと、なんと50本以上!
ええ、僕は「リバーブ沼」の住人でもあるんですぅぅぅぅぅぅぅ・・・(←これが、リバーブ効果です!!)。

なかでもコンボリューション・リバーブと呼ばれるリバーブ方式を長年愛用してまして、代表的なソフトウェア「Altiverb」は、世界中の主だったスタジアムやホール、教会、競技場などの実際の空間から測定された音響特性を記録し、いかにもそこで演奏したような残響音を付加できるのが特徴です。
大ヒット映画「ボヘミアンラプソディ」も、「Altiverb」なくして、ラストシーンのライブの臨場感を作り出すことは不可能でした。

さらに「Altiverb」には、オフィス、車の中(フィアット、フォード、三菱ほか多数)、キッチン、トイレ、公園、野外、森、洞窟、花瓶の中、隣の部屋、ビニールパイプの中などの変わった音響特性も記録しています(https://bit.ly/3ofJSKq)。
その上、自分でも「反響を採取」できるゆえ、取り壊しになる建物の「音の記憶」を保存する人たちが世界中で絶えません。

今年の「ブラックフライデー」では、以前から狙っていたコンボリューション・リバーブの「刑務所プリセット」や各社から出た新作リバーブが、数日間だけ格安になったことから次々と購入。
こうして、リバーブばかりが増えていく今日この頃です。

自分としては、海外に行けない現在を憂い、リバーブを購入して、遥か離れた場所の空間性を再現することで旅をしている、と言いたいところですが、それだったら50本もいらないじゃないか! 刑務所の残響は必要あるのか? と言われてしまうところだと思いますが、あらゆる「沼人」は、マイルールで生きているため、なにを言われようが世間の同意を求めないことが鉄則です。

かつて「スターウォーズ」を作ったジョージルーカスが、記者から「宇宙には空気がないため、ビームを出す音だったり、爆発の音だったり音が出ることはないのでは?」との質問に、「俺の宇宙では出るんだよ!」と、一刀両断にマイルールで切り返した逸話があります。

いよいよ日本でもボーナスシーズン&(自分)プレゼントシーズンに突入。
狙っていたものに狙いを定めるのと同時に、突っ込まれた時のために返す刀を研いでおくのも大切だと実感する今週です。 
(もう少しリバーブを買い足したいと考えております、懲りずに、、、)。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.494 2020年12月4日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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