やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

縮む地方と「奴隷労働」の実態



 先日、ブルームバーグで日本の地方経済の現実を端的に表す記事が掲載されていて、「ああ、これか」と膝を打ちました。もちろん、地方経済が人口減少で身動きが取れなくなっている、という本筋は同意するほかありません。

日本一豊かなホタテの村も人手不足で四苦八苦、オホーツク沿岸の猿払

 しかしながら、この記事には「最低賃金では日本人の若い労働者が来ない」ので外国人実習生などに頼らざるを得ない、高齢者はこの先何年いられるか分からないという流れになっています。実のところ、私がほんのり福島県の復興のお手伝いをしているときに、地方の産業に貸し付けている金融機関の諸情報を拝見する機会があり、ほぼ相似形の問題を起こしていたのがこの「奴隷労働」問題です。

 もちろん、使用者側は適法な賃金で労働者を雇うわけですから、本件北海道の事案も復興途上の福島も決して悪い話でもまずいことでもないのです。経営判断として、必要な労働力を入れてくるにあたって、最低賃金でも働き口を求めて人がやってくるのであれば、そんなに給料を上げないという選択肢もあるでしょう。

 しかしながら、地方経済においてはいずれも事業継承ですらも満足に進められないぐらい、人材不足、後継者不足の状態です。経営を続けられるだけのオーナーシップが存続できない以上は、身動きが取れなくなるのは当たり前のことです。身売りしたくても先がなく、継がせたくても継ぐ人がいない経営者は孤独です。

 もしも、本当の意味で仕事を継続していきたいと企業努力を払うならば、常識的には最低賃金にこだわらず、雇用のために給料を引き上げたり、職場を魅力的なものにするために投資をしたり、地域の活性化のために利益を放出して人が働きやすいように、定着するように、未来が見えるように経営することが求められます。地方経済の現実は人口減少で労働力が足りないことそのものよりも、働く人がより良く働ける仕組みを構築するための知恵がないことのほうが多いのが現実なのです。

 「なんてひどい話なんだ」と肩をすくめるのは簡単ですが、問題はそういう地方経済の劣化の上に、我が国の都市生活が成り立っているという現状をどう判断するかです。私が感じるのは、日本には「社会に生きる人を幸せにする技術を欠いている」のではないかという問題意識です。なぜもっと、よりよい社会にするために何が必要であるかを考えないのでしょう。

 そこにあるのは、地方経済の担い手が高齢化していることそのものではなく、むしろ「自分たちの時代は、やりたいこともできないなか、我慢して努力してここまでやってきた」という自負の問題です。つまり、俺も苦労をしたから若い奴らも苦労をするべきだという考えが、どうも日本社会、とりわけ問題を抱えた地方経済のリーダーに多いように見えるのです。

 おそらくは、人口も増えて右肩上がりであった時代の経済で生き残った人の知恵が、高齢化と人口減少社会にはマイナスの効果しか及ぼさなくなっていることに気づくことが無い、気づく機会も無いまま十年、二十年と経営を続けてしまい、いざ安い給料で働いてくれる若い人が身の回りにいなくなってみて初めて嘆いているのが現状だとするならば、日本にとってはまことに不幸なことだと強く感じるわけであります。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.199 地方で正当化されやすい奴隷労働のなぜを問いつつ、Wantedlyは一体何が問題なのかをそれとなくつっこんでみたりする回
2017年8月31日発行号 目次
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【0. 序文】縮む地方と「奴隷労働」の実態
【1. インシデント1】例の「Wantedly」でトラブルが出ている件で
【2. インシデント2】人工知能、機械学習あるいはディープラーニングがまだバズワードでしかないがゆえの安心感だったはずですが…
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。サイバーインテリジェンス研究所統計技術主幹など歴任。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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